12
話を一度切り、話のスジをまとめようと電車内を見渡す。
いつもと変わり映えのしない平日の車内。仕事帰りの人たち。俺たちと同じ高校生のグループ。大学生ぐらいのカップル。皆、それぞれに話をしたり、スマホを覗いたりしている。
「そっか、だから桁数の情報が必要だったと」
「そうだ。でも横川先輩は知らなかった。だからちょっと困った」
「うん、それで、それで?」
俺の身長は標準だが夏海は平均より低い。だからすぐそばで話をするとどうしても下から目線を受ける格好になる。目を輝かせて見上げてくる彼女がちょっと眩しすぎて俺は目を逸らしてから説明を再開する。
「そこであの奇妙な貼り紙が目に留まった。あの下手くそな絵は異質感丸出しだったからな。重要な手掛かりかも知れないとすぐにピンときた。そして絵だ。大樹のそばを歩いて行く五人の人影。そう言えば夏海も気づくんじゃないか、それが何を意味しているか」
チラリと目線を戻すと夏美は顎先に指を当てて、電車の天蓋に視線を漂わせていた。
「えー、分かんないよ。降参」
「じゃあヒント、これは漢字だ」
「漢字?」
「木のそばを行くんだ。何という漢字になる」
「『木』と『行く』……あ、『桁』か」
「その通り、そして人影は五人。だとすると?」
「なるほど、そっか! 暗証番号は五桁ということになるね」
しっかりと頷いてやったところでアナウンスが響き、俺たちの最寄駅の名を告げる。そして電車が速度を落とし始め、俺と夏海はともにドア口の取っ手を握り、しばらくの間、慣性の法則に逆らった。
改札を抜け駅舎を出るとやけに生温い風が正面から吹きつけた。
茜色をしていた空は息を潜めるように東からそろりそろりと夕闇へと転じている。
まだまだ人の往来が目立つ駅前商店街を俺と夏海は横並びになって抜けていく。
「でも暗証番号が五桁になっても候補の数字は複数残ってるよね」
「ああ、除外できたのは二つだけだ。つまり『11088』『11550』『23554』『29154』『20736』は残った」
「そこからどうやってひとつに絞り込んだの」
買い物帰りだろうか。母親に手を引かれた女の子がよそ見をしていて俺にぶつかりそうになる。俺はいったん足を止めてその子をやり過ごし、歩き始めの一歩に合わせて再び口を開いた。
「絵の上に書いてあっただろ。『文芸部員たる者、すべからく輪をもって事にあたるべし』」
「書いてたっけ、そんなこと」
精肉店の店先からコロッケの香ばしい匂いが漂ってきて急に空腹感を覚えたが、それに抗うように俺は話を進める。
「書いてたんだよ。そして五桁を示したその絵の上の文言に意味がないはずがない。そう考えると『すべからく輪をもって事にあたる』が何を指しているのかは自ずと明らかになる」
「どういう意味なの?」
「あのな、ちょっとは自分で考えろよ」
「分かった。考えてみる。えーと、輪だよね。輪、ワ、ワ……あ、もしかして足し算の『和』?」
その通りだと頷いてやると夏海はガッツポーズをして「やった」と小さく叫んだ。
「となると候補の中で足し算で導き出された数字はひとつだけ。部訓に隠されていた数字『23554』だ」
そう絞め括ると夏海が「おー」と妙に間延びしたささやかな歓声を上げ、加えてパチパチと数回手を鳴らした。だからといって胸を張ったつもりはなかったがちょっとだけ背筋が伸びた気がして苦笑いが漏れる。
俺たちはいつのまにか商店街を抜け、入り組んだ住宅街の細道に入っていた。
家はもうすぐそこだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます