第24話 「交差する魔力──炎と影の共鳴」

 唸り声を上げながら、魔獣が一斉に突進してくる。

 歪んだ四肢、ねじれた背骨、そして赤黒く濁った魔力の塊――まさに異形。


「来るわよ、ユーフェリア!」


「ええ。ここで止める……!」


 私とリシェルは背中を合わせるように立ち、構えを取った。


 リシェルの杖が炎の魔力を帯び、周囲の空気がじりじりと焼かれ始める。

 一方で、私は影を操り、足元から剣状の影を伸ばして刃を構成した。


「“影刃えいじん・一式”」


 私の影が地を這い、忍びのように魔獣の足元に忍び寄る。

 そのうちの一体が動きに違和感を覚えて立ち止まった瞬間──私は影から生じた刃で、足首を一閃する。


「ッガアアアッ!」


 魔物が悲鳴のような声を上げ、体勢を崩す。

 そこに、リシェルの叫びが重なった。


「“紅蓮爆火ぐれんばっか!”」


 彼女の前方に形成された魔方陣から、爆ぜるような炎の渦が迸る。

 獣の身体に直撃し、爆音と共に一体が吹き飛んだ。


 それでも数で押してくる魔獣たち。残る三体が、同時に牙を剥いて突っ込んでくる。


「くっ……!」


「避けて!」


 リシェルが私を突き飛ばすように横に弾き、同時に火の盾を形成した。


「“紅盾くれないのたて”!」


 燃え盛る防壁が一瞬だけ敵の動きを止める。


 私はその隙を逃さず、影を自分の足元から翼のように広げた。


「“影歩えいほ・分身”」


 影の中から分身が三体飛び出し、魔物の周囲を攪乱する。

 視覚を奪い、動きを止めた瞬間、私は敵の背後を取る。


「“影裂えいれつ・斬”!」


 伸びた影が三方向から交差し、魔物の身体に深く喰い込んだ。


 息をつく間もなく、最後の一体が雄叫びを上げながら突っ込んでくる。


「っ、リシェル、今よ!」


「分かってるわよ……っ!」


 二人の魔力が瞬時に高まる。


 リシェルが地を蹴って前へ。私は影を纏い、彼女の動きに合わせる。


(この距離、この角度……合わせられる。今なら!)


「“影縛えいばく”!」


 影の鎖が魔物の脚を縫い止めた、その瞬間──


「“灼熱魔陣・双重展開!”」


 リシェルの杖先から、二重構造の魔方陣が展開される。

 中央の炎が、爆発するように跳ね上がる。


「“緋焔穿光ひえんせんこう”ッ!!」


 火の槍が地を貫き、魔物を串刺しにする。

 着弾の瞬間、影の斬撃が交差するように包み込んだ。


 光と闇、炎と影が交錯し──敵は、一切の声を上げる暇もなく灰となって消えた。



 静寂が戻った遺跡の回廊。

 私は肩で息をしながら、リシェルの方を見る。


「……はあ、疲れた……でも、やれたわね」


「ええ。……悪くなかったわ、昔のより、ずっと」


 言いながら、私はリシェルの横顔を見る。

 幼い頃の記憶が、ふと脳裏に浮かんだ。


 裏庭で二人、炎と影を合わせようと何度も魔法を試した日々。

 うまくいかなくて、転んで、笑って――でも、あの時間が私は大好きだった。


「ねぇ、リシェル」


「……なに」


「もう一度、やってみない? 昔みたいに」


 リシェルは驚いた顔でこちらを見て、すぐに目をそらした。


「……あんた、急に何言ってんのよ。

……でも、ま、暇だったら……付き合ってあげなくもない、けど」


「ふふ……ありがと」


 私たちは、少しずつ、あの頃に戻り始めている。

 不器用だけど、それでも手を伸ばせる距離まで。


 そして今度こそ、その手を――私は離さない。

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