2 秋の依頼
第3話 陽光の誘い
街路樹が紅葉を始めた頃、一人の若い女性がまじない師のシルビアを訪ねてきた。
「はじめまして。ノノハと言います。こちらでお守りをいただけると聞いてお伺いしました」
詳しく話を聞くと、小さい頃から可愛がってくれた祖母が病に倒れ余命宣告をされてしまったので、祖母本人は余命のことを知らないものの、最期まで幸せで穏やかに過ごせるように、二人お揃いのお守りを作ってほしいとのことだった。まじないの掛け方にも色々あり、シルビアは鉱物を使った呪術が得意だが、今回はノノハの求めに応じミサンガを編んで呪術を施す。
「これが私の祖母です」
ノノハは一枚の写真をシルビアに見せた。ノノハと祖母が肩を寄せ合い、カメラに向かって微笑んでいる。書斎で撮られたものらしく、二人の姿は窓からのこがね色の日溜まりに包まれ幸せそうだった。
「祖母はこの書斎で安楽椅子に座ってよく私に絵本を読んでくれました。優しくて大好きな祖母です」
「ああ、とてもお優しい顔をされているね」
写真に写る老女はノノハとよく似た柔和な顔をしていた。孫のノノハを可愛がってきたことが写真からも伝わってきた。シルビアはノノハの思いを汲み、頷いた。
「ミサンガは明日までに編んでおくよ。忙しいだろうがまた取りにおいで」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ノノハは礼を言って頭を下げ、その日は帰っていった。
シルビアはさっそく道具を出して作業に取り掛かった。二人の絆を思いながらオレンジと白の糸でミサンガを編む。まじない師の祈りというものは呪術品に込められると星屑のような煌めきに変わる。ノノハの依頼通り、幸せと平穏を祈りながらミサンガを編むと、その編地の上に、まじないの掛かった証である星屑のような煌めきが宿る。そこへハイトがやってきて興味深そうにテーブルを覗き込んだ。
「これ、なぁに?」
「これはね、お客さんに渡すためのミサンガだよ。幸せを祈って編むんだ」
ハイトはまだ言葉が覚束ず思ったことを上手く言語化できないが、自分でもミサンガを編んでみたいらしく、シルビアの膝によじ登った。
「仕様のない子だ」
シルビアは笑いながらハイトを抱え上げ、自分の膝に乗せた。ハイトの手を取り、二人で一緒にミサンガを編む。
オレンジの糸と白い糸を二本ずつ用意し、一本一本独立させて扇状に広げる。左端二本の糸で『4』の形を作り、互いを絡めて結び目を上へ寄せる。もう一度同じことを繰り返す。次は右端二本の糸で同じことをする。――糸の並び順を替えながらこの手順を繰り返し、一本のミサンガに形成していく。
ミサンガを編みながら、シルビアは気付いた。ハイトのまじないの力は『糸』と親和性の高いものだった。
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