第1章 突然の出会い

第2話

「あの」


「は、はいっ」

急に声を掛けられて、思わず大きな声が出る。


「重ね重ねごめん。びっくりさせちゃいましたね」

私以上に驚いた顔をしていたその人は、おどおどとこちらを伺っていた。


「い、いえ」

何も悪くないはずなのに、なぜこんなにも申し訳ない気持ちでいなくちゃいけないんだろう。


「ごめん。でもこのリフト結構長いから、何も喋らないのも余計に気づまりなかと思って。お話ししてもいいですか?」

私はどう答えていいのか分からないまま、どうぞと答えた。

どうぞか、面白いですねと言われ、恥ずかしさとともに腹立たしい気持ちになりながら言い返すこともできず、ただうつむく。


「ごめんなさい。急に知らない人が隣に乗ってきて困ったんですよね」


「すいません」


「いや、こちらこそ。あれ、なんだか謝ってばかりですね」

その言い方がなんだか少し滑稽で笑ってしまいそうになり、ほんとですねと答えた。


「改めて。お話ししてもいいですか?」


「はい、どうぞ。いや、どうぞじゃなくて。でも、あの」

少しも進まない会話に、二人して噴き出す。


「今日はお友達と来てるんですか?」

一番聞かれたくないことを聞かれ、びくりとする。


「もしかしておひとりですか?」


「・・・はい」相手を見ずにそう答えた。


「女の子ひとりって珍しいですね」


「やっぱり変、ですよね」自覚していたことを言われ小さくなる。


「いや変なんかじゃないですよ。僕もひとりだし。スノーボードが好きなんですね」


「そうなんです。実は私、今年友達に無理やり誘われてボードを始めたんですけどはまっちゃって。でも下手だからうまくなりたくて。今日もその友達を誘ったんですけど断られて。他の子にも声かけたんですけど誰も捕まらなくて。でもどうしても行きたくて、行っちゃえって思って一人で来ちゃいました」一気にそう言ったことがとても言い訳がましく思われたんじゃないかと思えて、やっぱり一人なんかで来るんじゃなかったと後悔した。

でも「そう、ボードっておもしろいですよね」と言われ、分かってもらえたような気がしてうれしくなる。


安心したとたん、さっきまで見ていたものが雪だったんだと気付いたように白さを取り戻した。


「うん。間違いなくおもしろいよ。僕もまだ下手だから、もしよかったら一緒に練習しませんか?」


「え?いっしょにですか?」思わぬ展開にとまどう。


「だめかな?」


「でも私、ほんとに下手だし・・・」


「もちろんひとりでストイックに滑るのもそれはそれでいいかもだけど、一緒に滑る人がいるほうがやっぱり楽しいし、それに自分じゃ気付けないこともあるから」


会ったばかりの人と一緒に滑ることに抵抗を感じどうやって断ろうかと考えてると、隣からチラチラと様子をうかがう視線が少し可哀そうに思え、私でよければと答えていた。ほっとしたように息を吐くのが分かった。


「でも私ほんとにへただから・・・」


「いやいや僕も下手だから気にしないで。でもお互いを見てアドバイスできたら少しは上達するんじゃないかな」


「私からアドバイスできることなんてないです」


「それじゃあ僕からアドバイスできることがあればということで」


「はい。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく。そうだ、名前はなんていうの?」


「家原です。家原桃子です」

 

「家原桃子さんか。かわいい名前だね。ボードが好きだけど、名前はもう春だね」


「そう言われたら。今までは暖かくなる春が好きでしたけど、これからは少しさみしくなっちゃうかも」


「それじゃ、桃子ちゃんって呼んでいいかな?」


顔がこわばる。


「ごめん。だめだった?」


私の反応に驚いたようにあわてている。


「男の人にそんな風に呼ばれたことなかったから...」


「え?今まで付き合った人とかいなかったの?いや、こんなこと聞いちゃだめだよね。こめん。忘れてください」


ほぐれかけていた二人の間に緊張がはしる。やっぱり知らない人と滑るなんて無理。どうやって断ろうかと考えているとリフトが頂上についた。

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