第4話 自分勝手
それから次のホスト、現在の瑠美の王子様であるカナトに出会った。
「カナトって、優しいし、ほんっと性格いいんだよね。ビジュも神だし。後輩からも慕われてて、人のよさにじみ出ちゃってる。らぶっ!」
瑠美に連れられて、お店でカナトに会ったことがある。
黒髪、まっすぐで高い鼻筋、切れ長の目。前のホスト、マサとは正反対だった。白いシャツに黒いスーツといった王道の組み合わせを上品に着こなしていた。腕には黒いシンプルな腕時計をつけていた。
カナトは瑠美をお姫様のように扱った。
言葉遣いが丁寧で、瑠美の話を聞いては、彼女が喜ぶ言葉を返した。仕草の一つ一つが優雅で、瑠美にふれるときは宝物にふれるかのように丁寧な手つきだった。
二人はお姫様と王子様みたいでお似合いのカップルだった。入る隙間もないほど完璧なカップルを見ていると、自分が透明な存在になってしまったようだった。
それからホストに行く気をなくしてしまい、私がカナトに会ったのは一度きりだった。
マサにはまっていたときよりメンタルは不安定にならず、暴れることも少なくなった。
でもやっぱり瑠美のメンタルは上下が激しかった。カナトは店のナンバー1で、たくさんの客がついていた。瑠美は相当な額をつぎ込んでいたけれど一番ではなかった。
瑠美にエースの写真を見せてもらったことがある。お店で撮ったのだろう。角度からして盗撮だった。年齢は三十代だろうか。ベージュのブラウスに白いスカートを合わせている。胸元まである髪は巻かれていて、上品なお姉さんという雰囲気だった。
「カナトは優しいから、こんなおばさんの相手もしてあげてんの。ぜったい相手にしたくないにきまってる! だからもっとがんばらなきゃ。ルミだけでカナトをナンバー1にするの。カナトはずっと私の卓につくの!」
同担のことを語る瑠美はこわいけれど、エネルギーに溢れて輝いていた。
「カナトのバースデー服、見に行くから一緒に来て」
瑠美にドレス専門店に連れていかれた。
広い空間にはハンガーラックがずらりと並べられ、色とりどりのドレスが所狭しとかけられている。瑠美はその中から迷うことなくドレスを選ぶと、試着をして見せてくれた。
赤の膝丈ドレス、紫の花柄ロングドレス、すそが膨らんだ水色のドレス。
どのドレスも瑠美のために作られたのかと思うほど似合っていたけれど、瑠美は納得がいかない様子で「つぎ!」と店員さんに別のドレスを用意させた。
「これにする!」
試着室の中から歓声があがった。
いきおいよくカーテンがひらいて、瑠美が姿をあらわす。
その姿を見た瞬間、私の心臓は止まりかけた。
純白のドレスに身をつつんだ瑠美は物語のお姫様だった。
肩が出るデザインで、きれいな鎖骨のラインが強調されていた。胸元はレースで花の刺繍とパールがあしらわれている。裾はふわりと広がり、瑠美が動くと優雅に揺れた。
愛くるしく、麗しく、清楚で、可憐で、儚かった。
知り尽くしているはずの瑠美の魅力を新しく発見して夢中になった。
「写真、撮らせて」
スマホを向けると、瑠美は笑顔を浮かべた。わがままで自信に満ちた表情。
どの瞬間も逃したくなくてシャッターボタンを連続で押した。カシャ、カシャと一枚ずつしか撮れないのがもどかしかった。連射モードに切り替えて撮ろうと思ったタイミングで、試着室のカーテンが閉まってしまった。
中にいる瑠美に写真を撮らせてほしいとダメもとでお願いしようか悩んでいると、店員さんに声をかけられた。
「お客様も見られますか?」
「いえ、私はいいんです」
カーテンを見つめながら、瑠美が出てくるのを待っていた。
なんとなくコンビニで飼い主を待っている犬を思い出した。リードでつながれて、飼い主が戻ってくるまではどこにも行けない。
あわれという言葉が思い浮かんで、あわてて打ち消した。
「これお願いします!」
カーテンがひらいた。
瑠美は宝物でもかかえるように大事にドレスを持っていた。
「ルミ、そのドレス、あとでもう一回着てくれない?」
思いきって頼んでみると、瑠美は顔をゆがめた。
「なんで?」
瑠美のドレス姿を見たいから。
そう言ったら「気持ち悪い」と吐き捨てられそうで、何も言えなくなった。
無言で固まっている私に瑠美は言った。
「シワになったらサイアクだから、無理に決まってるじゃん」
「そっか、そうだよね」
私はへらへら笑いながら返した。
切実な思いは隠して、ただの思いつきで頼んでみただけだと思われるように。
「ドレス受け取ったら、クローゼットにかけといて」
「ルミは?」
「私、用事あるから。バースデーのためにお金つくらないといけないの。あのババア、ぜったい殺す」
瑠美はすごい形相になって、私の返事も待たずに、お店から出て行ってしまった。
私は視界からいなくなるまで瑠美の後ろ姿を見続けた。瑠美は振り返らなかった。
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