〈6〉波野先輩とお食事へ

翌週の金曜日の夜、波野先輩に誘われて食事に行った。

その日に残業にならないように、3日前から前倒しで仕事をしていた。


「あれ珍しい。今日は残業なし?」「ハイ、先輩よかったら手伝いますよ」

「ばかだな。気にせず帰っていいよ」

と、通常運転の柘人たくと先輩。

ホッとして、「ありがとうごさいます」と会社を出た。


待ち合わせの場所に急ぐと、前髪が逆風にあおられて散らばった。

少し時間があったので近くにお手洗いがないかキョロキョロしていたら、波野なみの先輩に呼ばれた。

すぐに振り返って、

「お疲れ様です。早く着いたんですね」と散々な前髪を指で整えていたら、ジッと見つめられて「早く会いたかったから」と笑った。

ほっぺたが赤くなってそうで、手で触ってみる。


その時、「あれ?前いた後輩の子よね」と藤平みな子さんが現れた。ジャーン!

「ああ、偶然ですね。今から柘人先輩と待ち合わせですか?」

「そうなの」

彼女は自信たっぷりに微笑んだ。

そして波野先輩を見て、「あら?素敵な彼ね。楽しんできてね」と別れた。


「さあ。行こうか」

波野先輩に素敵なダイニングカフェに連れてきてもらった。

「さっきの女の人凄く美人さんだね」「そうなんです!会社の先輩の婚約者だそうです」「へえ」

だいぶん緊張して、カチコチで過ごした。

無難にオレンジのノンアルコールカクテルを飲んでいた。


そしてその帰りに波野先輩から告白された。

「実は高校の頃からいいなって思ってたんだ。また出会えて嬉しい。付き合ってほしい」

私はまさかこんなことになるなんて思いもよらず、すぐに返事が思い浮かばずに、「少し時間をください」とやっと言った。


ずっとドキドキして、その夜もほとんど眠れなかった。

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