至福の癒し時間である!

「これは美味! 実に美味である! シスターフリーダは料理が上手であるな!」


 シスターフリーダから振る舞われたスープを一口飲むなり、我は感動に打ち震えたのであった。


「そんな……お褒めに預かり光栄です。ですが、本当に美味しいですか? 司祭様なら大きな教会でもっと美味しい物を食べた事があると思うのですが……」

「そんな事は無いのである。シスターフリーダが作ってくれたジュパは実に味が濃くて美味しいのである。何せ、普段の食事は味すら希薄な物を食べているであるからな」


 我らが日常的に食べるのは定められた栄養価が配合されたカプセルだけである。それに比べれば、野菜の旨味と塩気を舌に感じられるスープはとても濃厚に感じられたのである。


(美味であるが、ともすれば濃厚過ぎて舌に刺激が強すぎるであるな)

『そもそもこちらでは食材自体が手に入りませんからね。たとえ料理をしたくても作る事すら叶いません』


「うむ。ライ麦のパンも酸味が悪くないである。食感は少し硬いであるが、これも普段味わった事が無い刺激でまた良いである」

「司祭様に褒めて頂けて嬉しいです。後で村の人たちにも伝えておきますね」

「ふむ? という事は、このパンはシスターフリーダの作った物では無いという事であるか?」

「はい。教会にはオーブンがありませんので、パンは村の共同オーブンで焼いた物を村の方々が定期的に持ってきてくださるのです」

「なるほど。確か言われて見ればオーブンが無かったであるな」

「村の方々には助けて頂いてばかりで恐縮です」

「何、それだけシスターフリーダや前司祭が村人の尊敬を集めているという事である。恐縮するのではなく、それを誇る方が良いであるな」

「……確かに、司祭様の仰る通りです。私も皆さんの尊敬に恥じない様に頑張っていきます!」

「その意気である。応援しているであるぞ」


 何と穏やかで癒される時間であろうか……誰かと食事を摂りながら談笑するというのがこれ程に心の平穏を与えてくれるとは知らなかったである……いや、それも相手がシスターフリーダであるからであるな……


 我が至福の癒しの時間を過ごしていると、


「……れか……ませんか!?」


 微かに人の声が聞こえてきたのである。


「誰かいらっしゃった様です。私が応対してきますので、司祭様はお食事を続けていてください」

「いや、我も行くのである。シスターフリーダを置き去りにして一人で食べる訳にはいかぬであるからな」

「司祭様……ありがとうございます。それでは、一緒に参りましょう」


「おぉ、シスターフリーダ! おられましたか! よかったよかった」


 我らを呼んでおったのは腰の曲がった老人であった。


 とはいえ、老人と言っても実際は60前後であろうな。文化が未熟だと老化は早く訪れるのが基本である。


(ミカエルよ、この地域の平均寿命はどれくらいであるか?)

『平均的な寿命は30歳前後ですね。しかし、これは主に乳幼児の死亡率が高い為です。その部分を除けば寿命は50歳前後であると予測されます。いずれにしても、主の目の前にいる老人はかなりの高齢者とされます』


「村長さん、今日はどうされたのですか?何か用事があったのなら、誰かに言伝て頂ければ私からお伺いしましたのに……」

「いやいや~、儂も老いぼれとはいえまだまだ足も元気ですからな。それに、要件の内容としても儂が伺うのが筋だと考えましたのでな」

「それはご苦労様です。それで、一体どの様なご用件で?」

「カールの奴がさっき儂の所に来ましてな。何でも、新しい司祭様が赴任なされたと。もしや、そちらのお方が?」

「はい! こちらが新しくこの村に赴任されたダン司祭様です! ダン司祭様、こちらがヤクブ村長です」

「どうも、司祭様。お初にお目に掛かります。儂はザレシエの村長をしておりますヤクブと申します。以後、お見知りおきを」


 ヤクブと名乗った老人が我に向かって折れた腰を更に曲げたのである。


 しかし村長であるか……当然ながら我の方が立場は上であるが、ここも友好的に対応するのが得策であろうな……


「これは丁寧な挨拶、痛み入るである。我はダン・クエール。この村に赴任する事となった司祭である。よろしく頼むである」

「それで、挨拶と共に不躾ではございますが……実はささやかではありますが司祭様の歓迎の宴を開きたいと考えております。如何でございましょう? 出席していただけるとございましょうか?」

「宴であるか……」


 本来であれば我の使命として村や世界をより良く導く仕事を果たしたい所であるが、ここで村長や村人から不興を買うのは損であるな……致し方あるまい……


「承知したのである。歓迎の宴、喜んで参加させていただくである」

「ありがたく思います。では、夕暮れ時になったら村の中央へとお越しください。場所はシスターフリーダがご存じですので、お二人でどうぞ。それでは、儂はこれで失礼を致します。村の者にこの事を伝えねばなりませぬからな」

「村長さん、ありがとうございます」

「うむ。よろしく頼むのである」


 という事で、我は村長の主催する歓迎の宴に参加する事になったのである。

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