世界崩壊少女『初希アイ』(小説版)
ウゴクヨミヒル
プロローグ:スマートフォン
雷鳴が街を突き抜け、ゴミ置き場のすぐ上で激しく閃いた。空が真っ白に染まり、その刹那、重低音が地を揺らすように轟き渡る。建物の壁がきしみ、アスファルトがわずかに震えるのを、足の裏が確かに感じ取った。彼女は反射的にその場に踏ん張り、全身をこわばらせる。
「うわっ……!」
突き刺すような雷音に、鼓膜が悲鳴を上げる。胸の奥にドンと響く衝撃。心臓が跳ね、息が止まりそうになる。目の前で空が眩く爆ぜ、視界のすべてが光に塗りつぶされた。
思わず立ち尽くすも、それは数秒の出来事。雷は遠ざかり、次第に音も光も引いていった。静けさが、じわじわと周囲を包み直す。
その夜、アイは近くの廃墟へと身を寄せた。誰もいない街。風が吹けば、割れた窓ガラスがカタカタと鳴り、壊れかけた壁の隙間から冷たい空気が流れ込む。ビルの一室、かろうじて屋根の残った空間を見つけ、彼女はそこに身を沈めた。
天井のない部分から星がのぞく。静寂に満ちた夜空に、無数の星が滲むようにまたたいていた。眠れるかはわからない。でも、目を閉じる。ここで目覚められる保証など、どこにもないのだから。
朝。空は驚くほど青く澄みわたり、昨日の嵐など初めから存在しなかったかのようだ。雲ひとつない空が、無神経に光を落としている。冷えた空気が肌を撫で、アイはゆっくりと目を覚ました。
ぼんやりと外を見つめていたが、やがて、内側から鈍い痛みが湧いてくる。お腹の空きだ。そろそろ、また探しに行かなければ。
「……また、探さなきゃ」
小さくつぶやき、リュックを背負って立ち上がる。深く息を吸い、朝の静まり返った商店街へと足を踏み出した。
道の上に響く、自分の足音だけ。崩れたビル、亀裂の入った舗装、風に転がる空き缶。あちこちに散らばるゴミの山が、この街がもう「人の場所」ではないことを物語っている。食べ物、水、道具――生き延びるために必要なものを求めて、ただ歩き続けた。
ゴミ置き場にさしかかると、自然と視線が下がる。そこには、もう何度も見てきたものたちがあった。割れたテレビ、錆びた自転車、膨らんだバッテリーのスマートフォン。どれも、使える見込みのないガラクタばかり。
ため息がこぼれる。いつもと変わらない、がっかりするだけの風景だ――と思った、その時だった。
「……あれ?」
瓦礫のすき間。汚れたスマートフォンの画面が、かすかに光っていた。割れてはいるが、確かにほのかな明かりが点滅している。なぜか、目が離せなかった。
動くわけがない。でも――。
「……動くの?」
思わずつぶやき、そっとしゃがみ込んだ。指先で触れた瞬間、ピカッと画面が明るく輝く。息が詰まるほどの衝撃に、思わず胸が跳ねる。まるで生き物のように、端末が目を覚ましたかのようだった。
画面には、「X」のアイコンが浮かび上がっていた。
見覚えのあるそのマークに、指が自然と伸びる。タップすると、キーボードが静かに現れた。なぜこれが動いているのかは分からない。でも、いまこの瞬間、手の中にあるそれが確かに機能している。
手が震えながらも、文字を入力し始めた。戸惑いと期待と、ほんの少しの怖さを抱えながら。
『孤独な日々、希望だけが私を駆り立てる。他の生存者はいるのだろうか…? #X #希望 #孤独』
送信ボタンを押す。数秒後、画面には自分の投稿が表示された。その投稿を、じっと見つめる。
返事は、来ない。画面には何も変化がない。ただ、周囲の風だけが静かに吹いていた。
スマートフォンを握りしめたまま、しばらく動けずにいた。時間が止まったような感覚。自分の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえる。
やがて、現実が戻ってくる。「返事なんて、来るわけないよね」と、小さく笑って、スマートフォンをポケットにしまった。
視線を上げると、荒れた街がまた広がっていた。
食料、水、道具。生きるために探さなければならないものは、まだたくさんある。
少しだけ肩を落とし、それでも足を前に出す。わずかでも希望がある限り、歩くしかないのだ。
https://x.com/AI_HATSUKI/status/1882336840147173418
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