第29話 「忍び寄る、異形の影」

「……で、こいつ、どうする?」


 ガルドがディアスの襟首をがっちり掴み、ちょっと得意げな表情で振り返る。


 魔封の鎖に縛られ、地面に座らされたディアスは、むすっとした顔で黙りこくっていた。


「ふん……貴様らごときに、好き勝手されるつもりはない」


「じゃあ、ちょっと火あぶりしてみる?」


 リシェルが手のひらに炎を灯しながら、さらっと物騒な提案をする。


「待って待って! 話す前に焼くとか、それ尋問の順番おかしくない!?」


「ノリよ、ノリ。演出ってやつ」


「やめてくださいリシェルさん! 焼き肉の匂いしたら、私お腹すいちゃいます!」


「おいティナ、空腹で空気乱すな!」


 そんな一連のやり取りを見て、ディアスがじと目で周囲を睨んだ。


「……お前ら、尋問ってもっとこう……地下牢とか鉄の椅子とか、ないのか?」


「残念ながら、うちの特別クラスに重苦しい空気は存在しないの」


 ユーフェリアがコーヒーカップを影で形作り、優雅にひとくち啜る。


「貴様ら、もしかして……狂ってる?」


「正確には、ちょっとテンションが高いだけ」


「筋肉はすべてを解決するッス!」


「解決しねぇよ! 話を聞け!」


 リシェルがツッコミを入れつつ、ディアスの目の前に詰め寄る。


「はい、じゃあ仕切り直し。レイナ=エルバートが先生に仕掛けたの、アンタの指示?」


「クク……貴様らに教えたところで――」


「“火あぶり・リターンズ”発動しまーす」


「話す! 今すぐ話すから火はやめろーっ!」


 炎を構えるリシェルに、ディアスは即座に白旗をあげた。


「……くっそ……! あれはサロンの上層の命令だ。ユウマ=シオン、アイツを潰せってのが本命だった」


「やっぱり、先生狙いだったんだ……」


 ティナが小さく拳を握る。


「で、それで何したいの? 学園乗っ取り?」


「違う。“学園の再編成”だ。旧体制をぶち壊して、強者だけを残す。それが“教師狩り”の真の狙いだよ」


「へぇ……じゃあアンタ、意外と偉いんだ?」


「まあ、サロンの中堅クラスに――」


「はいはい、うるさいので封印術式“口チャック”します」


 ユーフェリアが影の帯をくるりと伸ばし、ディアスの口をそっと塞いだ。


「喋らせろやああああ!!」


「ガルド、見張りよろしく。ティナ、記録取って」


「は、はいっ!」


「リシェル、あとは任せた」


「了解。焼く準備するわね」


「だからやめろおおおお!!」



「た、助けてくれ! 誰か、誰――」


 その叫びが最後の言葉になった。


 黒鉄のマスクをつけた男が、何のためらいもなくその男の首を跳ね飛ばす。血飛沫が地に染み込み、すぐさま剣を拭う。


「ひゃっふー! 八人目だぜ! いやぁ、さすがにその剣チートすぎないか?」


 仲間の一人が、男の異形の剣を見て言った。


 その剣は、ありとあらゆる魔力、魔法、スキルを“無効化する”――まさに規格外の兵器だった。


「大したものはねぇな。魔導書くらいか?」


 マスクの男――ジークは、殺したアストリア学園の教師や生徒の遺体から道具を物色する。

 だが出てくるのはペアルックのアクセサリーやら、壊れた携帯魔具ばかり。


「それで? ジーク。このままこの遺跡にいる魔法使い、全員殺す気か?」


「……全部殺したら上層部がうるせぇ。

目的は“魔法使いの頭数”を減らして、国の戦力を削ぐことだ」


「確かこの遺跡、30人くらい魔法使いいるって話だったな」


「なら、残り15人でいい」


 そう言い残すと、ジークは仲間を置いて歩き出す。


 その背中を見て、もう一人がぼそりと漏らす。


「ちょ、ちょっと待てってジーク! 殺すペース早すぎるって!」

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