第31話 「仮面の転入生」

 いつも通りの朝。

 特別クラスの教室には、いつもの顔ぶれが揃っていた。


 リシェルが机に肘をついて寝不足気味に目をこすり、ティナは朝から元気にしっぽを振っている。

 ガルドは壁際で黙々と筋トレに励み、ユーフェリアは窓際で本を読んでいた。


 その日もまた、変わらない一日になる――はずだった。


「皆、おはよう。今日はひとつ紹介がある」


 俺の声に生徒たちの視線が集まる。

 教壇の横に立つ人物に気づいた瞬間、空気がぴたりと静止した。


 その人物は、真っ白な制服に身を包み、長く編み込まれた銀髪を垂らしていた。

 だが最も印象的なのは――その顔を隠す、無機質な仮面だった。


「……仮面?」


 リシェルが訝しげに眉をひそめる。


「この子はミカ=アルベルト。学園長直々の推薦で、今日から特別クラスに転入することになった」


「えっと……よろしくお願いします」


 仮面の奥から聞こえる声は、妙に調子が抜けていて、拍子抜けするほど普通だった。


「仮面、外さないんですか?」


 ティナが無邪気に尋ねると、ミカは一瞬固まってから首をかしげた。


「え……これ、ずっとつけてるものだと思ってたんですけど……ダメ?」


「いや別にダメではないけど!?」


 リシェルがツッコミを入れ、ガルドが興味津々にミカの肩を叩く。


「おい、仮面って戦闘用とかか? それともファッション?」


「うーん……寝癖隠し、かな?」


「は?」


 そのあまりにも予想外な回答に、全員が静止した。

 ユーフェリアだけが一言、「バカなのかしら」と呟いたのは聞き逃さなかった。


 だが――俺は、違うものを感じていた。


 表面上はぼんやりしていても、ミカの立ち方、気配の収め方、そしてわずかな足の動き。

 すべてが“戦闘訓練を積んだ者”のそれだった。


(この子……普通じゃないな)


 ミカ=アルベルト。

 名前も、素顔も、本当の目的もわからない。

 だが間違いなく、何かを背負ってこのクラスにやってきた。


「ま、わからないことがあったら何でも聞いてくれ。うちは基本ゆるいからな」


「はーい。あ、先生。授業って、何時からでしたっけ?」


「今だよ」


「えっ!?」


 どっと笑いが起きる教室。

 その中で、ミカは仮面越しに微かに笑った気がした。


(……さて、“爆弾”が入ってきたな)


 だが、この仮面の裏にあるものが“火薬”か“刃”か――

 それを知るのは、もう少し先の話になるだろう。

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