わたしとあなた、よんぶんのにっ
田中エニリカ
四分の一
――小博、翡依。アタシといちな、付き合うから
放課後、わたし達がいつもたむろしている公園で、彼女は急に告げた。
わたし、
情緒的に言うとさっきまで夕暮れ時だったのに気がついたら日が落ちてる感覚。
わかりにくく言うと、状態異常で
ひとことで言うと、“なんかいやだ”だと思う。
その日のことで覚えているのはその感覚と、隣から感じたわたしへの視線。
そっちの方は、後になって思えば、そういうことだったんだと思う。
――――――――――
そんなことを告げられてから、早一週間が経とうとしている。
時季は秋口。ようやく暑くなくなったと思ったら急に寒くなる頃。
「小博、りっきーといっちー、めでたいね」
この一週間前のことを唐突に祝ったのが、わたしと同じく名前に上がった
翡依はわたしと同級生。高校1年。C組。女子。わたしと同じ。
この前座右の銘を聞いたら
りっきーはいちなと付き合ってる律月(後述)、いっちーは律月と付き合ってるいちな(後述)を翡依(今述べてる)が呼ぶ時の呼称。たまに変わるけど。
「なんか、この一週間は思ったよりもあんまり変わんなかったけどね。せいぜい、二人が来るのが10分遅くなったくらい」
翡依に率直な感想を告げる。なぜ翡依が今その話をしたかは、多分気分だと思うから置いておく。今週3回ぐらいめでたいねって言ってるのを聞いた気がするし。
まあ、これからかもね、と言いながら、翡依は側にあったブランコを漕ぐ。
わたしと翡依が先に公園で駄弁って、後から件の律月といちなが来て、その後四人で駅に向かうのが、わたし達の今年の朝の習慣。
なので、今もこうして、翡依と話しながら律月といちなを待っている。
ちょうど、向こうのほうから律月がやって来るのが見えた。
「やっほー律月」
「おはよう、小博、翡依」
「ちゃお」
「律月一人?」
「いや、すぐに来ると思う」
わたしに先日ご報告をした張本人。
歳はわたしの一つ上。高校2年。確かE組。女子。
真面目で実直、頼りになる。しかもノリがいい。たまに抜けてるけど、基本的にはカッコいい。モテる。好き。
「おはよ、小博ちゃん、翡依ちゃん」
ゆっくり来たのが
優しいお姉ちゃん。たまに優しくない。この四人で一番ふざける。たまに翡依と手を組んで。好き。
「あっ……」
いちながなぜかこちらを見る。
「面白そうだから黙っておこう」
翡依がいちなのほうを見ながら言う。絶対に悪いことを企んでいる顔で。
「小博、背中に体脂肪率減少シールが付いてるぞ」
律月がわたしの背中に付いていたらしいシールを剥がす。
「ファッションだって」
翡依が適当なことを言う。
「なんだ、ファッションだったんだ」
いちなが翡依に悪ノリする。
「そんなわけないでしょ」
わたしが否定しながらシールを受け取る。
モーニングルーティンを終えて、わたし達の朝は始まる。いつも通り。
いや、毎日体脂肪率減少シールを付けているわけじゃないけど。
注、体脂肪率減少シールはわたしがいつも飲んでるお茶に貼ってあるシールのこと。
進んだ注、今日はたまたまペットボトルから剥がしてその辺に置いといたシールがカーディガンに付いただけ。
――――――――――
「小博、この前言ってたやつ、完成したからやって」
授業の合間の10分休憩の時間、翡依がわたしの席に来て言った。
翡依はゲームを作るのが趣味で、わたしはゲームをするのが趣味。
翡依のこれは、作ったゲームのテストプレイをして、という意味。だと思う。
この前、「今作ってるやつ今度テストして」って言われたし。内容はわかんないけど。
ちなみに律月は絵を描くことが趣味で、いちなはシナリオとか文を書くことが趣味。
だから、たまにみんなでゲームを作ったりもする。今日は翡依が一人で作ったやつみたいだけど。
翡依が作るのはスマホゲームからブラウザゲーム、PCゲームなど色々だけど、今回はブラウザゲームっぽい。
「このURL?」
「そう」
翡依から送られてきたメッセージを開く。
サイトを開くと、虹色の背景がぐるぐるしているWebサイトが表示される。
目、痛っ。
「なにこれ?」
翡依に苦情混じりに訴える。
「イチャイチャ判定マシン」
「……?」
首を傾けて伝わらなかったアピールをする。
「イチャイチャ判定マシン」
二度言われた……。
「小博、今の無言で首を傾げる動作、可愛かった」
……むむむ。
「画像を入れるとさまざまな統計情報から画像のイチャイチャ度を測定してくれる」
翡依がページについての説明を始める。今回はゲームというよりWebのツールみたい。
……さまざまな統計情報ってなに?
「たとえば……」
翡依が無言で右手をこちらに差し出す。
……。
よくわからないけどとりあえず握手しておこう。
「……イースタングリップだね」
逆の手でわたしのスマホを構えながら翡依が何か言っている。
「で、今の写真をこのページに入れると」
何事もなかったように翡依はスマホを操作している。どうやら今の握手を撮影したみたい。
握手するようにテニスラケットを握るイースタングリップを思いついたから言っただけっぽい。
多分最近なんかで読んだんだろう。
翡依がスマホをこちらに見せる。
30点……?
「今の握手のイチャイチャ度」
翡依が補足する。高いのか低いのかわかんないけど。
「ここに、あらかじめ用意したイチャイチャ画像がある」
翡依は自分のスマホを操作してわたしに画像を見せる。……3分クッキング?
「いちなが律月に膝枕してるね、撮影許可撮ってある?」
「愚問」
一蹴された。絶対許可取ってないじゃん。
「だいぶ前の、多分付き合って無い頃の写真だからセーフ」
何がセーフかわかんないけど。
あの二人、特にいちなが比較的パーソナルスペースが狭い方なのでそういう写真があっても不思議じゃない。
多分、わたしもされたことあるし。すぐには思い出せないけど。
「というわけで、この写真だと80点なわけで」
……えっ。
あまりにも何も引かずに点数を言うものだからびっくりした。
翡依は少しだけ目を輝かせながら言った。
「今日はこれを使って遊ぼう」
――――――――――
というわけで放課後、わたしたち四人はいつもの公園にいた。
昔から、この四人で、学年が違うけどあの手この手で集まっていたと思う。
集まる場所は、だいたい誰かの家かこの公園。
なにがきっかけで仲良くなったかは覚えてないけど、なんかずっと一緒にいる。幼馴染なのでそういうもの。たぶん翡依とかも覚えてない。
「……なにそれ?」
翡依が出したスマホを見ながら、律月が怪訝そうな顔で聞く。
「あっ、翡依ちゃんそれもしかして」
いちなが翡依の肩に両手を置きながら会話に加わる。うん、やっぱりパーソナルスペースが狭い。
「イチャイチャ判定マシン」「ラヴチェッカーね」
翡依といちなの声が被る。このマシン、いちなも噛んでたか……。
「小博…?」
律月が諦めてこっちに聞いてくる。
「なんか画像のイチャイチャ度がわかるんだって、」
わたしが西の人なら「知らんけど」が付きそうなテンションで返す。わたし達みんな東の出身だけど。
「イチャイチャ度……?」
律月が顔にハテナを浮かべている。わたしもそう思う。
「“イチャイチャ”だと他言語展開する時に翻訳が大変でしょ?」
「しない」
翡依といちなはネーミングでなんかごちゃごちゃ言ってる。
……。
「いちな、ラヴチェッカーは流石にダサいと思う」
……たまらず言ってしまった。いや、イチャイチャ判定マシンが良いわけじゃないけど。Webサイトはマシンじゃないし。
いちなが無言で笑みを浮かべてこっちを見てる。
あっ、やらかした。これ絶対代替案聞かれるやつだ。
「小博ちゃん、代替案」
やっぱり……!
「イチャイチャ判定マシンでもいいんだよ、小博」
翡依がこちらに囁く。イチャイチャ判定マシンはやだ。
「ちなみにアタシは英語でLove Checker派で」
律月も乗ってきた。
何かいいアイデア……ない。
「……あ、愛の調べ」
今の無し。なんかスピリチュアルなサイトっぽいし。
「最高。採用しましょう」
やばい、いちなに拾われた。
「間を取って 愛の調べマシン~ラヴChecker~にしよう」
全員の悪い部分を合体させてる。翡依、絶対わざとでしょ。
……いや、Checkerは悪くないか?
「で、名前はともかくそのページで遊ぶんでしょ?」
話を名前からページに戻す。
わたし以外の三人ともクリエイター気質なので、どうでもいいところで横道に逸れがち。……関係あるかどうか知らないけど。
……ともかく、わりかしわたしが本題に戻さないと話が進まないのだ。今回はわたしもネーミングトークに乗ったんだけどね!
「そう、これであんな写真やこんな写真を撮ろうかと」
翡依、公園で何を撮ろうとしてるんだ。
「じゃあまず翡依ちゃんと誰から行く?」
いちなが翡依を確定させてる。口は災いの元。
「じゃあ小博で」
いちなの攻撃を意に介さずに翡依がわたしを指名する。
……翡依がわたしを指名する!?
「ちょっと! 変なのは撮らないからね」
「大丈夫、恥ずかしいのは最初だけ」
何をさせるつもりなんだ。っていうか、翡依も撮るってことをわかってるのだろうか。
「りっきー、いい構図を考えて」
確かに、普段から絵を描いてる律月なら構図とかも得意かも……。
じゃなくて、なんで翡依はそんなにノリノリなの。
「……いいのか?」
律月も変な間が空いてるし。
まあ律月なら変なポーズにはならないか…。
言われるがままに律月の指示でポーズを取る。
わたしも翡依も身長は同じぐらい(あまり大きくはない)なので、並んでもわたしが小さく見えないのは良いこと。
律月(普通より大きい)とかいちな(律月より小さい、わたしよりは普通に大きい)と並ぶと、小さ目立ち(小さくて目立つこと)するので。
「うん、そのまま静止して」
あれよあれよと律月に向かい合って両手を顔の横ぐらいに上げて握り合う体勢を取らされた。
この体勢、きつい。
「小博、顔近いね」
……。翡依に言われなければ意識しなかったのに。
翡依は割と前髪を目にかかるぐらい垂らしていることが多いからまじまじと顔を見る機会はそんなに多くない。
可愛いんだから顔出せば良いのに。本人には言わないけど。
ともかく、ここぞとばかりに観察してやる。これを機に。
「……小博?」
「翡依、今日なんかちゃんとしてる、寝癖もないし」
俗に言う、気合いが入ってるってやつ。いっつもわりかし適当なのに。わたしと一緒で。
翡依が目を逸らして搾り出すような声で言う。
「……5がつく日だから」
スーパーの特売日みたいな理由。そんなことある?
油断してたら律月がシャッターを切っていた。
「小博、一日一緒にいて今気づいたのか?」
律月に指摘される。
律月はスーパー気づきウーマン(よく気がつくし気がきく、だからモテる人のこと)なので朝から気づいていたらしい。
「……まあ、すぐ気づくような奴は背中にシール貼ってこないか」
律月が自己解決する。ぐさっ。10ポイントのダメージ。
「で、判定できた?」
静観していたいちなが口を開く。
翡依が律月からスマホを受け取り操作する。
「90点」
相変わらず全く溜めずに翡依が結果を発表する。
「目線がお互いの方を向いていたところが高得点に繋がった」
翡依がどこかで聞いたことがあるようなことを言ってる。…カメラの方を向いてたら点が下がったの?
「100点を狙ったつもりだが」
なぜか律月が一番悔しそう。ていうか90点か……。
「超えたね、律月といちなの写真の点」
うっかり迂闊なことを言ってしまったと気づいたのは、翡依のちょっと笑ってる表情を見てからだった。
本当にわたしは気づかないタイプみたいだ。自覚しました。
「リツ」
いちなが律月のことを呼ぶ。
「超えるまでやろう」
いちなの負けず嫌いを刺激してしまった。
「……まあ、そうだな」
……律月も負けず嫌いなんだった。
――――――――――
「80点」
「翡依ちゃん、このマシン、壊れてるよ」
「壊れてない」
正直、二人ならすぐにわたしと翡依の点を超えると思ってた。付き合ってるわけだし。
でも、あれから何枚か律月といちなで写真を撮ったものの、90点を超えることはなかった。
……わたし目線でも、律月といちなのポーズは何かイチャイチャ度が低い気がする。体感だけど。
なんとなく、遠慮を感じるっていうか。距離を探ってるっていうか。
……付き合いたてだからか?
「いっちー、一旦四人で撮ってみるのもあり」
翡依がいちなをステイさせた。
いちなはちょっと不服そうな顔をしながら、律月に「宿題ね!」と言い放ってる。
律月はなんかちょっと嬉しそうだった。
「って、四人でもできたんだ」
「マルチプレイ対応」
四人のイチャイチャってなんだ……?
ま、いっか。
「じゃあ、撮るよー」
いちながスマホを構える。
わたし達が四人で写真を撮る時、だいたい決まったフォーメーションで撮る。
比較的小さい翡依(とわたし)が前で、律月といちなが後ろ。
昔からこの並びだったから、昔からこの身長差だったんだろう。覚えてないけど。
「……100点」
翡依が結果を溜めた!?
「まあ、100点だろうな」
「翡依ちゃん、このマシン、壊れてない」
「それは知ってる」
律月もいちなも、当然のような顔をしてる。
そんなにこのフォーメーションに自信があるのか……。
……いや、さすがにそうじゃないのはわかってるけど。
それから、色んな組み合わせで写真を撮ったり、なぜかわたし一人で撮ったり(74点だった)して、帰宅した。
――――――――――
帰った後、珍しくいちなから個別で連絡が来た。
「明日の昼、一人でわたしの教室の前まで来て」だそうで。
そんなわけで翌日、わたしは単身いちなの教室(3年A組。いちなに確認したから間違いない)に来た。
「あっ、小博ちゃん。こっちこっち」
いちなに呼ばれて、そのまま渡り廊下を越えて、人気の無いところに連れられた。
「お菓子食べる? 立ち話だけど」
流れるようにいちなからお菓子を貰う。
ここだけの話、わたしはしょっちゅういちなに餌付けされている。
「はい、どうぞ」
いちなはグミを取り出してわたしの口の前に持っていく。グミなのでチップスじゃなかった。
お恥ずかしながら、以前お菓子を貰った時にわたしが全く包装を開けられなかったので、それ以来このような提供を受けている。
わたしに力があれば………!
「んっ、ありがと」
「で、なんの話?」
気を取り直して呼び出された理由を聞く。
「んーっとね、お悩み相談」
言いながらいちなはスマホをこちらに見せる。
「……律月といちなの写真?」
「うん、付き合う前のね。で、こっちが付き合った後」
「あー」
露骨に距離が離れてる。気がする。
やっぱりいちなも二人の距離感がわからなくなってる自覚はあるみたいで、それに関する相談みたい。もしかしたら、翡依のあのマシンも、その一環なのかな。
だいたい、律月といちなの悩みはわたしと翡依に相談、わたしと翡依の悩みは律月といちなに相談、みたいな流れがあり、今回もそう。
「二人とも、パーソナルスペース狭いのにね」
いちなが「そう?」みたいな顔をしている。自覚なかったんだ……。
今まで自覚なしであんなに……?
ともかく。
二人とも誰に対しても距離感が近いから、これ以上近づこうとしてわかんなくなってるとか?
むむむ……。
考えてもなかなか答えは出ない。なぜならわたしは誰とも付き合ったことはないわけで。
でもクリエイターはやったことないことでも想像できなきゃ……。
わたしは別にクリエイターじゃないけど。
「ほい、もう一個」
いちながわたしにグミを差し出す。
「小博ちゃんは私が相談するといつも真剣に考えてくれるね」
「……んぇ?」
……グミ食べてたから気が抜けた返事をしてしまった。
「ちなみに」
いちなは少し改まってわたしの目を見て言った。
「小博ちゃんは私とリツが付き合うの、どう思ってる?」
……。
二人が付き合うことをどう思ってるか……。
感覚的に、わたしがあの時感じた“なんかいや”は、二人が付き合うのが嫌ってわけじゃなさそうだ。
まだ何が嫌なのかはわかんないけど。
なので、気持ちは単純。
「おめでとう! って感じ」
素直な気持ちをいちなに伝える。
「……そっか、ありがとう!」
いちなは次のグミを用意する。
いちなの顔は少しだけさっきより清々しくなったように見えた。
もしかしたら、いちなには付き合ったと聞いた時にわたしの心中が穏やかではなかったのが態度でバレていたのかも知れない。
……これは反省かも。
「ひとまず、この件に関しては持ち帰って検討させていただきます」
なんか社会人みたいな言い方してる。
「それじゃあ小博ちゃん、サンキューね、また後で」
そう言っていちなはわたしの口の前にグミを差し出し、施してから去っていった。
美味しかった。
――――――――――
いちなと別れて教室に戻ると、翡依がわたしの席の前に来た。
「小博、どこ行ってたの?」
「いちなのとこ、呼び出されてた」
「呼び出しをくらってたんだ」
翡依は語弊のありそうな言い方をする。
「……何用だった?」
何用、とな。
正直、話を聞いてグミを貰っていただけなのであんまり言えることはないんだけど。
聞いた内容も、ペラペラ話して良いかわかんないし。……まあ翡依なら平気だとは思うけど。
「グミ貰ってた」
誤魔化しながらいちなにさっきのことを翡依に話していいかスマホで確認する。
翡依が全然納得してない顔でこっちを見ている。
「小博、ここに手を置いて」
翡依はいつの間にか謎の機械を取り出している。円型で指の形に窪みがある。
「えっ……。ビリビリしそう」
「嘘ついてなければしない」
……嘘発見器だこれ。っていうか、嘘ついてたらビリビリするんだ。
「……先に翡依が手を置くならいいよ」
と言ったら、翡依は嘘発見器を片付けた。どんだけ強いビリビリだったんだ。
冷静に考えて、嘘発見器を持ち歩いているのはどうなんだと思ったけど、翡依だからまあいいか。ジョークグッズを信じるタイプじゃないし、きっとネタで持ってたんだろう。多分。
「……あっ」
翡依が嘘発見器を出し入れしていたらいちなから返信が来ていた。
イラストに“わっしょい”とだけ書いてあるスタンプ。前向きな返答だから多分話してオッケーっていう意味なんだろう。
「翡依は昨日いちなと律月になんか感じた?」
一旦遠回しに聞いてみる。
突然聞いたから翡依の耳がピンとなったように見えた。びっくりマークとか出てそう。
「なにか……」
翡依がこっちを見ながら考える。……こういう時の翡依は大抵、言うことは思いついているが言葉を選んでいるとき。
「無理して普段通りにしようとしてた」
ほう。言われてみればなんか当たってそう。鈍いわたしが言うのもなんだけど。
「さっきいちなにその相談をされてね」
翡依にさっきいちなと話したことを伝える。この調子だと、翡依がなんとかしてくれそうだ。
「……ふーん」
芳しくない反応。もしかしてあんまり興味ない?
…まさか、わたしだけいちなに呼ばれたから拗ねてるとか?
「翡依……?」
「まあいいや」
……違いそうだ。翡依は拗ねてる時はもうちょっとわかりやすく拗ねてるアピールをする。足バタバタさせたり。ちなみに興味ないときは虚空を見つめてる。
「で、小博はどうするの?」
「……別にどうするってわけじゃないけど、相談には乗ってあげようかなって」
翡依は少し笑って「いいね」とだけ返した。いいねされた。
「まあ、あの二人なら放っておいてもなんとかすると思うけど」
そう言いつつ翡依は何やらスマホを操作している。
翡依は小さい手で大きいスマホを使っているので、対比でさらにスマホが大きく見える。わたしが言えた義理じゃないが。
「というわけで、放課後はりっきーのとこに突撃しよう」
どうやら律月に連絡を取っていたらしい。
……律月、返信早いな。
★★★★★―――――――――― Side 翡依
授業が終わり、放課後になった。
……退屈だったから最前列の小博の動きを観察してたら授業が終わっていた、の方が正確。
さすがに一日の終わりともなると、小博も眠そうにずっとうつらうつらしてた。
「ふぁあ……」
……また欠伸してる。授業終わったのに。
小博は髪が長いため頭が動くとわかりやすい。最前列であることも相まってすぐに先生にバレる。
髪を伸ばしている理由は、本人は切るのが面倒と言ってるけど、私の推測では少しでも大人っぽく見えるように伸ばしている、だと思う。可愛い。
「……っと」
そろそろ眺めるのをやめて小博に声をかけなきゃ。
いつも通り小博の背後から忍び寄り声をかけようとする。
「翡依……あっ、もう来てた」
振り返った小博に先に気づかれた。なんと鋭敏な感覚。……皮肉。
「なんか失礼なこと考えてたでしょ」
「うん」
小博が「うん、じゃないが」という顔をしている。どういう顔かは言いにくいけど、よくある顔。表情パターンDぐらい。
いちばん良くする顔は半分呆れながら笑ってる顔。次点はイジられてる時の顔。いずれ表情パターンをコンプリートするのが私の目標。まだ遠い。
話をそこそこに私たちはりっきーのとこに向かい、教室の前に着いた。
2年生の教室、入ったことないからりっきーが出てきてくれるといいんだけど。もしくは。
「律月〜っ」
私の不安と期待をよそに小博が突撃する。
小博はいつもこういう時に先陣を切ってくれる。助かる。期待通り。
「あっ、来た」
廊下側のいちばん後ろに座っていたりっきーが気づく。りっきー、いい席に座ってる。
幸い、教室にはりっきーしかいないみたいだった。あんまり人のいるところでする話でもないだろうし。
……そういえば、二人がどれくらい周りに付き合ってることを言ってるか知らない。聞いておけばよかった。
「翡依からなんて聞いてる?」
「何も。ホウカゴ ソチラ ムカウ イチナ ニハ ナイショダヨ。だけ」
りっきーに送ったメッセージがバラされてしまった。
「ちなみにわたしはいちなに連絡済みだから、別に気にする必要はないよ」
小博が付け足す。私がりっきーに連絡した後、別に秘密にすることはないという判断で、小博がいちなに連絡した。
なので私のメッセージのルピーをたくさんくれる人に寄せた部分は無駄になったとも言える。
「で、本題なんだけど」
改めてりっきーの方を向く。
正直、私はこの問題にどこまで首を突っ込むべきか悩んでいる。
小博にも言ったけど、この二人なら放っておいても解決するだろうし。
……まあ、小博もああ言ってたから、とりあえず。
「りっきー、いっちーとの距離感迷ってるでしょ」
単刀直入に聞いてみる。一旦ね。
「うーん……」
りっきーがロード中になった。考え込んでるとも言う。
小博の方を見る。なんか廊下を通りがかった他の2年生に絡まれてる。ドアを閉めておくべきだったか。
「なんかわたしと翡依は2年生の間で有名らしい」
無事に解放された小博が言う。
ちなみにドアは閉めた。
「まあ、律月は人気だから、その影響だと思うけど」
りっきー、モテモテ。
……小博は昔から上級生に人気だけどね。特に女子。
本人はにぶちんだから気づいてないけど。
「迷ってる……かなぁ?」
ロードが終わったらしい。
「アタシは距離感に迷ってるつもりはないんだけど」
……けど、と言った後、りっきーから続く言葉が出てこない。
代わりに、私と小博の方を見る。
「……まあ、確かに迷ってるかもな」
何か腑に落ちた顔をしている。
結果的には、直接聞きに来たのは正解だったかな。
「とりあえず、後でいちなと話すわ」
と言って、りっきーは立ち上がった。
小博、はてなマークが出てそうな顔をしている。
「たぶん、それがいい」
わかんないけど、たぶん。
「お嬢ちゃん、お菓子をあげるよ」
いつの間にかドアが開いてて、小博が通りがかった3年生に絡まれている。
通りがかったと言っても、りっきーが呼び出したいっちーだけど。
――――――――――
昨日はそのまま、公園には寄らずに四人で一緒に帰った。
まあ、そのままとは言っても、わたしと翡依はいちなに餌付けされながらだけど。
いちな曰く、二人はあの後、律月の家で話したらしい。
詳しくは明日の朝、つまり今日話す、とのこと。
「りっきーといっちー、どうだろうね」
翡依がブランコを漕ぎながらわたしに話しかける。
今日もまた、わたしと翡依が先に公園について二人を待っている。
「どうだろうね」
おうむ返し。
正直、昨日の律月の表情を見るに、心配はしなくて良さそうだったけど。
そんな感じで翡依と話してたら、律月が来た。今日はいちなと一緒に。
普段はもう5分くらい遅いけど、今日はちょっと早め。
朝5分早くするのは至難の業とも言える。
「おす」
「おっすー」
律月に気合いの入った挨拶をされたので、気合いの入った挨拶を返した。
「おはよう二人とも」
「ハローモーニング」
翡依は朝に挨拶してた。朝も急に挨拶されて驚いてるだろう。
「で、なんだけど」
律月が本題に入りそう前振りをしてる。話が早い。
「……」
すごい言い淀んでる。言いにくかったから、気合いを入れたのか。
……。
まだ溜めてる。スタートは良かったのに。
「昨日話したのはね」
見かねていちなが話し始める。
ずっと前からよく見る光景。意外と尻込みする律月と、気にしないいちな。
「私たちが付き合ったからって、二人に気を使わせてないかなって話」
「まったく使ってないけど」
……。
本心から。
考えもしなかったことを言われて驚いた。
「私も」
翡依も続く。
知ってた、という顔をいちながする。たぶん。
なんだ、律月の杞憂かぁ。
「どっちかっていうと、二人のほうが気を使ってるように、見える」
翡依がいちなと律月に言う。
言われてみれば、二人とも、付き合う前の方が互いへのスキンシップが多かった気がする。
てっきり二人の間の距離感を探ってるのかと思ってたけど。
「……まあ、使ってないかと言ったら嘘になる」
律月がこっちを向いて答える。
いちなは……ちょっと困ったように笑ってる。
「私…達? はもうちょっと二人の時間を増やしても平気」
翡依がこちらに確認を取るような仕草を入れながら続ける。
……。
翡依の言うことに頷く。
そりゃあ、お二人さんは付き合いたてですから。
もっと二人の時間をとった方がいいね、たぶん。
「私たちが目の前でイチャイチャしてても?」
「平気、写真は撮るけど」
「それ、いいね」
「翡依、前の写真もそうだが、許可してないからな」
「私が許可する」
おい、と言いながら律月がいちなの胸あたりをコンっとする。
いちなはそれに反応して、律月の後ろに周り両肩に手を置く。
「じゃあ、今日の放課後は二人の前でイチャイチャしながら寄り道ね♪」
なんでわざわざわたしたちの前で……。
「かしゃりこ」
翡依が撮影音を口にしながらスマホを構える。
言うほど撮影音だったかは別として。
「うむ、良し」
なんか納得してる。
「……で、私たちがイチャイチャしても、二人とも特に意識せず、で、大丈夫?」
いちながまとめる。
「うん」
「もとより」
わたしと翡依が肯定する。
……やっぱり、いちなも少し遠慮はしてた気がする。
本人に言ったら否定されそうだけど。
「じゃあ、そろそろ行こ?」
あんまり長話すると遅刻しそうだし。
♪♪♪♪♪―――――――――― Side いちな
昼休み、いつも通りリツの教室に向かう。
いつも通りって言っても、ここ最近よくやってるってだけだけど。
小博ちゃんと翡依ちゃんは昼は基本的に自分たちの教室にいるので、リツと二人きり。
前に二人もお昼に誘ったんだけど、クラスに人だかりができちゃったので、それっきり。
あの二人、上級生に人気だからなぁ。私も二人について色々聞かれるし。
……もちろん、例に漏れず、あの二人は私とリツにも人気なんだけど。
「来たぜ」
「来たな」
リツと二人だといつも挨拶こんな感じ。
フラットというかなんというか。……雑?
「ほい、今日の弁当」
「さんきゅ」
「来週はリツの番だからね」
付き合い始めてから、二人で決めた約束の一つ。弁当当番。
先週はリツが私の分の弁当も作り、今週は私がリツの分も作ってる。週単位で交代しながら。
「うーん、やっぱり難しいね」
一旦あいまいに話を始めてみる。
「……小博と翡依の話か?」
さすがリツ。小博ちゃんだったら絶対に「お弁当?」だった。
「うまくまとまった、のかな」
「……いちなと…あと翡依のおかげでな」
もちろん小博も、と付け足す。
今朝なにもできなかったの気にしてそう。
昨日も結構話して、気合い入れてたし。
「とりあえず、放課後は二人の前でイチャイチャするけど」
「……ああ」
これは決定事項。
二人には許可取ってるし。
「寄り道って、どこ行くか決まってるのか?」
「まったく」
リツが半分呆れながら、「二人にも聞いとく」と続ける。
まあ、寄り道が目的だから、当てなんてないもんね。
きっといつも通り、気の向くまま公園とか海岸とか行く気がする。
「あっ、返信きた」
「なんて?」
「ゲーセンだって」
りょーかいとリツに返事をする。
ゲーセンも今までに何回か行ったパターン。ゲーム作りの市場調査とかの名目で。……遊んでるだけだけど。
今回は返信が早かったので、おそらくリツは翡依ちゃんに連絡したんだろう。この二人は、私たちの中でも連絡速度トップ2だから。ワーストは小博ちゃん。後で考えようと思って忘れるタイプ。
私は相手によってまちまち。
「とりあえず、この件はこれで」
「うん、昨日の【徹底検証】 腕時計の代わりに手首に付けたら便利なもの王選手権、見た?」
「まだ見てない」
――――――――――
そんなこんなで、わたしたちはゲームセンターにいた。
ゲームセンターは地元の駅前にあるので、電車から降りてすぐ。帰り際にも寄りやすい。
なんでも、翡依がUFOキャッチャーで欲しい景品があるらしく。律月といちなは…まあ、一旦置いておこう。
「で、翡依が欲しいのってこれ?」
翡依が頷く。
最近よく見るゲームのぬいぐるみ。女の子が寝そべっているやつ。話題になってそんなに経ってないはずなのに、最近のゲームセンターはなんでもあるな。
「小博なら、どうやって取る?」
翡依がわたしに相談する。
わたしはUFOキャッチャー含めゲーム全般が得意なので、こういう時にはよく頼られる。こういう時だけ、かもしれない。
「がんばってるかー、小博ちゃん翡依ちゃん」
後ろの方で静観していたいちなと律月がこっちに来る。これ見よがしに手を繋ぎながら。
「ひゅーひゅー」
翡依が雑に冷やかす。
……このやりとり、もう3回はやってる。
「律月、もうちょっとパターンないの?」
律月に振ってみる。
「……肩でも組むか?」
発想が体育会系すぎる。律月にはイチャイチャの引き出しは期待できないか……。
「というわけで、重そうな頭よりも引っかかるチェーンとかを狙ったほうがまだいいのかも」
「リツ、小博ちゃんに諦められたね」
「ああ」
二人を放っておいて翡依がコインを入れた。賢明な判断。
それにしても、二人ともイチャイチャするって言った割には、ずっと手を繋いでるぐらいしかない。あんまり指摘するとわたしに案を提示させそうだから言わないけど。わたしも別にイチャイチャの引き出しはないし。
「小博のおかげで、二つ取れた」
……。
ぼーっとしてたら、翡依が景品をゲットしてる、しかも二個。
「すごいじゃん!」
「一個はテクニカルアドバイザーにあげる。スーパープリティーちゃん人形」
そんな名前だったんだ。なんて汎用的な……。
というか、なんかテクニカルアドバイザーに就任してるし。
「テクニカル愛沢だ」
いちなが変な異名でわたしを呼ぶ。
「イチャイチャ途咲、イチャイチャ義村」
「なにかねスーパープリティー怙嶋」
翡依がスーパープリティーを襲名してる。いちなと律月に至ってはもはやイチャイチャしてるだけだし。
「で、めでたくスーパープリティーの目的は達成したわけだが」
もはや翡依がスーパープリティーになってる。まあ、かわいいのは間違いないので。
わたしがテクニカルなのは納得できないけど。
「エアホッケーしよう」
こうして、チームイチャイチャとチームスーパープリティーによるエアホッケー対決が行われることになった。
スーパープリティーは翡依の称号なんだけど。
「いくぞSP」
スーパープリティーはいよいよSPまで略されることになった。進化が早い。むしタイプか?
「複数だからSPsね」
「たしかに」
チームイチャイチャがなんか言ってる。絶対にそこはこだわるところではない。
やつらは放っておいて、今のうちに、翡依と作戦会議しよう。
「わたしが左側担当で、翡依が右側担当ね」
「わかった。小博、真ん中に来たら阿吽で打ち返そう」
「……あぶないから、真ん中は翡依で」
……翡依がこの前読んだ漫画がわかった。テニスのやつだ。しかも最初の方。
「リツ、私たちは手繋いだままね」
「えっ?」
――――――――――
いちなと律月はそれから本当に手を繋いでやったので、試合は一方的な展開となった。それはそう。
まあ、最後の方はいちなと律月も慣れてきて、結構いい感じだったんだけど。
「じゃあ、私たちはここで」
「うん、また明日ね」
いちなと律月はさっきの反省会をするとのことで、律月宅へ向かった。いちなの言い方的に、おそらくエアホッケーもだけど、イチャイチャの反省も含んでる。
「わたしたちはどうする?」
「……小博、会議」
翡依が近くの公園を指差す。いつもの公園とは違う、別の公園。たしか銀座通り公園って名前だった。いつもの公園は東雲公園。だったはず。
銀座通り公園は比較的狭めで、ブランコはない。なので、わたしたちはベンチに座って会議することにした。議題は知らされてないけど。
「で、何の会議?」
「えっと……」
翡依がこちらを見ながら考える。
おそらく、さっきのゲームセンターでのことだろうけど。あと多分エアホッケーの反省ではない。
「……小博は、今日、どうだった?」
「……? ふつうにいつも通り楽しかったけど」
珍しい。翡依は結構端的にものを言うタイプだから、あんまりこういう風にクッションを挟んだりしない。
今日見てた限り、つまんなかったわけじゃなさそうだけど。
「あっ、私も…楽しかった」
翡依がスーパープリティーちゃん人形を見ながら言う。嬉しそうでなにより。
「でも、えっと、その」
「うん」
翡依のペースで、言葉が出てくるのを待つ。
「……単純な疑問、なんでりっきーといっちーは、私たちの前でイチャイチャした……しようとしたんだと思う?」
翡依視点でもイチャイチャはできていなかったらしい。まあ、手を繋いでエアホッケーしただけだけど。
でも、なんで、かぁ。
あの二人、今回はいちな主導だったけど、たまになんというか、幼さというか、小学生みたいなところというか、童心というかがあるから、それだと思ってたけど。
「翡依はなんでだと思う?」
質問に質問で返す。
なんとなく、翡依は答えを持ってそうだなと思ったから。
「……わかんない」
当てが外れた。
「でも、気まぐれとかじゃないのかな、って」
……翡依に言われて、もう一度考える。
いちなと律月がわたしたちの目の前でイチャイチャした理由。
一個だけ、思い当たる節。
「……もしかしたら、いちなと律月は付き合うけど、今まで通り四人では居るからねってアピール、とか? かもね」
勘だけど、と付け足す。
いちな本人に確認したら教えてくれるだろうか。なんとなく、はぐらかされそう。直接聞くのも恥ずかしいし。
「そっか」
翡依は納得したようにこちらを見ている。
納得できてそうでよかった。
「まあ、なんにせよわたしと翡依はこのままで居ようね」
先に立ち上がり、翡依に右手を差し出す。
翡依もわたしの手を取り立ち上がる。イースタングリップ。
日も暮れていたので、その後はまっすぐ帰った。
★★★★★――――――――――
小博と公園で話して家に帰った後、私は作りかけのゲームの作業を進めた。
主要な部分のコーディングは済んでるけど、アニメーションのタイミング調整などが残っていたので。
気になり出したらいくらでも直せるけど、今回は小博にフィードバックを貰うわけにもいかないから、ある程度のところで納得しないと。
……翌日、案の定長時間の作業をしたので、半分寝た状態で公園に向かう。
作業の甲斐あって、ゲームはほぼ完成した。一旦。
まあ、徹夜で作業すると、起きてから結局バグ修正に時間を取られて逆効果なこともあるけど。今回は調整だけだから平気。のはず。
「うわっ、眠そっ」
公園に到着するなり、小博に指摘される。もともと朝は弱いので、相乗効果で眠い。
「大丈夫? 水とかかけたほうがいい?」
……穏やかな口調でとんでもない提案をしてる気がする。
「それで喜ぶのは草や花だけ」
ましてや女子にやったら泣くと思う。……私は泣かないけど。
小博は「…冗談だよ?」といいながらペットボトルをしまう。
……小博ならそのままこぼしてもおかしくない。こぼさなかったけど。
「仕方ない、律月といちなが来るまで、寄りかかってていいよ」
小博がベンチに移動して自分の肩を叩く。
「お言葉に甘えて……」
隣に座り、頭を乗せる。
……小博、体温高い。寝そう。
すごい……。
ミルクの香……我ながらちょっとあれだからやめておこう。
あと5分…いや50分…。
りっきーといっちーに遠回りして来てもらおうかな……。
「……起こし辛いな」
「とは言っても、起こさなきゃ遅刻しちゃうでしょ」
間に合わなかったか……。
「おはよう」
小博の肩に頭を乗せたままりっきーといっちーに挨拶する。
「小博ちゃんは起きてる?」
「うん、ギリギリ」
……小博も寝そうになってたんだ。
そのまま寝てたかった……。
「翡依、そろそろ……」
「あっ、ごめん」
小博に言われて名残惜しいけど頭を戻してベンチから立ち上がる。
「小博。ありがとう、だいぶ良くなった」
小博は「んっ」とだけ返して身なりを整えた。
「そういえばお二人さんに報告」
いっちーが私たちの方を見ながらスマホをこっちに向ける。
スマホにはイチャイチャ判定マシーンが100点を表示していた。
「私たちの勝チ」
……バーガーキングみたいな煽り方をされた気がする。直接的に。
「おー、おめでとう! 二人とも」
「めでたいねえ」
素直に。
前より二人が上手くいってそうで、点数が上がったということはちゃんと測れている証拠。
開発者冥利に尽きる。
「……だいぶ時間がかかったけどな」
「……私たちより私たちのスマホを重ねたほうが点が高かったりしたもんね」
遠い目をしている。
どうやら、色々苦労をしたみたいだ。
「で、どんな写真が100点だったの?」
「……」
小博の質問に二人が同時に黙る。
外に公開されるわけじゃないけど、あれな写真を撮ってないことを願うばかり。サーバーに残ってるのを見た時に気まずいから。
「……そろそろ行こっか」
「別に! 変な写真を撮ったわけじゃないからな!」
りっきーが必死に否定する。怪しい。
「まあ、変ではないかな」
いっちーが意味ありげな言い方をする。多分特に意味はない。
公園から出て歩き出した後、ふと、小博の方に目をやる。
ようやく頭が冴えてきて、言わなきゃいけないことを思い出した。
完成したゲーム、いつやってもらおう。
できるだけ早く……だけど、焦らせたくもないし……。
「小博」
小博がこちらを振り返る。
「今日暇?」
プレイさせるのが怖いゲームを作るのは久々。
……特に、今回は。
ただ、タイミングは今しかないと思ったから。
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