何事も一番は良いのである!
「主、おはようございます。とても気分が悪そうで何よりですね」
「ミカエルよ。休日出勤の主にもう少し優しい言葉を掛けようとは思わないのであるか?」
「思いません。全ては主の責任なのですから。それよりも早く来てください。皆さんお待ちです」
「皆さん? 来ているのは課長だけではないのであるか?」
「来れば分かります。」
……
「ヨォ、ごく潰し。ちゃんと来てくれた様で安心したぜ」
あぁ、我の最も見たくなかった顔である……何故に世の中とはこれ程に儘ならぬものであるのか……
「シユウ……お前であるか。技術部一の狂人が我を実験体として指名とは……あまりにも名誉な事で寒気がしてきたであるな」」
「抜かせ。俺は別にお前を指名した訳じゃない。むしろ、こっちは押し切られた方だ」
「その通り。君をここに残す為に私なりに尽力した結果だよ。彼と私に感謝をして欲しい物だね?」
「それは那由他の彼方に捨て置くとして……で、我の世界の横に置かれた珍妙で怪しい機械は何であるかな? これが此度の実験の為の物であるのは分かるが、詳細を説明してくれるであろうな?」
「あぁ、当然の話だな。お前の様な奴にも分かる説明をしてやるから、しっかりと耳の穴をかっぽじって聞いておけよ?」
シユウの奴が怪しげな機械を誇示する様に叩きおる。どうせならその衝撃で壊れてくれたらいいのである。そうすれば我も休日出勤というブラック労働から解放されるというのに……
「こいつにはまだ名前が無い。試作品の試作品だからな。あえて名称を付けるとするなら、『固有次元存在変換装置』といった存在だ。一応聞いておく。お前は、お前達が造っている世界と俺達の世界が別の次元にある事は理解しているな?」
「無論である。我らの次元と違うからこそ、我らは造物主として間接的に世界を管理しているのであるからな。別の次元であるが故に知識や創造物を収集する事は出来るが単純な資源の採取などが出来ないのであろう?」
「その通りだ。ごく潰しの割にはちゃんと知識がある様で安心した。こいつは言ってしまえば、俺達の存在をこの次元から目当ての次元に変換する装置だ。言っている意味が分かるな?」
こ奴……立て続けに質問をするとは、どうしても我から答えられないと答えさせることで己の知識を誇りたい様であるな。何とも浅ましい……これだから知識偏重の連中は好かんのである。
「我を馬鹿にするのは止めるのであるな。単純な話である。本来ならば次元が違う故に干渉できぬ我らが、その珍妙な機械を使えば直接干渉出来るようになると事である。ついでに言ってやろう。その形状から考えるに変換された者は次元が変わるだけでなく、存在もその次元に移動するのであろう?」
「……驚いたな。お前、本当にごく潰しなのか? 技術部の同僚でも説明無しには気付かなかった事まで気付きやがるとは……」
クカカカカッ、愉快である! 自らの一方的な評価が誤りだった時に浮かべる顔は実に愉快であるな!
「彼は能力だけは優秀だからね。それは私が保証するよ。ただ、それが結果に生かされないのが問題なのだよ……」
「なるほどな。だから首にもならずにごく潰しか……だが、それなら話は早い。お前にはこの装置を使って自分の世界に入ってもらう。そして直接的に世界を導くというのが今回の実験だ」
「ふむ、思ったよりは悪くない実験であるな。何事も一番は良い物であるからな。しかし、課長から聞いていないのであるか? 我の世界は先日に消去したばかりである。今はまだ導く程の文明は出来ておらぬはずである」
「その点は心配いりません。今回の実験内容を事前に聞いて、以前にセーブしていた時点での世界を再構築してあります。時代は我々の歴史でいう13世紀の半ば頃、一般的には暗黒時代と呼ばれた時代となっています」
「確かその世界は暗黒時代から脱却出来ずに我が消去したのであったな。つまり、我が世界へ入る事で暗黒時代が終わる様な流れになれば成功であるという事か」
「まぁ、そうなればベストではあるがね。実際の所は世界への影響は今回の実験の目的では無いよ。目的はシユウ君の作ったこの装置の安全検証だ。何せ、まだ一度も生きた者を使って次元移動を行っていないからね」
なぬ? 今、課長がとんでもない事を抜かしおった気がするである……
「課長、今、我には安全保障が無いと聞いた気がするのであるが? よもや我を合法的に抹殺しようとは思っておらんであろうな?」
「いやいや、さすがにそれは無いよ。君とは言え、実際に実験で死人が出ては私の責任問題になるからね。いや、本当に……そんな事が無ければいいねぇ~……」
「いや、顔……それに嬉しそうに言わないで欲しいのである」
「安全に関しては一応の確認はしてある。万が一という事が無いとは言えないが、可能な限りの対策をしている事は約束するぜ? 実験での役割分担はこうだ。お前は実験体として自分の世界に入る役だ。俺は装置の出力調整と変換中のお前のデータを観測する。課長殿は俺達のお目付け役。そして次元移動した後のお前のサポートだが……」
「それには私がオペレーターとして参加いたします。主、くれぐれも普段の怠け者ぶりを発揮しない様にお願いします。下手な事をすると見捨てますよ?」
「お前は本当に酷いであるな……まぁ、いいのである。よろしく頼むぞ、ミカエル」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃ、装置の前に行ってくれ」
「分かったのである」
「では、始めるぞ。装置起動!」
むむっ! 何やら魂ごと引っこ抜かれる様な奇妙な感覚であるな! これが次元移動の感覚であるか! 正直な所、随分と不快な感じである!
「装置による次元変換率90%! 間もなく移動が始まるぞ!」
「主、ご武運をお祈りします」
おぉ、ミカエルが我に殊勝な言葉を……! 少し感動である! っと、ぬぅおおぉぉぉ~……!
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