第3話 絶対の盾 〜absolute silt〜
先程までザワついていた会場内がシーンと静まり返る。普段平凡で温厚だと噂が流れている僕が、このような姿を見せた事への驚きもあるだろう。
「さあ、どうするつもりなんだ?黙ったままじゃわからないよ?」
「………っ!」
『…………』
「だんまりか…なら父上に代わって僕が沙汰を言い渡すしかないな。まずはツヴァイ、王位継承権の剥奪だね」
「なっ…何を馬鹿な事を!」
「だってそうだろう?こんな衆目を集めた中での大失態。僕が父上の立場なら、王としては勿論外交の場になんて立たせられるもんじゃないね」
「そ、そんな馬鹿な…俺は…」
「それから聖女デザイア。貴女には…ん?」
聖女への沙汰を伝えようとしたが…攻撃魔法の詠唱⁈こんな所で正気か?
『この第一王子さえ居なくなればっ…!フロストスピア!』
氷の攻撃魔法が僕に向かって放たれる。しかし僕が慌てる事はない。なぜなら
『はぁっ!!』
最強にして絶対の盾が僕の傍に控えているからだ。対魔法防御シールド:イージス。この国の魔法士でこの盾を破れるものはいない。
『そ、そんなっ…ツヴァイ様!補助魔法を付与します、剣を!』
「あ、ああ!頼む!」
『エンチャント:身体強化、エンチャント:武器強化!』
あーあ、少し僕も煽ってしまったとは言えこんなすぐに乗ってくるとはね。しかしツヴァイの剣の腕は一流だ。補助魔法を受けた状態であればこの国でも勝てるものは居ない。目の前の僕の婚約者を除いて。
「この冷血女め!王族に剣を向けるとは不敬どころではない!兄上の婚約者である、貴女を跪かせるのは今日だ!」
肉体強化されたツヴァイは、弾丸が飛び出すような猛烈な勢いでメアへと斬りかかる。周囲から悲鳴が上がり、剣がメアに届いた…かに見えたが寸前で止まっていた。
「な、なんだこれは…」
『氷束縛魔法:アイスネット。炎の武器を用いない限り簡単に切れる事はありません。この網が体温を奪い、戦闘力を奪っていきます』
「馬鹿な…俺がこんな簡単に…」
『ツヴァイシュヴェールト殿下。貴方の剣の腕は認めます。でも…私の愛する人を守るためなら、アインの兄弟である貴方が相手でも躊躇はしない!』
無力化されたツヴァイを見て、へなへなと地面に膝をつく聖女。それを見て僕は衛兵に捕縛と魔法無力化の魔道具を聖女につけさせた。
「さて2人ともやってくれたね?まずは聖女デザイアの沙汰の続きと行こうか。その前に…ウェンデル枢機卿、来ていらっしゃいますでしょう?」
絶望の表情で前に出てきたウェンデル枢機卿。この国に派遣されているトラオム教会のトップだ。どう責任取らされるかと考えたら、それはこんな表情になるよね…。
「アインシュトラール王子殿下…ご、御前に」
「うん。この馬鹿騒ぎをずっと見てたなら分かると思うけど、完全な内政干渉と暗殺未遂だよね?お宅の聖女様の教育はどうなってるの?」
「は、ははぁっ!返す言葉もございません…」
「なるほど、流石に枢機卿は弁えてるみたいだね。貴方が教会側の責任者とは言え、聖女を含めた沙汰に独断で返事は出来ない、と思ってたんだけど合ってるかな?」
「ご、ご慧眼に感服致します…仰る通りです」
「じゃあこうしよう。僕から教皇宛に抗議文と合わせて要求を送ろう。勿論、王である父上が確認と署名した上でだけどね」
「そ、その差し出がましいかと存じますが…要求の内容をお聞かせいただけませんでしょうか?」
「そりゃあ気になるよね。いいよ、教えてあげる。1つ目はデザイアから聖女の地位剥奪の上、我が国での10年間の無償奉仕だ。基本的には国内で希望するものには無償で回復魔法を使用させる。そもそも聖女は在任中、清い身体でなければいけないだろう?だから既にその聖女様の存在は教義に反しているのさ」
「そ、それは…いえ、飲むしかない条件ですな」
「二つ目はここに教皇を連れて来てくれる?教会の象徴でもある聖女様が堂々と我が国に宣戦布告してくださったんだ。謝罪くらい来てくださいますよね?」
「は、はい…なんとしてもお連れ致します…」
「うん、後は…以上!」
「えっ…?そ、それだけでよろしいのですか?」
「僕からの要求は以上ですよ。まぁでも…教会側から示していただける誠意があれば、それは頂戴しますけどね?何もなければそれはそれで僕たちの口が少し軽くなるかもしれないよ?」
「は、ははぁっ!寛大なご処置に感謝致します。我々も出来うる限りの対応はさせていただきます故、教皇と共に伺うまでお待ちくだされ(国王もやり手だが…この王子はそれ以上に敵に回してはならないお人だ…)」
後日教会に書面をしたためる旨を伝えて、枢機卿をこの場からは帰す。聖女は後から監視を付けて教会に送り届ける旨も伝える。
「これで教会とも話はついたね。後はツヴァイだけど…正直やらかし過ぎて僕の独断じゃ決めれなくなってしまったよ💦面倒だけど父上に相談するしかないか…」
そう考えていると一際大きなどよめきが会場内を包む。やっと来たか…父上。
「我はヌル・シュタルト・フォン・ブリッツェンである。到着するまでの間に随分騒がしくなってしまった事を謝罪しよう」
そう言うと一国の王が会場内のすべての客人に対し頭を下げた。これで僕がやりたかった事がやりやすくなるな。
「父上、お待ちしておりました。既にメアウス嬢の力を借りて、騒ぎは鎮圧させております」
「うむ…大義であった」
「そこで褒美…と言いますか、お願いを一つ聞いていただきたいのです」
「褒美じゃと?また何か企んでおるな…好きにせい」
「ありがとうございます!フェリーチェ嬢、こちらへいらしてください」
『えっ?わ、私ですか?』
事態を飲み込めていないフェリーチェ嬢を、捕縛された状態の弟ツヴァイとデザイアの前に連れて来た。
「お前たち、会場内の方々には父上自ら頭を下げられた。だがこの場での1番の被害者は誰だ?僕ではない、フェリーチェ嬢だ。今まで彼女にしてきた仕打ちに対して、詫びる気持ちが一片でもあれば頭を下げるんだ」
「………本当に申し訳ありませんでした」
『申し訳ありませんでした…』
頭を下げそのまま項垂れる2人。
「さあフェリーチェ嬢。今後2度と2人に会いたくはないでしょう?だったら思った事は言っておいた方がスカッとしますよ?」
『…ええ、そうですね。お二人とも今日まで散々悩まされ辛い思いもしましたが…今のお二人の姿を見たら本当に無様ですね。人の言う事は聞くものですよ?それからツヴァイ殿下…貴方のような顔だけの男は私の方から願い下げです!』
勇気を出して溜め込んだものを吐き出したフェリーチェ嬢。僕はその勇気を讃え、拍手を送る。メアも、父上も…そして会場内からも拍手が送られる。
その時の彼女の表情は憑き物が落ちたかのように晴れやかな顔になっていた。
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