第36話 「仮面の中の真実」

 翌朝、いつもの教室に足を踏み入れると、妙な静けさが漂っていた。

 リシェルとユーフェリアが、それぞれ別の方向を見ながらも近い距離で座っている。いつもなら、どちらかが無言で出ていく場面だけど、今日は違った。


 ……少しずつ、変わってきてるな。あいつらの中で。


「おはよーございます、先生!」


 元気な声と共に、ティナがぴょこっと俺の目の前に立つ。

 耳も尻尾も朝からフル稼働で、こいつだけは本当に元気だな。


「ああ、おはよう。今日も元気そうだな、ティナ」


「えへへっ、だって今日は……ミカさんがご飯一緒に食べてくれるって約束したんですっ!」


「えっ、俺に報告する必要あるか、それ」


「ありますよ!? 大事なコミュニケーションですよ!」


 そう言って振り返ると、教室の隅でミカが仮面のまま小さく手を振っていた。

 いつも通りの無表情仮面だけど、わかる。あれは……少し照れてるな。


 あいつも、ちゃんと“馴染もう”としてる。時間はかかってるけど、確実に変わってきてる。


 ――けど。


(その“変化”が、アイツにとっていいことなのか……まだ判断がつかない)


 昨日のやりとりが、脳裏をよぎる。


「もし、仮にね。私がとんでもない“悪い子”だったら、先生はどうするかな」


 あれは冗談でも、試すようでもなく――

 どこか、震えていた。恐れているような、そんな声だった。


 ミカは、“自分の何か”が変わりつつあることに気づいている。

 それが、いいことなのか、壊れていく前兆なのか……まだ、彼女自身にもわかってない。


「――先生?」


 ふと我に返ると、ティナが心配そうに俺を見上げていた。


「ん? ああ、悪い。ちょっと考えごとだ」


「……先生、最近ちょっと難しい顔、多いです。無理しないでくださいね」


「……ああ。ありがとな」


 ほんと、お前らには助けられてばっかだな。



 放課後。


 俺は、資料室の一角である封筒を取り出した。


 これは、昨日学院長補佐から“無言で渡された”情報。

 中身は、ミカ=アルベルトに関する“旧帝国時代”の記録の断片だ。


 そこには、彼女の名が“番号”として記されていた。


 ――実験体013。通称「仮面の記録媒体」。

 高適応性試験個体。目的:記憶の封印・暗号保管・感情抑制。


 これだけでも十分に異常だった。

 記憶と感情を、意図的に“隠された”存在。


 つまり、ミカは“誰かに造られた”存在であり、

 そして、仮面の奥には“何かが封じられている”――ということだ。


 それが、ただのデータなのか、兵器としての指令なのか。

 あるいは――過去の“罪”そのものか。


 どれにせよ、今の彼女はまだ気づいていない。


(ミカ。お前がその仮面を外す時、俺は“教師”として、お前の味方でいられるのか)


 問いに答えはなかった。ただ、静かに蝋燭の火が揺れているだけだった。

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