第2話 【ブイ】最高の輝き

 追いかけているもの、欲しいものがあるとする。

 それらの眩さが最大光度になる頂点、その瞬間とはいつだろう?


 生まれた瞬間? まぁ、近いね。


 勿体ぶらずにいこう。

 答えは、『俺がそれを欲しがっている』、この時さ。

 販売価格5万6千ジル(実に俺の食費3ヶ月分)だって最高のコスパに感じられる。

 そしてそれが今の今、なのさ。


 馴染みのゲームショップの店内。

 ジルの入った肩掛けカバンを左手で庇うように押さえる。


「オヤジ、アレを頼む」


「ブイさん毎度。お楽しみのやつだね」


 店主が奥に入っていき、大きな黒い箱を抱えるようにして戻ってきた。

 そして箱をカウンターに置き、紫の紋章のついた上蓋をそっと開ける。



『カースド・アーク・ドラゴン 限定仕様』

 冒険者ゲーム用スタチュー。限定生産200体。

 時の竜ジ・エンキラルと対を成すと云われている最強の竜をモチーフにデザイン。

 台座には稀代の造形師ケタラのサイン入り。マジョラ・チタノームの特殊コーティングによる輝きは鑑賞する角度により色合いが変化、複雑繊細な造形との相乗効果により脈打ちすら感じさせる。


 冒険者ゲーム「ロード・オブ・ジオー」の数ある追加シナリオの中でも難易度最凶、いや最狂とされる「カース・オブ・カース」のダンジョンの果て底。

 パーティが犠牲に犠牲を重ね行き着いた先にコイツが現れる……


 ゲームマスターの俺がこのスタチューをフィールドに置いた瞬間。

 ズォンッッッ。

 仲間達がダイスを握りしめ、息を飲む姿が思い浮かぶ。……畏怖!!


「……こちらで間違いないかな?」


 店主が上目遣いに視線を向けてくる。


「あ、はい。……こちらで」


 震える指先で紙幣を取り出し、数える。

 挿絵師の仕事で1枚1枚描き得た金。

 5万6千ジルはあのキノコ図鑑の案件でいえば……キノコ絵何枚分だろうか。

 キノコが一個、キノコが二個……。

 いつの間にキノコを数えており、慌てて紙幣を見直し、支払う。


 神妙に、ずしりと品を受け取る。

 こんな時に決まって目の前に浮かぶ第一文言はこれだ。


『やってしまった』


 ブイよ、気を取り直せ。念じろ。


 欲しいものは欲しい時に買った時、最高潮に輝く。


 瞬間のキラメキを今捕まえなくてどうする?


 後悔などない!!




挿絵

・ズォンッッッ

https://kakuyomu.jp/users/nagimiso/news/16818622174794456231

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