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「肝心なものって?」


 その問い返しに軽い眩暈を覚えた俺はため息をこらえて答える。


「決まってるでしょう、金庫の鍵ですよ。鍵が無ければいくら番号が分かっても開けられませんから」

「ああ、鍵ね。うん、持ってきてるよ。なぜかこれだけは代々受け継がれて保管されているのよね」


 そう答えた横川先輩がブレザーの胸ポケットから小ぶりな鍵を取り出した。俺はそれを受け取りながら、次いでもうひとつ彼女に問い掛ける。


「あと、この金庫の羽盤が何枚あるか聞いてないですか」

「ハネバン?」

「ええ、このダイアルの奥には何枚かの羽盤が重なっています。そこにそれぞれ一ヶ所ずつ切り欠きがあって、かんぬきがその全てに引っ掛かることで解錠できる仕組みになっているんです。つまりそれが番号を合わせるということですから当然ですが、羽盤が何枚あるかで番号の桁数が変わってきます」


 自分としてはこれ以上ないぐらい分かりやすく説明したつもりだったのに横川先輩はいつまでもポカンとしたまま宙に視線を漂わせている。


「……えーと」


 継ぐ言葉を探して後頭部を掻くと堂林先輩が助け舟を出してくれた。


「要するにこの金庫を開けるための数字が何桁か知らないかってことだよね」

「ああ、そういうこと。でもごめん、そういう情報は伝わってないなあ」


 横川先輩が手を合わせて謝ると同時に夏海の肘が俺の横腹を抉る。


「いッ……てえ、なにすんだよ」


 脇を押さえて抗議の目線を向けた俺に、けれど夏海はそれ以上に居丈高な目つきで睨み返した。


「だいたい未知瑠の言葉がむずかし過ぎるからいけないんだよ。てか、そんな金庫トリビアなんで知ってんの?」

「うっせえなあ。この間、テレビで観たんだよ。ほら、お蔵とかで眠ってた金庫を開ける奴、最近よくやってんだろ」


 夏海は「ああ、なるほどね」と数回肯首してから、さらに訝しげな瞳で俺を見る。


「でも、そんな情報いくら知ってても、結局番号が分からないと金庫は開けられないんでしょ」

「まあ、そうだな」


 外連味もなく頷くと堂林先輩が口を挟んだ。


「テレビ番組なんかだと確か、聴診器とか使ってかんぬきがその……切り欠けだっけ、それに入る音を聴き取ったりするんじゃなかったっけ」

「ええ、俺が観た番組でもそんなことしてましたね。それに鍵がなかったからピッキングしたり、ドリルで壊したり」


 欧米人を真似て肩をすくめると横川先輩が背後で小さな悲鳴を上げた。


「ええーッ、さすがにそんな道具なんて用意してないよ」

「はあ。ていうか、たとえ道具があっても専門の業者じゃないとそんなの使えませんし」


 呆れて振り返ると彼女は力なく肩を落としていた。


「はあ、やっぱり無理かあ」


 俺は恨めしそうに金庫を見遣る先輩をひとしきり眺め、それからおもむろに視線を巡らせた。するとさっきは見えなかった貼り紙のいく枚かが目に留まった。

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