第172話 if ~人生をリバースすると~

「他の二人……ロックとレックスはどうする? ファナが先に試してみてから決めるでもいいよ」



「いや、まとめてやってくれ」



 ロックがレックスに目配せしたあと、答えた。

 じゃあ試しにやってみるか。

 とはいえ、僕にできるのは反転することだけなのだけど。



 【リバース】、三人の不遇な人生を反転してみる!



◇◇◇



 ザッ、ザッ、ザッ、……



 なんか気がつくと後ろにあばら家の前に騎士達が並んでいた。



 その中からお高そうな貴族服を着た中年の男性と女性が進み出てきた。

 僕の横を通り過ぎてロックの前に立つ。



「そなたが……ロックなのか?」



「僕がロックだけど、なにか? あんたは誰?」



 貴人の横に仕えている魔法使いが報告する。



「侯爵様、鑑定しましたところ、間違いなく十年近く前に行方不明になられておりましたロック様でございます」



「ああ、やっと会えたわ、愛しい息子!」



 貴婦人が感極まってロックを抱きしめた。



「え? え?」



「無理もない。そなたはな、幼い頃私たちが狩りを見せようと連れ出したときに、魔物に襲われて行方不明になってしまっていたのだ。全力で探したが見つからず諦めていたのだが……」



「でもね、スラム街であなたの面影が残る子どもがいる、と情報ギルドから知らせがあったのよ。こんな汚いところでずっと暮らしていたなんて! でももうこれから不自由な思いはさせないわ」



 こうしてまだよく事情が分かっていないロックは侯爵夫妻のなすがままに連れて行かれる。



「あ、レックス、ファナ!」



「大丈夫よ、ロック。あの二人も、後で自由に会えるからね」



 なにやら意味深な言葉を残し、侯爵夫妻はロックを連れて騎士達とともに引き上げていった。



◇◇◇



「レックス王子、探しましたぞ!」



 今度は王冠をかぶった男性が親衛隊を連れてやってきた。

 この王冠は、確かメイグラントの遙か北にある小国の王のものだったと思うんだけど。

 ちなみにさっきの侯爵の後方で律儀に待っていたのを僕は知っている。



「ようやく見つけたぞ、我が王位継承者よ」



「…………」



 レックスも戸惑っている。



「数年前、我々は王国の領地を視察で巡っていた。そのとき運悪くお前の乗っている馬車が横転してしまい川に投げ出されたのだ。流れの速い川で見つけることはできなかった」



 小国の王様はさらに続ける。



「諦めきれない私は、我が国の教会の聖女に神託の儀を行わせた。いくら年月がかかってもかまわぬ、レックスの場所が分かるまで神託を待ち続けよ、と聖女に命じたのだ。そして先頃、お前がこの国にいるとの神託があった」



「僕、そんなこと覚えていない……」



「川に落ちたショックで記憶がないのだろう。だが、神託に誤りはない、お前が第一王子レックスだ。これからは王子として何不自由なく暮らしていける!」



 そしてレックスもやはりよく事情を飲み込めていないまま連れて行かれた。



◇◇◇



「ファナ様、見つけましたわ」



「あれ、テレーズさん」



 レックスを迎えにきた親衛隊の後ろにはさらに教会の聖騎士団が黙って待っていたのを僕は知っている。

 そして、聖女テレーズさんが率いていることも。



「アラン君、この子はね、レイジング王国で新しく就任なされた教皇様のご息女なの。前教皇に批判的だった今の教皇様は、むかし幼いご息女を誘拐され闇商人に売り渡されてしまったわ」



 ちょ、まだ悪行があったの、あのライナス教皇(もう故人)。



「前教皇時代はその件に触れることすら許されなかったのだけど、今は違う。私も信仰が回復してきて力が高まりつつあったから、神様にお願いしたの。そうしたら『アランを探せ、きっとそこにいる』とお告げがあった」



 その曖昧なお告げ、大丈夫なの?



「商業ギルドのソフィアさんにあなたの場所を聞いて、急いでやってきたわ。教皇様はどうしても来られなかったから、私がお迎えにあがりました。さあ、ファナ様、帰りましょう」



「うん。ありがとう!」



 こうしてファナもテレーズさんに連れられて無事あるべき場所に帰っていった。



◇◇◇



 ちなみに三人ともハズレスキルは消えていた。

 っていうか人生改変とかやばすぎない?

 これいま幸せなひとに【リバース】かけると不幸のどん底に落とせるってことだよね?



 この使い方は封印しよう。



◇◇◇◇◇◇


 テレーズ様はゲスト出演です。



 いつもお読みいただきありがとうございます!


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