白雪姫〜自己解釈〜

桜月夜

第1話 はじまり

むかしむかしのお話です。

肌が雪のように白く、唇は薔薇色で髪はツヤツヤのお姫様が産まれました。

そんな姫のことを皆は「白雪姫」と呼びました。


「みんな私の事を慕ってくれる。それはとても嬉しい。でも誰も私の本当の名前を呼んでくれないわ……あぁ、私の名前、いっそ白雪にしてしまおうかしら」

白雪姫の悩み事を聞いてくれるのは屋根裏部屋に住みついたネズミたちや、窓辺でさえずってくれる小鳥たちだけでした。少し前までは、本当に愛してくれる人が居たのです。今はもう居ないけれど。

「お母様…」


お母様が死んで、新しいお妃様がやってきました。

その人は自惚れ屋でした。いつも魔法の鏡に向かって尋ねます。

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」

『もちろんお妃様です。』

お妃様はそれを聞いてにっこりと笑いました。

「あら嬉しい。そう、アタシが一番美しいのよ!」

『そうですとも。ファッションセンスもお料理もその深い響きのある声も強く輝く瞳も全て貴方様が世界一です。』

鏡は次々と褒めの言葉を並べます。毎日同じことを聞かれるので、きっと鏡に顔があったなら死んだ魚のような目をしていたことでしょう。ですがお妃様は自惚れ屋なのでそんな事には気づくはずもなく、上機嫌で部屋を出て行きました。


お妃様が来て何年か経ちました。

白雪姫は美しい女性へと成長していました。お母様の事で嘆くことも少なくなり、元の快活な性格を取り戻しつつありました。

「さぁ、みんな!今日も私の料理の味見係をよろしくね!」

お母様のような料理上手になるため、姫は一生懸命料理の練習をしていました。

そんな姫にますます動物たちは惹かれてゆきました。



ある日お妃様はいつものように鏡に尋ねました。

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」

『…白雪姫です。』

鏡は一瞬迷いましたが、素直に答えました。お妃様は顔を真っ赤にしています。鏡を叩き割らんばかりです。

「なんですって?あの小娘がアタシよりも美しいと?許せない…許さないわ!」

お妃様は部屋を飛び出し、廊下を警備していた家来に命令しました。


「白雪姫を殺しなさい。今すぐ!」


その声を聞いた鏡は、騒ぎを聞きつけて覗いていた白雪姫の友達のネズミに声をかけました。

『なあ、そこのネズミ公。全部聞いていただろう?ここはちょいと頼まれてくれないかい?』

ネズミはびっくりしました。

「え…」

『オレはここから動けない。でもこのままだと白雪の嬢ちゃんが危ない。だから魔女婆さんの所に行ってこびとに化け、助けてやって欲しい。』

ネズミは鏡が思ったより饒舌だったことにも驚きました。ですが、白雪姫が危険だと聞き驚いている場合ではないと深呼吸をしました。

「そうなのですね…私もあの方にはお世話になっています。ただ…私のような下級の身で良いのでしょうか?」

『構わない。それに魔女婆さんもネズミとは仲が良いからね。』

「…わかりました、引き受けましょう。具体的に何をすればよろしいのでしょうか?」

『森の中に6人のこびとが住んでいる。みんな気さくな良い奴さ。そいつらの仲間になって、白雪の嬢ちゃんを助けるんだ。どうやら、彼女に気のある家来が居るようだから、森までは上手くやってくれるだろう。』

「なるほど。理解しました。まずは魔女様のところに行けば良いのですね」

『2.5頭身の緑色の帽子を被ったこびとだからな?何も言わなかったら馬にされちまうから気をつけろよ?』

「わかりました。肝に銘じておきます。」

ネズミは大きな使命感を胸に頷いた。

『全てが終わったら、ひとつ質問に答えてやる。幸運を祈るぞ。』

ネズミは鏡にお辞儀をすると、魔女の元へ走って行きました。


『頼んだぞ、ネズミ公…!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る