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侮られるのは一向に構わないが、買い被られることは我慢ならない……的なことを作中で打ち明けていたのは最近読んだ某ミステリ小説の主人公であったような気がする。
その彼にひとつ謝っておきたい。
悪かった。
読んだときはその主張にあまりピンと来なかったがその通りだった。
そして俺は明日は我が身という慣用句を今、痛切に実感している。
文芸部部長、横川つむぎが俺のことを探偵と呼んだからには堂林先輩のある未遂事件について彼女は少なくとも大まかなところは知っていると推察できる。となれば彼らは充分に親密な関係、つまり親友なのだろう。ならばもしかすると二人はこのもっともらしい開かずの金庫問題を出汁に余興を楽しもうとしているのかもしれない。
そう考えると全く以て腹の立つ話だし、いっそ臍を曲げてこの廃校舎から立ち去ってしまうという勝手も許される限度内か、と思案しかけたところでさっきから「ねえ、探偵って何よ。教えてよ」と何度も責付いてくる夏海の存在がそれを許さないことに気づく。
俺はあらためてげんなりと肩を落とし、それから毒を喰らわば皿までかと暗澹たる諦観を浮かべて教室を見渡した。
やはり古い、というかもはやこれは廃墟といって良い様相だ。朽ちた窓枠や板床、至る所に蜘蛛の巣が張られた天井など、その様相は二十年前まで使われていたことさえ怪しく思えるほどに。そして何より埃っぽい、が、ここはそれほど黴臭くないのが救いだった。廊下側の窓はシートなどで塞がれてほぼ全滅だったが教室の窓ははいくつか生き残っていて二つ、三つのその窓が開けられ木立ちをすり抜けた西陽とともに外の空気を間断なく取り入れている。そのおかげだろう。
右を見ると朽ちてやや傾いた教卓と壁一面に広がるくすんだ緑色の黒板がある。そこには引っ掻いたような傷が無数についていて、よく見るとチョークで書かれた文字もそのそこかしこにうっすらと残っているようだけれど判然としない。明るい光のもともう少し近づけば読み取ることができるだろうか。
目線を浮かせると黒板の上に埃まみれの大きな時計がかかっていた。無論、時は刻んでいない。変色したガラス板の向こうで針は 十一時 四十二分 二十四秒か二十五秒付近で止まっている。その横に錆びた押しピンで留められた貼り紙があった。もとは純白の用紙であったと思われるその薄褐色の紙面には部訓なるものが達筆で記されていた。
『萬代高等学校文芸部員たるもの、壱に書き、弐に読み、参に評して、始終論じよ。さすれば海千山千、千変万化、文芸の至高なる頂きさえもやがてそのまなざしに遠からん。第四十八代文芸部部長 五百旗靖友』
なんのこっちゃ。
首を捻った俺はおもむろに左に目線を転じる。するとおそらくはかつて文芸部がここを使っていた頃の名残なのだろう。教室にある机はいくつかのまとまりに分けられ大小の島を作っていた。
そしてさらに目線を移すと後方の壁にもいく枚かの貼り紙がくっついている。俺の視力は可もなく不可もなく、メガネを掛ける必要はないといった程度。この薄暗さでは遠目に何が書かれているのかよく分からない。
まあ、別にいいだろう。
まさか貼り紙に金庫を開ける方法が書かれているはずもない。
やや目を凝らしつつ右隅へと視界を転じればようやくそこに目的の遺物を捉えた。
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