駅前おばあちゃん占い処ー悩めるあなたへ、ちょっとだけ未来のヒントをー

Algo Lighter アルゴライター

第1話 「赤い糸のほどき方」

1. 出会い——駅前の小さな占い処

  冬の商店街。息を吐くと白くなる寒空の下、駅前の小さな占い処の暖簾がゆらりと揺れた。

「占ってもらおうかな……」

迷うように立ち止まったのは、一人の若い女性だった。


千紗(ちさ)、25歳。

大手企業の事務職として働く彼女の手には、一枚の結婚式の招待状が握られていた。

そこに書かれた新郎の名前を、彼女はじっと見つめる。


「このまま行って、本当にいいのかな……?」

そう呟いた彼女は、意を決したように小さな扉を開いた。


2. ふしぎなおばあちゃん

「まあまあ、寒かったでしょう。奥へどうぞ」


占い処の奥には、一人のおばあちゃんが座っていた。

白髪をきっちりと結い上げ、和やかな笑みを浮かべたその人は、まるでお日様のようにあたたかい雰囲気を持っている。


「今日はどんなことで悩んでいるのかしら?」


「……結婚についてです。私はこのまま、彼と結婚するべきなんでしょうか?」


おばあちゃんは、しばし目を閉じた。そして、おもむろに千紗の手を取ると、指先をそっとなぞるように見つめる。


「……あなたの心の中に、もう一つの赤い糸が見えるよ」


「赤い糸?」


千紗は驚き、思わずおばあちゃんを見つめた。


3. ほどけない赤い糸

「赤い糸っていうのはね、時に絡まり、ほどけなくなってしまうものなんだよ」


おばあちゃんは、穏やかに言葉を紡ぐ。


「あなたは、今の婚約者のことを嫌いではない。でもね、心の奥底では、別の誰かのことをまだ忘れられていないんじゃないかい?」


千紗は息をのんだ。

脳裏に浮かんだのは、かつての恋人、蓮(れん)の顔だった。


彼とは大学時代に出会い、長い時間を共に過ごした。

笑い合い、夢を語り、未来を誓い合った。

だが、卒業を機に、互いの進む道が違ってしまい、千紗は「これは仕方のないこと」と自分に言い聞かせて別れたのだった。


……なのに、なぜだろう。

婚約者の隣にいるたびに、心のどこかで「何かが違う」と感じてしまうのは。


「……でも、そんなのただの未練じゃないですか?」


千紗は必死に否定する。


おばあちゃんは、優しく微笑んだ。


「そうかもしれないね。でもね、未練というのは、ちゃんとほどかないと、ずっと心に絡みついたままになるものさ」


「ほどく……?」


「ええ。あなたは、彼ときちんと別れを告げた? 自分の気持ちに整理をつけた?」


千紗は言葉に詰まる。


……蓮とは、ただ「仕方ないね」と別れただけだった。

本当は言いたいことがあった。

聞きたいことがあった。

でも、それを伝えないまま、時が過ぎてしまった。


「……ほどくには、どうすればいいんでしょうか?」


おばあちゃんは、にこりと笑った。


「今のままじゃ、あなたの心の糸は絡まったままだよ。でもね、人の縁というのは、きちんと向き合えば、ちゃんと整うものさ。だから、今度、彼に会いに行ってごらん?」


「会いに……?」


「最後にちゃんと、自分の気持ちを伝えるんだよ。そうすれば、その糸はちゃんとほどけるからね」


4. 本当に大切なもの

占い処を出た千紗は、冬の冷たい風に吹かれながらも、心の中が不思議と落ち着いているのを感じた。


彼に会いに行こう。

きちんと、自分の心にけじめをつけよう。


そして後日——。


蓮と再会した千紗は、ずっと言えなかった言葉を口にした。


「……本当は、ずっと好きだった。でも、一緒にいる道を選べなかったことが、ずっと心に引っかかってたの」


蓮は、驚いた顔をしながらも、静かに頷いた。


「俺も……同じことを思ってたよ」


そう言って、彼は千紗の手を取った。


その瞬間、千紗の心の中で何かがスッとほどけたような気がした。


未来はまだ分からない。

けれど、もう迷わない。


千紗は微笑み、そっと蓮の手を握り返した。


5. ふしぎな予言

「ほう……ちゃんと、ほどけたみたいだねえ」


占い処で湯呑を手にしながら、おばあちゃんは静かに目を細める。


「さて、この先どうなるかは、もうあたしの知るところじゃない。あとは二人次第さね」


暖簾の向こうには、笑顔で手を繋ぐ千紗と蓮の姿があった。


商店街の風が、そっと二人の背中を押していく。


まるで、新しい未来を祝福するかのように。


エピローグ

「赤い糸は、結ばれるだけじゃない。時にはほどくことも、大切なんだよ」


おばあちゃんの占い処には、今日もまた、悩める誰かが訪れる。

人の未来は、きっとちょっとした気づきで変わるもの。

おばあちゃんは、そんな未来を、そっと見守っているのだった。

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