第7話 親バレしたよ、お姉ちゃん!
莉乃と付き合い始めてから三週間が経った。
もうすぐ人生で一番疲れた夏休みが終わろうとしている。
学校が始まればさすがに莉乃も四六時中セックスしようとは言わないだろうし、そのことに関してはちょっと嬉しい。
けど、それと同時に今の莉乃を学校に行かせていいのかって不安もあった。
学校では学年が違うし、ずっと莉乃を見張っているわけにもいかない。
莉乃はあたしが嫌がるようなことはしたくないって言ってたけど……その言葉を全面的に信じることは、あたしにはできなかった。莉乃の倫理観は完全に無くなっているから。
とはいえ、あたしにできることは莉乃が暴走した時に止めることと、莉乃を信じることぐらいしかない。
そんなわけで、我ながら少々楽観的すぎるなと思いつつも、あたしは特に変わったことはしないことにした。
「お姉ちゃん、どう? 気持ちいい?」
「んっ……ええ、すごく気持ちいいわよ……っ」
現在時刻は十四時、昼過ぎ。あたしは今日も今日とて莉乃とセックスしていた。
当初こそ昼間からセックスするのに抵抗があったけど、今となっては特になにも思わない。
朝起きたら朝ごはんを食べたり顔を洗ったりするのと同様に、莉乃とのセックスはあたしの日常にごく自然に溶け込んでいた。
──そう、自然に溶け込みすぎていたんだ。
だから、すっかり忘れていた。
喘ぎ声というのは、絶対に聞かせちゃいけない相手がいるってことを。
バタン! 唐突に、ドアが勢いよく開けられる。
そうして顔を覗かせたのは、顔を真っ赤にしたお父さんだった。
「結菜、莉乃! 変な声が聞こえると思ったら……お前ら、姉妹でなにやってんだ!」
「え、あ、うそ……」
快楽に染まっていた頭が急速に冷めていく。
あたしらの両親は、夏休み中にヨーロッパ一周旅行に行ってくると言って家を出て行った。
そして今は夏休み終了間際。つまりはいつ家に帰ってきてもおかしくない頃だった。
……見られた。見られてしまった。
実の姉妹がセックスしてる現場を、よりにもよってお父さんに。
途方もない焦燥感と絶望が湧いてくる。
どうすればいい? なんて言い訳すればいい?
あたしがフリーズした頭をなんとか動かそうとしていると……全裸の莉乃がむくりと起き上がり、こう言った。
「なにって、ただお姉ちゃんとセックスしてただけだよ? お父さん、文句でもあるの?」
「あるに決まってるだろう! お前ら、頭がおかしくなったのか!? 夏休み中に彼氏を連れ込んでたならまだしも、姉妹でそういうことをするのは……ありえないだろう」
ありえない。
そう口にするお父さんは、呆れや失望、そして軽蔑の籠もった目であたしと莉乃を見る。
……お父さんの言いたいことはよくわかる。あたしだって逆の立場だったらきっと同じことを言ったハズだ。
しかしそれは……今の莉乃に対しては、絶対に言ってはいけない言葉だった。
「……ありえないってなに? 姉妹で愛し合うことがありえないって、お父さんはそう言ってるの?」
「そうに決まってるだろう。なぁ、母さんからもなにか言ってやれ」
お父さんが後ろに振り返って、呆然と立ち尽くしていたお母さんに水を向ける。
お母さんはの戸惑いながらも「……ええ」と頷いた。
「莉乃がお姉ちゃんのこと大好きなのはずっと前から知っていたし、それだけならとやかく言うつもりはなかったわ。でもね、姉妹でそういうことをするのは普通じゃないし、許されないことなのよ」
「……普通じゃないってなに? 許されないってなに? わたしとお姉ちゃんが愛し合うことが、間違ってるとでも言いたいの!?」
「そうだって言ってるだろう! 近親相姦なんてものはな、遥か昔から許されてないんだよ! 姉妹で愛し合うなんて、ありえないんだよ!」
お父さんは声を荒げて叫ぶ。
心の底から、本気で。
近親相姦が許されざる行いだっていうのは、否定しようがない正論だ。
しかし、そんな言葉は莉乃には届かない。
むしろ──火に油を注ぐだけだ。
「そっか。わかった。お父さんもお母さんも、この世界も、全部全部、敵なんだね」
「待って、莉乃、やめて──」
あたしが止めるよりも早く、莉乃は指を鳴らした。
瞬間、お父さんとお母さんの身体が……木っ端微塵に弾け飛んだ。
頭も身体も四肢も、臓物も骨さえも、二人の身体を構成していたなにもかもが形を失う。
廊下にできた血溜まりだけが、かろうじて二人がさっきまでそこにいたのだということを示していた。
お父さんも、お母さんも、死んでしまった。
莉乃が、殺してしまった。
親殺し。ただの殺人以上に許されざる、人としての禁忌。
莉乃は……ついに絶対に越えちゃいけない一線を越えてしまったんだ。
「っ、莉乃──!!」
思わず莉乃の胸ぐらに掴みかかる。
大切な妹に対して、普段ならこんなこと絶対にしない。
しかし今だけは、湧き出る怒りを抑えられなかった。
「あんた、自分がしたことわかってんの!? 実の親を殺したのよ!?」
「うん、そうだね。ごめんねお姉ちゃん」
感情の籠もっていない淡々とした声音で、莉乃は謝る。
それからあたしの腕を振りほどいて、こう言った。
「だけどこれは、必要なことだから。わたしとお姉ちゃんの愛を否定する存在は、この世界にいらないから。だからね──」
あたしの目を真っ直ぐ見据えて。
悪魔のように、魔王のように、莉乃は宣言する。
「わたし、世界を滅ぼしてくるよ。姉妹で愛し合うことを認めない今の人類を全員殺して、新しい世界を作る」
「ほ、本気で言ってるの……? そんなこと、あたしはしてほしくない! 絶対にやめて、お願いだからもうこれ以上人を殺さないで!」
「お姉ちゃんの頼みでも今回ばかりは聞けないよ、本当にごめん。しばらく家を留守にするから、おとなしくしててね」
「待って、やめて、行かないで! 莉乃、莉乃、莉乃おおおおおおおおお!!」
あたしがどれだけ叫んでも、莉乃を止めることはできず。
莉乃は、窓から出て空へと飛び去って行った。
一人部屋に残されたあたしは……血溜まりとなった両親を見つめ、遠くから聞こえてくる爆発音に震えることしか、できなかった。
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