第3話

窓の外に見える桜を眺めながら、そっと目を閉じていく。遠くから聞こえてくるバイクの音に兄達を思い出す。


『向日葵、守ってやるからな。』


『向日葵、行くぞ。』


『向日葵………。』


琉生の心地良い声が私を呼ぶ。


隣を並んで歩くのも私だけだった。


助けに来てくれるのも私だけだった。


『向日葵を乗せてやれ。』


『琉生君の後ろは駄目なの?』


『悪いな、女は乗せない。怪我でもさせてみろ、責任は取れないからな。』


笑いながら話す琉生にチクリと胸が痛んだ。きっと琉生は女を乗せる事はない。


『琉生君も遊び過ぎには気を付けないと。女に刺されるよ?』


『かもな。まあ、そんなヘマはしない。』


琉生がバイクに跨がり、フルフェイスのヘルメットを被った。爆音が響き始めた。


『向日葵、乗れ。』


結局、乗せてくれるのは兄の新だ。私は後ろに乗り、兄の腰に掴まった。


『行くぞ。』


琉生の声でバイクが走り出した。いつもいつも琉生の後ろには乗せてもらえない。


閉じていた目を開き、教壇に視線を向ければ、生徒受けしそうな愛想を振り撒く教師を見つめた。


バチリと視線が合えば、すぐに逸らされる教師の瞳に溜め息を吐いた。


「同じか…………。」


小さな呟きが漏れた。私の素性を知る先生は私と目を合わそうとしない。


まあ当然か………。


私には兄達がいる。


友達なんていなくても………。


ずっとそう思って生きてきた。先生も結局は裏の人間の顧問弁護士をするような家とは関わりたくない筈だ。


「これでホームルームを終わります。」


ガヤガヤと騒ぎ出す生徒、先生に駆け寄る生徒、鞄を持ち廊下に飛び出す生徒……。


私も鞄を持ち、誰にも挨拶する事なく教室を後にする。


「如月、待て。」


「何?」


視線を向ければ、青山悠人が私の背後に立っていた。鋭い視線を私に向けている。


その瞳をじっと見据えた。


「送る。」


「いい。一人で…………。」


「新さんに言われてる。行くぞ。」


私の言葉を遮り、悠人が歩きだした。私は大きな溜め息を吐くと悠人の背中を追った。


前を歩く悠人は人を寄せ付けないオーラを持っている。いつも鋭い瞳をして雰囲気も黒い。


「青山は裏の?」


「はあ?」


「極道の息子なの?」


悠人が口を閉ざした。沈黙のまま、私と悠人は駐輪場まで来た。


「親父がそうだ。」


「そう。」


「乗れ。」


いつも通りにバイクの後ろに乗り、悠人の腰に腕を回そうとしたが………。


「悪いが、肩に掴まれ。」


「…………。」


「女が苦手なんだ。」


悠人の冷たい声、冷たい瞳は女が嫌いだからか?


素直に悠人の肩に掴まれば、ゆっくり走る悠人のバイクに乗せてもらった。


「優しい所もあるのね。」


「チッ…………。」


舌打ちを漏らす悠人にクスリと笑った。


「兄達は?」


「ウエストの溜まり場にいる。」


家まで送ってくれた悠人のバイクから降りた。悠人にヘルメットを返そうとしたが……。


「それ、新さんのだから。お前が持ってろ。」


「そう。青山、ありがとう。」


「悠人だ。双子の弟は春人だ。」


「悠人、ありがとう。」


悠人がバイクを吹かし、勢いよく走り出した。私を乗せている時とは大違いだ。


「ふふっ、意外ね。」


大きな門を括り抜ければ、玄関の扉を開けて家の中に入っていく。


「女嫌いでも乗せるのに………。琉生君は乗せてくれない訳?」


無性に苛々が募っていく。私はベッドに寝転がり、目を閉じた。


「向日葵だけを守ってやる。」


昔、琉生が言ってくれた言葉。私は今でも覚えている。


「琉生くん………。」


誰をも惹き付ける容姿の琉生は女達から絶大な人気がある。そんな琉生は色んな女を抱いている………。


それを想うとチクリと胸が痛んだ。

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