それも『友情』なんですね
皇冃皐月
第1話
秒針の刻む音が部屋を支配する。
短針はゼロより少しだけ右側をさしている。
「もう日跨いじゃったなぁ」
ベッドで仰向けになって、シミひとつない真っ白な天井をぼーっと見つめる。
視界の端に見える窓。そこからは星空が見えた。
明日学校なのに……私ったらなにしているんだろうか。
ふぅと息を吐く。
それと同時に携帯電話という名のスマートフォンが音を発する。てぃろてぃろてぃんと着信を知らせていた。
顔を顰める。
もう一度時計を見る。
やっぱり真夜中。
「非常識な……」
と、言いつつ上体を起こす。
誰から電話が来たのか。それはスマホの画面を見なくてもわかる。
あくびをして、立ち上がり、勉強机まで歩く。充電中のスマホを手に取って、充電ケーブルを外し、画面をスワイプする。スマホの画面には私が想像していた通りの相手からの着信が表示されていた。
「もしもし」
耳を当て、電話に出る。
『もしもし
相手は
「なんのよう?」
『今ね、私……透葉の家の前にいるの』
「うん、ごめん。上手く聞き取れなかった。もう一回良い?」
不穏な言葉が聞こえた。きっと気のせい。電波が悪くて、そう聞こえてしまっただけ。そう思うことにして、再度問う。
『だからね、今、透葉の家の目の前にいるの。ほら、窓開けて』
「……」
なんの冗談を……。
そう思いながら、ゆっくりと窓を開けて、暗がりの外に顔を出す。
庭の少し先。街灯に照らされるダークブラウン色のミディアムヘアな女の子。耳にスマホを当てて、顔を上に向ける。目が合った。
その女の子はどこからどう見ても、私の友達、綾瀬灯だった。
『おはよう』
「おはようじゃないよ。おそようだよ」
ひらひら手を振りながら、電話口で挨拶をしてくる彼女につっこむ。
電話を切って、一階に下り、玄関を飛び出して、彼女の元へと向かう。サンダルでぱたぱた足音を鳴らしながら。息を切らす。
「ってか、なにしに来たの」
「なにって。会いたいな、顔みたいなーって思ったから来ちゃった」
「来ちゃった……って。かるっ」
「ダメ?」
「いや、まぁ。ダメ……じゃないけど。友達だし。でもさ、明日学校で会えるじゃん?」
「それはそれ、これはこれ、だから」
真剣な顔でそう言う灯を見て、私はそういうものなんだなぁと深く考えなかった。
「ハグしたい」
「ハグ……って抱擁?」
「そうとも言うね」
「……それって友達同士でもするものなの?」
「うん。友達なら普通だよ。だから抱きしめさせて」
「じゃあいいよ」
両手を広げる。微笑む灯はそのまま私の胸に飛び込み、あまり無い私の胸に頭を埋め、腕を後ろに回し、むぎゅっと抱き締める。
夜特有の肌寒さ。それを打ち消すように身体全身に巡る灯の温かさ。
「幸せ〜」
灯は蕩けるような声でつぶやいた。
◆◇◆◇◆◇
翌日。ちょっと早めに学校へ到着した。
友達の呼べる人が灯しかいない私にとって、灯の居ない教室は虚無でしかない。
やることはないし、会話の相手もいない。
周囲を見て、私はなんでこんなにもぼっちなのだろうかと虚しくなる。
頬杖を突いて、意味もなく黒板を眺めていると。
「篠宮さん」
と、クラスの男の子に声をかけられる。
名前は……えーっと、えーっと、なんだっけ。
学級委員長なのは覚えてるけど。名前までは覚えていなかった。その、ごめんね。
「昨日までの委任状、提出してもらってないんだけれど、どうなっているかな」
「委任状……あっ、忘れてました。すみません」
「やっぱりそうですよね。すみません。昨日声かければ良かったです」
「いやいやこちらが忘れてたのが悪いので。明日、うん。明日なら持ってこれると思います」
「じゃあ明日、学校来たら僕に渡してもらってよいですか?」
「もちろん。本当にごめんなさい」
完全に私の不手際。謝罪するしかない。
「別に大丈夫ですよ。先生に急かされるだけなので」
「え、ほんとごめん」
申し訳なさ過ぎて、彼の方に手を置いて真摯に謝罪する。
彼はびくっと肩を震わせ、振り返る。
すぐにこちらに顔を向け直す。だけれど、なぜか引き攣って戻ってきていた。
「そ、それじゃあ。僕は他の人にも声掛けなきゃ」
慌てるように立ち去る。その後ろにいたのは灯だった。
「ねえ、透葉」
おはようもなしに、彼女はぐいぐい近付いてくる。
「
「誰、佐藤って」
「さっき喋ってたでしょ」
え、あの子佐藤くんなの。
全くピンと来なかった。
「好きじゃない……ってか、よく知らない人だし。クラスメイトってだけで」
「じゃあなんで? なんで喋ってたの?」
「なんでって。いやー、その……」
委任状を出していないから催促された。
それを口にするのはなんだか気恥ずかしい。
ごにょごにょってなり、目を逸らす。
そういうハッキリしない態度が気に食わなかったのか、ぐっと睨み、徐々に顔を近付ける。鼻の頭と頭がぶつかりそうな。その位の距離まで顔を近付け、さらに睨む。
「……提出物出してないから催促されました」
圧に屈し、敬語で答える。
私の答えを聞くと、灯は露骨に気を緩めた。安堵していた。
そして私の手を握る。指を絡め、妖艶な雰囲気を醸し出す。今にも指を舐めてきそうな勢いさえあった。
「私から離れちゃダメだよ」
そうやって耳元で囁く。
「ええ……離れるって?」
「彼氏とか。恋人とか。好きな人とか。ダメだよ、私の許可なしに作っちゃ」
真顔でそんなことを言う。
「なんで?」
「なんでって言われても。ほら、友達ってそういうものだから。友達なら普通だよ」
「そうなんだ。わかった」
友達の少ない私は、そういうものかと素直に受け取り、納得した。
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