積み立て勇者 〜読むだけでお金が増える? お金の知識で勝ち組人生を満喫する予定だった俺が、異世界に転移させられたばかりか謎スキル【インデックス投資】を付与されてしまった件〜

アイラ

①美人姉妹との出会いと、冒険生活のはじまり

おっさん、異世界に立つ

第1話 女神の遊び心と映像特典 〜インデックス投資について

 異世界に転移するにあたって、まずは謎の上位空間(白が基調で、ムダに広い)で神さまと面談するのはよくある話だ。


 なので、俺こと「井出いで 楠斗史くすとし」は、冷静に事態の推移すいいを見守っている。


 令和の日本という経済的な閉塞感へいそくかんただよう社会の中、二次元の創造物に生きる喜びを見出している中堅サラリーマンの俺にとっては、この程度の展開は想定の範囲内なのだ。




「こんにちは〜。だいたい現状が分かってる感じですかぁ?」


 大方の予想どおり、西洋の女神さま的な美女が目の前に出現した。


 系統としては、軽いノリでいくタイプの神さまのようだ。


 ありがちなギリシャ神話風(?)の、肩や胸の谷間を丸出しにした白い布みたいな服装をしている。


 とはいえ相手は神さまらしいので、ていねいな言葉づかいと態度を心がけるべきだろう。


「こんにちは。だいたい分かっているとは思うんですが、どうなんでしょうね。私の心まで読めるタイプの神さまですか?」


 異世界上級者(?)を気取ったせいで、大事な情報を聞き漏らしたら困る。


 ここはしっかりと確認しておいたほうが良いだろう。


「すみませ〜ん。やろうと思えば出来るのですが、みなさんの心情を考慮して、なるべく心を読まないようにしているんです〜」


 たしかに心を読まれているとなると、いろいろと恥ずかしい。


「わかりました。それじゃあ、ちょっと待ってください」


 いったん言葉を切ると、「俺は突然の超常現象に驚いている平凡なサラリーマンだ。予想外な展開には弱い常識人だぞ」 と頭のスイッチを切り替える。


 そして、わざとらしいほど驚いた表情を作り、周りをキョロキョロと見回す。


「うわぁ〜、なんだここは?さっきまで俺は、自分の部屋にいたはずなのに!」


 これで、女神も状況を説明してくれるはずだ。


「ご協力ありがとうございます〜。それでは⋯⋯、あなたは運命により選ばれし者。これより、異なることわりが支配する世界へとおもむいていただきます」


 まあ、そんなところだろう。


 女神に向けてうなずき、先を促す。


「これから向かう世界であなたの特性を活かすために、特別な力を与えましょう。あなたの事を教えて下さい」


 自己紹介をすれば良いのだろうか。




井出いで 楠斗史くすとし・サラリーマン・独身。趣味は読書・ゲーム・動画の視聴。ライフワークは『インデックス投資』です」


 ちなみに読書の内容は主にラノベやマンガにハードボイルド、動画視聴の内容はアニメやマンガ関連に加えて投資系や勉強系が多い。


 学生時代は学業など苦痛以外の何物でもなかったが、おっさんになると不思議と知識欲がいてくるのだ。


「ええと……、永遠の三十八歳は、まあ、こちらで実年齢を把握していますので良しとしましょう。インデックス投資というのは、あなたの生まれた世界で最近になって誕生した概念ですね。ライフワークということは、日々インデックス投資にはげまれているということで?」


 神さまといえど、地上の細かいことまで全て把握しているわけでは無いらしい。


「インデックス投資は、別名『ったらかし投資』などと呼ばれておりまして、日常的にやるべき事はないんです。なので、普段は意識すらしていません」


「ほほう。それでもライフワークと?」


「そうですね。インデックス投資をするためには、資金が必要ですから。それを確保するために、日々の家計管理に励んでいます」


 ていうか、神さまを相手にして、俺は何を言っているんだ?


 しかし神さまは感心したようだ。


「素晴らしい心がけですね。ではあなたに与える特別な力はにしましょう」


 え?


 神さま、なんかおかしな事を言い始めたぞ?




「ええと、異なる理が支配する世界って『剣と魔法の世界』みたいなところですよね?」


「はい。ぶっちゃけて言えば、そうなります」


「その世界設定で『インデックス投資の力』って、おかしくないですか?もっと普通はこう、剣の才能とか魔法の才能とか、そういうのでしょう?」


 そう俺が言った途端に、女神の表情にかげりが見えた。


 瞳から生気が失われ、唇が「への字」にゆがむ。


「はぁ〜、またそれですか。そういうのは、ちょっともう、飽きちゃったというか⋯⋯」


 おいおい。


「いやでも、俺にとっては重要な選択ですよ。そんな『ちょっと面白いこと思い付いた』みたいなノリで決められても困ります」


「いいえ。そういう遊び心こそが世界に革新をもたらすのです。神の慧眼けいがんを信じなさい」


 いやいや、「遊び心」って言っちゃってるじゃん。




「すみません神さま、どうかご再考⋯⋯」


 どうにか下手に出てみるが、女神は俺の言葉を最後まで聞いてはくれなかった。


「はい、もう決まりで〜す。あなたの能力は『インデックス投資』に決定しました〜」


 女神はそこでいったん言葉を切ると、真面目な表情を作って俺の顔をのぞき込んだ。


「大丈夫。すぐに地球をリサーチして、素敵な能力を考えますから!」


 それって、「具体的な事はまだ何も決まっていない」っていう意味ですかね?


「お願いします。中身に関してはふざけないで、『遊び心』とかよりも、とにかく役に立つ能力にしてくださいね!」


「わかってますよ〜。具体的なことは、あちらの世界に着いてからのお楽しみです。期待していてくださいね」


 投げかけられた笑顔は素敵だが、肝心なのは「」だ。


 信用していいものなのか疑問ではあるが、こうなってしまっては女神の采配さいはいに賭けるしかない。


「ほんとうに、どうぞよろしくお願いします」


 俺は文字どおり、神に祈った。




「他にもいろいろと教えてくれるタイプの神さまですか?」


 これも肝心な質問だ。


「ご自分で実際に体験して確かめられたほうが楽しめると思いますが、どのような疑問をお持ちで?」


 異世界から来た人間が簡単に楽しめるような、お気楽な世界設定なのだろうか?


「まず、言語はどうです? 俺の言葉が通じる世界ですか?」


 女神は目をパチクリさせながら俺を見つめた。


「けっこう慎重なのですね。大丈夫です、言葉は通じますよ」


「自分のステータスとかが見れる世界ですか? 俺の外見とか年齢はどうなります? あと、世界観は中世ヨーロッパ風ですか? ウイルスとかは存在しますか?」


 矢継やつばやに疑問が口から飛び出す。


 寝る前に布団の中で、「自分が異世界へ行くことになったら、まずは確認すべきこと」を妄想していたことが役に立った。


 だが俺は、根本的なミスを犯していた。


 会話の際には、相手の性質をよく見極めなければならなかったのだ。


 再び女神の表情が陰り、瞳からは生気が失われ、唇が「への字」に歪む。


「あ〜、もう、面倒くさい⋯⋯。そういうのは、行けば分かりますって〜」


 コイツは、ダメだ。


 神さまの世界にも、令和の日本のような閉塞感へいそくかんが漂っているに違いない。


 この女神にしても、ギリギリの人員配置の中で懸命に働きながら、先の見えない人生(神生?)に不安を抱えているのだろう。


 俺は神に同情した。




「すみません、神さま。不安のあまり、過剰かじょうに甘えてしまいました」


 女神のテンションの低い状態のまま『インデックス投資の能力』を創造させたら、とんでもないハズレ能力をつかまされる恐れがある。


 それだけは、何が何でも避けなければならない。


 そのためなら、下手したてに出るくらいはどうという事もない。


「神さまというお立場も、いろいろとご苦労がおありでしょう。お察しすることができず、申し訳ありませんでした」


 女神の表情が、穏やかで余裕のあるものに戻った。


「あ、いえいえ、ご心配には及びませんよ〜。それでは、そろそろ参りましょうか」


 いよいよか。


「はい、よろしくお願いします」




「あ、その前にひとつ、いいものを見せてあげましょう。オマケです」


 女神が眼前の空間になにやら細工をすると、その場所に長方形のモニターのような物体が浮かび上がった。


 そこに映し出されたのは、パジャマ姿でベッドに寝そべる二人の女性。


 掛け布団の上に横たわっているので、ボディ全体が目に入る。


 どうやら音声は無いようだ。


「おお?」


 まずズームアップされたのは、成人前後らしき女性だった。


 スリムな体型ながらも胸部と臀部でんぶは豊かな膨らみにおおわれ、生地からはみ出た手足は透明感のある乳白色。


 投げ出された頭髪は金色に輝き、瞬きする目には美しいブルーアイが輝く。


 ファンタジー世界にふさわしい、典型的な美女、というか美少女。


「はぁ⋯⋯」


 あまりの可憐な美しさにため息をついていると、画面はもう一人の女性に切り替わった。


 こちらは、第二次成長期を迎える直前の少女といったおもむきで、小さな口を開いてあくびをしている。


 少年と見まがうほどのスラリとした体型に、きめの細かそうな褐色の肌。


 にぶく輝く銀髪に隠れ気味だが、キリッとしたツリ目の中で光る瞳は透明感のある琥珀色こはくいろ


 数年後には美しいレディに成長するだろうが、今はこの時期だけに見られる未完の輝きを放っている。


 再び画面が切り替わり、今度は引いた視点で二人の女性を映し出した。


 夢のような映像に、女神の言葉が重なる。


「あちらの世界で、あなたはこれらの女性たちから好意を向けられるでしょう。今までのつまらない人生では味わえなかった種類の満足感を味わえますよ」


 おいおい、嬉しいけど、待ってくれ。


「なんでつまらない人生って決めつけるんですか」


 これでも、いろいろあった人生なんだぞ。


「不満ですか。美女に好かれる設定、無いほうがいいなら変更しましょうか?」


 急に、スンッという表情になる女神。


「いや、すみません。美女の設定は変えないでください。お願いします」


 ここは平身低頭へいしんていとうに謝る。


 こればかりは、異世界に行く醍醐味だいごみともいえる設定だ。


 プライドを捨ててでも、ゆずるわけにはいかない。


「まあ、いいでしょう。このオマケ部分の会話については記憶を消しておきますので、あちらの世界で新鮮な体験を楽しんでください」


 そんな事もできるのか。


「ありがとうございます。でも記憶を消しちゃうなら、なんで教えてくれたんですか?」


 新鮮な気持ちで出会いを楽しめるのはいいが、消されてしまうのがもったいない気もする。


「読者サービスです。物語の導入部として、お楽しみ部分を先出しするという意味合いもあります」


 当然のことを聞くんじゃないと、表情で訴える女神。


「な、なるほど?」


 そういうものか。


「あと、あなたの役割は、インデックス投資をはじめとするお金の知識を読者の皆さんにお伝えすることですから、がんばってください。この記憶も消しますけど」




 まぶたを閉じた女神が祈りを捧げると、足元の空間が輝きを放ち始めた。


 これが異世界へとつながる「ゲート」のような役割を果たすのだろう。


 まもなく転移が始まるはずだ。


 最後にもう一度、女神に念を押したくなる。


「神さま、『インデックス投資』で良いアイデアが思いつかなかったら、剣とか魔法の才能でも良いですからね!」





 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


 とりあえず第一話です。


 読んでいただき、ありがとうございました。




 もし、お金に困らない人生を歩みたい!


 インデックス投資? もっと教えて!


 美少女二人! 早く登場して!




 と思ってくださいましたら、


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