要求の果てには

「望遠鏡ですか? それはこの世界ではまだできていません。そもそも魔法がありますし……地上に降りるにあたって、そういった特別なアイテムをお渡しするつもりだったんですけど、望遠鏡では……」


 淵の要求に反抗するように、煮え切れない反応を示すティークゥ。

 もちろん淵はそれで恐れ入ることはなく、さらに要求を突き付けた。


「ああ、魔法がある感じですか。ティークゥさんもそれ使えるんですよね?」

「ま、魔法とは違うんですが……」

「使ってください。そうですね、洞穴とかそういうものがあれば見たいですね」


 淵の要求が具体的になってしまったことで誤魔化せないと思ったのだろう。ティークゥは自棄になったように手を振った。


 そうすると雲の隙間がそのままレンズの働きでも付与されたようになり、森の中の小さな岩山がクローズアップされてゆく。


 そうすると果たしてそれが淵の狙い通りであったのか、そういった岩山の洞穴の前に、緑の肌の醜いモンスターがたむろって様子が確認できた。

 子供ほどの背丈で、その上、がに股猫背。


 防具とはとても思えない粗末な衣服に、石器のような雑な武器。

 何がおかしいのか下卑た笑みを浮かべて、お互いに指さし合っていた。耳障りな笑い声が今にも聞こえてきそうな雰囲気である。


「あれはゴブリンですね。ああいった妖魔を退治して、この世界の人間を守って欲しいと転移してきた方にはお願いしているのですが……うまくゆかないものです」


 ティークゥが淵の要求にあっさりと応えたのは、そういった説明に繋げる計算があったためなのだろう。

 淵も神妙にうなずいていた。


「なるほど。あれがゴブリンですか。……あれらは私が思う特徴と同じなのでしょうか? がめつく、意地汚く、卑怯で、色を好むといった具合の」

「そうですね。そういった特徴の妖魔になります」


 淵のそういった確認に対して、ティークゥは素直に肯定して見せた。

 あまりに的を射ている形容だったので、否定のしようが無かったとも言えるが、淵がそういった認識であることはティークゥにとっても喜ばしい事であったのだ。


 癖はかなり強いが、召喚しただけの事はある、と。


「では、私の考えが有効かどうかを試すことが出来そうです。まずは……ティークゥさんの髪を頂戴したい。それとその杖ですね。具合がよろしいので、そちらも貸してください」


 ところが淵はティークゥの安堵をあっさりと裏切り、さらなる要求を突き付けてきた。

 それに対してティークゥは面食らいながらも、


「一体、何を考えているんです?」


 と、いまさらながら、そんな当然の疑問を淵にぶつけてきた。

 実際、怒り出す寸前までいっている。


 しかし淵は、その怒りにもまた気付かぬ様子で、こう返事をしてきた。


「何を考えているのかですって? 決まっています。です」

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