第2話 教室で裁ば(シュルシュルシュル)――ミノムシの刑‼

 入学して既に一週間。

 ある程度通い慣れた教室。

 その前で僕は姫と密談を交わしていた。


「頼む、姫。僕と君が付き合ってることは内緒にして‼」


 両手を合わせて小声で頼み込む。

 けれど姫は首を捻るばかり。

 どうやら不服らしい。

 まあ嘘告白なら大々的に広めて、僕を後で派手に振りたいだろうからね。

 でも今、僕のピンチはそんな未来よりも手前にある。


 もしもウチのクラスで『付き合ってる』だのと口にしたら、僕は一瞬で処刑される。

 それぐらいウチの男子は、カップルの誕生を許さない。

 一年A組とはそういうクラスである。


「もしかして、私が彼女だと恥ずかしいんですか?」

「むしろその逆かな? 目立ち過ぎるんだよ、姫は」


 たぶん、女の子にはわからない気持ちだ。

 色恋に対する嫉妬は男の方が怖い時がある。

 特にウチのクラスは暴力に訴えかけてくるし。


「わかりました。ではおでこにチューで手を打ちます」

「……今なんと?」

「唇でも可です」


 え、演技なんだよね?

 ワザと僕を困らせてるんだよね?


「どうしたんですか?」


 目を閉じて既に口づけを待つ、学校で一番可愛い女の子。

 こんな姿をファンが見たら、一体何を思うのだろうか?

 いや、待て。彼女の告白が嘘だとしたら、でこチューすらまずくないか?

 無理矢理されたと言えば、確実に訴えられて良くて停学。悪くて刑事罰だ。

 とすると――


「お昼にジュースを奢るでもいいかな?」


 僕は物で吊ることにした。

 これならセクハラにすらならない。

 安全な取引と言えるだろう。


「わかりました。では私は緋色君の飲みかけを所望します」

「どんな所望⁉ 普通に未開封のジュースだよ‼」


 いくら冗談にしても、女の子としては明らかにやりすぎだ。

 まあ僕みたいなヘタレが、それを良しとしないと踏んでのセリフだろうけど。

 女子との間接キスを回避してホッとする辺り、自分の矮小さが改めてわかる。

 僕は肩を落としつつ、閉じていた教室のドアをガラガラと開ける。

 すると男子の視線が一斉にこちらへ向いた。

 なんだ? ようやく嘘告白のネタバレか?

 まさかクラスの全男子主導とは。

 いいだろう。全員に地獄を見せてや――


「被告‼ 言い分を述べよ」

「なんで即刻捕まってるの~‼」


 教室に入って五秒で椅子に縛り上げられた。

 しかも教卓が裁判官の机みたいになってる。

 そこに座るのは僕の悪友――敵方敵徒。

 名前の通り僕にとっては敵も同じ存在だ。


「僕が何をしたんだよ‼ いいからこの縄を解け‼」

「黙れ、バカ。なんで貴様が、姫柊さんと一緒に登校して来ている?」

「それはその……ちょうど来る途中で出会ったんだよ‼」

「ほ~う。それを我々に信じろと?」


 冷たく向けられる疑いの眼差し。

 顔はいい癖に、こういう性格だからモテないんだ。

 そもそもなぜ、一緒に教室へ入ったぐらいで縛られるんだ。

 せめて、付き合ったことを知られてから――


「というわけで。私と緋色君は晴れて、結婚を前提にお付き合いする運びとなりました」


 教室の後ろの方。暴走する男子を無視して集まる女子たちの集団。

 その中心で姫が大声で説明していた。

 間違いない。彼女は僕を殺すつもりだ。

 きっと、そのために僕に近づいたんだ。


「緋色、何か言い分はあるか?」

「まだ指一本触れていません‼」


 うん。僕からはまだ触れてないはずだ。

 あくまでも腕を組んできたのは姫の意思。

 なら嘘は何も吐いて――


「それで今朝は緋色君が私に触れてくれて」

「判決を言い渡す。被告を有罪とする‼」

「少しは僕の言い分も聞いてよ‼」


 もう誰も信じない。特に姫の言うことは絶対に。

 僕は心に堅くそう誓った。


「それでね。今日は緋色君が私の手作りお弁当を――」

「判決を言い渡す。死刑‼」

「弁護士を‼ 弁護士を呼んでくれ‼」

「それに今日から一緒に帰るんです‼」

「決を取る……満場一致で死刑‼」

「なんで教室の外の男子も手を挙げてるんだよ‼」


 教室を覗く他クラスの男子たち。

 恐らく姫を見に来たのだろう彼ら。

 その手はピーンと空に向かい伸びていた。

 こんなのもう諦めるしかない。


「……それで? 僕は何をやらされるの?」

「ではロープと寝袋をこちらへ」

「ロープと寝袋?」


 敵徒の指示に従い、二人の男子生徒がそれぞれ荒縄と寝袋を持ってくる。

 彼らはそんなものを持って、学校で何をするつもりだったんだろう?


「これから貴様には一時間。窓の外でミノムシになってもらう」

「ミノムシ⁉」


 つい頭の中に寝袋に入った自分と、窓から縄で吊るされる自分を想像した。

 こういう時、詳細な言葉抜きで考えていることがわかる辺り、自分も向こう側なのだとわかって嫌になる。


「安心しろ。縄はすぐ解けるようにセットしておいてやる」

「どこに安心しろって言うんだよ‼」

「大丈夫だ。ここは三階の教室。落ちても首の骨が一、二本折れるぐらいだ」

「落ち着いて、敵徒。人の首の骨は一本しか――」

「始めろ、野郎ども‼」


 敵徒の声を合図に、男子生徒全員で僕を窓辺に吊るし上げる。

 これは壮大な虐めではないだろうか?

 クラスの男子全員で一人の男子を虐めるなんて。

 こんなの先生が見たら――


「どうだ、思い知ったかリア充‼」

「なんで先生までそっち側にいるんですか‼」


 ウチの担任である女教師は、ノリノリでこの騒動に加担していた。

 いくら結婚願望の強いアラサー(彼氏いない歴=年齢)でも、やっていいことと悪いことがあると思った。


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