SNSの脅威と封印の祠 4-2

 ただ、四人の一人はとても見覚えがある姿で――。


「さっきぶりだな、女将」

「ええ……。お待ちしておりました。アオイ様……そちらの席へどうぞ」


 右端に座る珊瑚サンゴの背後には執事にしか見えない黒蝶コクチョウの姿もある。

 年齢的にまだ若い黒蝶コクチョウ珊瑚サンゴのお供だったらしい。

 一番手で声をかけてきた女は、ゆるく後ろへ束ねられた白い髪に、前髪が左右へ揃えられ黄色い瞳をしている。服装は艶のある白い着物姿で、珊瑚サンゴに似たものを感じた。

 そして彼女の髪の毛に混じる数体の白蛇が、小さく細い舌をチロチロと出して入れしている。

 彼女の背後には黒蝶コクチョウと同じく控えの若い女がいた。下を向いていて表情は分からないが、彼岸花の別名、雷花カミナリバナのような襟足まで伸びた短髪に、ふわふわしている白っぽい耳と尻尾は静電気のように青白く光っている。


「――見た目からして……白蛇に、天狗と……河童か?」

「――口を慎め、吸血鬼! この方々は偉大な最上位のあやかし様方だ! 様をつけろ!」

「"小娘"――吸血鬼じゃない。ヴァンピールと呼べ……古い歴史だけの産物と一緒にするな」


 鋭い目つきで睨みつけるアオイは隠していた妖力を解放した。

 アオイの強大な妖気に触れて、顔を青ざめブルブルと震えだす女は壁に背をつける。


「――失礼。まだ若いものだから、躾が行き届いていなくて。アタシの顔に免じて、怒りを鎮めてくれないかしら?」


 アオイの妖気にも臆することのない白蛇の女は軽く謝罪した。

 スーッと妖力を隠したことで妖気が消えた途端、その場でしゃがみ込んだ女は耳がペタッと髪につき、尻尾を丸めて震えている。

 それに対して助け舟を出したのは黒蝶コクチョウだった。


「そこまでの妖力を隠せるようになるなんて、さすがアオイさんですね。皆様、貴方のことをとても感心されていますよ」

「それは、黒蝶コクチョウさんのおかげだ。場の空気を悪くしてすまない。和名を染井碧ソメイアオイと名乗っている。宜しく」


 冷静を取り戻したアオイも謝罪を口にしてから中央の椅子へ座る。

 ちょうど四人と向かい合う形だ。

 こっそりと珊瑚サンゴに言伝を受けた黒蝶コクチョウが未だに震えている女の横へしゃがみ込んで介抱している。

 冷静になったアオイは空気のような静けさを持つ男二人へ視線を向けた。

 一人が黒い天狗の仮面を被り、着物ではあるが神社の神主が着ているものに近い格好をした紺色の髪色をした男。

 もう一人は白髪頭であごひげを生やし、大事そうに白い皿を両手で抱いている明らかに一番年上の初老な男。仙人と呼んでもよさそうなみそぎ姿をしている。


「それでは、まずは最初に話しかけたアタシから……。名を皎月コウゲツ。見かけの通り、白蛇のあやかしよ……ご利益もあるから、良しなに」


 袖元で艶のある赤い口紅を塗った唇を隠して名乗る皎月コウゲツは妖艶な笑みを浮かべていた。

 一見大人しく、礼儀正しく感じられる皎月コウゲツだが、明らかに目が笑っていない。

 あれは男を喰う側の女だと、海外での経験上すぐに分かったアオイは横へ視線を流す。

 アオイが注目するのは天狗の仮面をつけた面妖な男。

 そもそも皎月コウゲツ以外、初見の男二人は一切言葉を介していない。

 珊瑚サンゴはもちろん。全員が妖力を隠していて、辛うじてアオイが判断出来るのは見た目ではなく、あやかしとしての年数くらいだった。

 但し、弱肉強食の世界で生きるあやかしに年齢は関係ない。つまり、人間のように目上に対して敬語も不要。

 ただ、長く生きた経験は武器になり、今回のアオイと同じく生まれたとき授かった妖力の向上も可能だった。


「――われは面の通り、黒天狗のあやかしだ。名はラン……他のあやかしと馴れ合う気はない」

ランも海外から日本へ渡ってきた東洋のあやかしよ。多分、貴方と同じくらいの年齢かしら」

「俺もそう思っていた。それに、馴れ合わないのは同感だ。俺も馴れ合いに来たわけじゃない。その爺さんは退屈で寝たんじゃないのか?」


 目を閉じたまま微動だにしない年長者な初老の男からは小さな寝息が聞こえてくる。

 思わず笑ってしまった皎月コウゲツ珊瑚サンゴは口を揃えた。


「それでは本題に入りましょうか」


 初老の男は寝たままアオイが招待された理由について、代表で珊瑚サンゴが口を開く。


「今後の掃除屋しごとにつきまして……。わたくし達、四人は日本のあやかしによる盟約を立てております。厳密に言うなれば、四人ではございません――」


 珊瑚サンゴの話を要約すると、無闇に同族であるあやかしを殺さないよう取り締まっているという。

 ただ、人間を殺していない者は下位に落としたい。

 それが出来るのは金の瞳を持つ最上位でも数少ないあやかしだけ。


「つまり。上位のあやかしの妖力を奪い取ったアオイ様は最上位のあやかしでも稀な存在――」

「他者の妖力を奪って自分の物にするあやかしは指で数えるほどしかいないの」

「その話は女将から聞いた。俺はそれだけ稀有けうな存在だというわけか……」

「はい。王のような存在がいない代わりに、金色の瞳を持つ最上位のあやかしがいる」


 言葉を濁す珊瑚サンゴアオイは円卓に肘をついて両手を組む。

 二百五十年生きてきたアオイも人間の金を使ったことがなかっただけで経験は豊富だ。


「御託は良い。貴様たちが俺に何をさせて、させたくないのかハッキリ言ってみろ」


 二人同時に双眸そうぼうを見開いてから口元を着物の袖で隠して笑う仕草から次は皎月コウゲツが応えを提示する。


「せっかちさんも嫌いじゃないわ。貴方にして貰いたいことは、均衡を壊さないよう殺しは最小限にしてほしいのと――妖力だけを奪って無力化してほしい」

「ふむ……殺しは最小限にして欲しいと。だが、妖力だけを奪うなんてことが可能なのか?」

「金色の瞳を持つあやかしは、同族を殺すと自動的に相手の妖力を奪えるの。それと同じく、妖力だけを奪ってくらいを下げることも出来る」

「……そんなことが出来るとは思わなかった。いや、でも……一時的とはいえ血と共に吸った紫音シオンは――」


 元々授かった妖力以外で力をつけてしまうあやかしが一人でも出ると、保たれた均衡が崩れるらしい。

 なぜなら、均衡を保っている間は人間の世界に手を出さないと縛りを受け入れ、大人しくしている――生まれた瞬間から最上位と呼ばれるあやかしがいるから。

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