第7話

 アデルと見つめ合っていると、突然部屋にカイさんが現れた。いつも魔王軍の人たちは神出鬼没だ。


「ついさっき王国でユーデリックの気配がしたけど、どうかしたのか?」


 カイさんの問いに、アデルがアーサーのことを説明する。すると、カイさんはニヤリと楽しそうに笑った。


「へぇ、なるほどね。エアリスにそんな仲の良い異性がいたとは。そいつとはどこまでいったんだ?キスくらいはしてるのか?」


 カイさんの質問に、なぜかアデルから異常な殺気が現れる。怖い、カイさんが来るとアデルは突然怖くなる。お二人、そんなに仲良くないのかな……?


「な、カイさん何か勘違いしているようだけれど、アーサーとは別に何もないですから!」

「ふーん、でもそこのところ、アデルだって気になるだろ?異性だし、エアリスにその気が無くてもその男はエアリスのことどう思ってるかなんてわからないしなぁ」

「アーサーはそんな人じゃないですってば!」


 否定してアデルを見ると、ものすごい冷ややかな視線を向けてきている。アデルがどうしてそんなに冷たい視線なのかわからない。わからないけれど、ものすごく居た堪れなくて目線を逸らしてしまった。すると、アデルは静かにため息をついて口を開く。


「カイ、そんなことよりここに来たのなら何か有益な情報を持ってきたということだろうな」

「あぁ、そうそう。新しい聖女様はどうやら魅了の力があるらしい。手当たり次第そこらへんの男どもを魅了して良いように使ってるみたいだな。王や王子も魅了で騙されてる。全く、いけ好かない女だ。それから」


 ケッと吐き捨てると、カイさんはまた不適な笑みを浮かべてアデルをみる。


「急に王城内の一部が騒がしくなった。エアリスが生きてると知って慌ててるようだな。さっきのアーサーとかいう男が言ったからなんだろう。国内に知れ渡る前にこっそりとエアリスを始末したくて仕方ないみたいだな、数日中にこちらに攻め入るかどうか検討中のようだぜ」

「そうか、詳細がわかったらまた報告しろ」

「任せとけ」


 カイさんは腕を組んで大きくうなづいてから、私を見てにっこりと微笑んだ。カイさんもアデルの異母兄弟というだけあって見た目が美しい、全く心臓に悪い兄弟だ。


「それじゃエアリス、またな」

「ちょっと待て」


 挨拶をしていなくなろうとしたカイさんに、アデルが声をかける。一体どうしたんだろう?


「俺は最近不機嫌だったか?」

「は?」


 突然の質問にカイさんはポカンとしている。そして私も同じようにポカンとしてアデルを見た。なぜそれをカイさんに質問したのだろう。唖然としていると、カイさんは私とアデルを交互に見てほう、と呟いた。そんなカイさんを見て、アデルは罰の悪そうな顔をしている。


「……いや、いい」

「あぁ、えっと何?もしかしてアデル、自覚なしだったのか?」

「何がだ」


 アデルがムッとしてそう言うと、カイさんは楽しそうに笑い出した。


「あっははは!まじか!いつもは冷静沈着、何事にも動じずにむしろ高みの見物くらいの余裕をかますお前がねぇ。いや〜楽しい楽しい」

「だから何がだ!」


 アデルが声を荒げると、カイさんは笑顔をしまって突然真顔になる。そしてアデルをじっと見つめながら静かに低い声で言った。


「教えてやらねぇよ。それくらい自分で考えろ。まぁ、わかった頃には他の誰かに奪われてるかもな。そうなってからじゃ遅いんだよ、ばーか」


 じゃあな、と言った次の瞬間にはカイさんはいなくなっていた。急に静かになる部屋。居た堪れない、とてつもなく居た堪れない。


 無言に耐えきれなくなって何か言おうかと口を開きかけると、アデルがじっと私を見つめて手を伸ばしてくる。その手はなぜか顔の目の前まで来て、指先がそっと私の唇をなぞる。え?何をしているの?


「お前は、あのアーサーとかいう男とキスをしたのか?」


 ジッと私を見つめるアデルの瞳は戸惑うように揺れている。どうして、そんな顔をしているのだろう。アデルの触れる指先が熱い。胸がドキドキとうるさくなっている、どうしよう。


 キスなんかしていないと言いたい、そして何より今すぐにでもこの状態から逃げ出してしまいたいのに、アデルの瞳に囚われて身動きが取れない。


 アデルの指先が何度か私の唇をなぞると、その手は静かに離れていった。アデルはその手をジッと見つめて静かにぎゅっと握りしめたかと思うと、すぐにアデル自身も私から離れていく。


「明日、幹部会議を開く。エアリス、お前も準備しておけ」


 そう言って、アデルは部屋から姿を消した。新しい聖女のこともあるし胸を高鳴らせている場合では何のだけれど、まだ心臓がバクバクとうるさい。


 アデルは一体どういうつもりなんだろう、どうしてあんな質問をしたのだろう?わからないことだらけだ。静かにため息をつくと、部屋にその音が鳴り響いた。





「ユーデリック、報告を」

「はっ」


 翌日、魔王軍幹部会議が始まった。アーサーを助けに行ったユーデリックさん、あの後アーサーはどうなったんだろう……。


「新しい聖女に元聖女が生きていることを報告した騎士団長アーサーは地下牢に投獄されました。部下たちに慕われているようで、酷い扱いは受けておらず、むしろ牢から出すように嘆願されています」


 人柄がよく人望のあついアーサーはやっぱりみんなから愛されている。アーサーが無事と知ってホッとした。


「だがあの男は部下たちが自分を擁護することで聖女や国王から部下たちに危害が及ぶことを恐れているのでしょう、余計なことはするなと言って部下たちをなだめているようです」


 アーサーだったら確かにそうするんだろうなと微笑ましく思う反面、やっぱりアーサーのことが心配になる。そのまま牢にいたら、いつ処刑されてもおかしくないはずだ。


「アーサーは牢に入れられたままで大丈夫なのでしょうか?」


 思わず質問すると、会議に出ている全員の視線が集まる。そうだった、今は会議中だった……。居た堪れないけれど、でもやはりアーサーのことがどうしても気になる。


「今のところは大丈夫だろう。アーサーの騎士としての腕を国王は見込んでいるようだからな、殺すという選択はないようだ。だが、聖女はあの男を使って何か企んでいる様子ではあった」


 聖女が何かを企んでいる。きっと良くないことに決まっている。どうしてアーサーを救出してくれないのだろうとヤキモキしていると、ユーデリックさんはそれに気づいてフン、と鼻息を飛ばした。


「俺は助けようとした。だが、あの男がそれを拒んだのだ。魔王軍に助けられる義理はない、放っておいてくれと。それから、エアリス、お前のことをとても心配していたぞ。俺のことはどうでもいい、エアリス様のことだけは何があっても守ってくれと、そればかり言っていた。お前は大切に思われているんだな」


 ユーデリックさんの言葉に、胸が締め付けられる。アーサーはどんな時だって自分のことより周りのことを優先するのだ。牢に入れられて命も危ういかもしれないのに、それでも自分より私のことを思ってくれている。もっと自分のことも大切にしてほしいのに。


 ふと、強い視線に気がつく。アデルがじっと私を見つめていた。真顔なのにどこかほんの少しだけ寂しさを感じる瞳。どうしてそんな顔をするのだろう。


「魔王様、失礼します」

「どうした」


 突然、従者のような人、いや魔物?が現れた。


「王国から届いたものです。聖女エアリスに関することなので早急に返事を求むとのこと」


 魔物がアデルに一通の封書を渡す。アデルがそれを開くと、封書から光が放たれ、空間に映像が映し出された。


「ごきげんよう、魔王アデル、魔王軍の皆様。そして、そこにいるのでしょう?元聖女のエ・ア・リ・ス・様」


 映像には、薄桃色の髪の毛をツインテールにした可愛らしい女性が、その可愛らしい顔に似つかわしくない悪どい笑みを浮かべていた。



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