⚫︎リューがチョロすぎ問題 〜34話
時間無限をするにあたって俺は自分の部屋に盗聴器を付けたが、時間が戻るのでデータは残らなかった。こうなると、時間進めると分かってる時でないとWEBライターの副業ができないんだわ。小銭稼ぎができない。
収入減るのは地味に痛いな。
夜闇、スキルに熟練度の概念ある?
『権限がありません。』
あるのね。スキルは熟練度又はイベント分岐で派生する?
『どちらかは場合による。』
詳しく言い当てないと情報公開されない訳?
『情報により条件があるんだ。』
なるほどね。成果を確認できなくても実行するだけで熟練度上がる?
『上がる!リュー天才すぎ。』
なら派生で習得した時即告知する設定にして。
俺は引き続き自室盗聴する事にして、自転車を持って憔悴した顔でエレベーターから降りる。
「坂本さん、おでかけですか?」
「ああ!佐々木さん!ちょっと気晴らしに走りに。」
俺は無理に笑顔を作って元気を装う。罪悪感に苛まれるがいい!
アオは正直者だから、俺がウエア着て軽装で自転車持って降りてくるだけで走りに行くと思い込む。マジックバッグを普段から荷物入れにする事で増えたアイテムは分かりづらくさせる戦法だ。
憔悴した表情で出かける事でアオが俺にストレスを与えていると思わせる。だが俺のメンタルはそんなに弱くはない。パワハラとストーカーで散々鍛えられたからな。落ち込む暇あったら次の手考えるから俺。
実家に寄りお古のタブレットを入手。宅配は実家に届く様にした。ちなみに爆買いしても受け取ってマジックバッグに入れてしまえば所持金が戻るのかと思えば、入手したものに関しては所持金は戻らない。マジックバッグに入れないと得たものは消える。
ちなみに所持金をマジックバッグに入れていてもリセット前に得た金はどこかへ消える。そういう稼ぎ方はできないのだ。それをやると引ったくりや強盗してリセットとかやる奴出てくるからな。
人が死んでリセットしたら戻る?
『権限がありません。』
あんま考えたくはねーけどな。
『考えない方が良いよ。』
ペナルティとかある?
『あんまり悪い事する様だと全ての権限を失うから気を付けてね。』
こわ!
例外は食べ物だ。腹に入っても体がリセットされるから体重が増えない。活動エネルギーにはなっているがアオの無限ループに付き合わされて食材に金を払わされ日が経たないから収入がいつまでも無いのでは普通の人間なら破産してしまう。これ作った人は無限ループが一番のチートだと理解しているな。
「ごめんよ母さん、マンションの宅配ボックス狭くてさ。はいこれ。今月分。」
俺は現金を封筒に入れて手渡す。今月分から手渡しにした。
「いつもありがとね。」
「今日兄貴んとこは?」
「今日は行かない。せっかく隆二が来てくれたんだし。」
「急に来てごめんな。久しぶりの母さんの飯うまいわ。」
親孝行もできて一石二鳥だな。どうせ俺は明日も同じ行動をするんだろう。母親の好感度は鰻登りだ。
新しいタブレットで盗聴器とカメラを追加購入したり、別のマンションの監視カメラの映像を盗む。とにかくハッキングスキルをアオより上げたい。マンションのWi-Fiを使うとバレるからカフェや実家で取材活動だ。
『リュー、あっちはプロだからIT関連で勝つのは無理!』
と言っても俺はシーフなんだよな。
パソコンのデータをスキルで隠蔽できたら良いんだが、それはまだできないみたいだ。
俺は時間無限に便乗させてもらう対価として、自分のネームバリューを使って魔法の実装と動画の宣伝を請け負う、原稿料は要らないと伝えた。貰ったものには対価は払う主義だ。
念話だと時間がかかるから、アオへのメッセージを別のメモリに入れて渡す事にしたのだ。その中に考えた悠久のエアリアルという作品の案を入れた。
アオと俺の作品の話をした時、アオが俺のコアなファンで作品をリスペクトしている事は理解した。ちょっとした描写に詳しすぎるのだ。
俺は実はエアリアルのあらすじを考えて書きためていた。盗聴とほぼ同じ内容なのに逆ハックされた時にこれを削除されてはいなかった。
おそらくアオは俺の作品をリスペクトしている。改変の可能性は低い。
アオがもし作品を盗み見ているなら、新作が自分達の話で、俺が初めて書くラブストーリーに興味津々な筈だ。俺は一般人であるお前が俺の新作に関われるんだぞというエサをぶら下げた。とにかく主導権を握られたままでは動きにくいのだ。
その代わり、エアリアルは良いがまほスキだけは公開前に読まないでくれと俺の作品に対する思いを訴えて頼みこみ、その日からまほスキに日付を書き込んだ。ちなみに俺は作品を先に読まれてもパクリ、改竄、ネタバレさえしなければ別に何とも思わない。アオの性格なら読んでしまった作品は必ず買う様な気がする。あいつ、自分を策士だと思っているが、思ったより正直者のお人好しなのだ。
アオは、まほスキを盗み読んでいる事を俺に告げられないから、疑われている事を理解しつつ強気には出られなくなる。そう思っていたのだが、この男、異様に嫉妬深い。どうすれば俺が関屋さんには手出ししないと伝えられるだろうか。
"リュー!おはよう!今日は時間進めるから。"
ループ前後に念話をくれるから、その時にちょっとした会話はする事にしているが、時間が戻ってもアオとの好感度は下がらないらしい。もっと俺と話したいと思わせたい。アオを地球で過ごさせる事で更に勇者との好感度を上げイベント分岐を増やしつつ執筆時間を増やせるのだ。
"おう。おはよう。なあ、エアリアルの事なんだけど。盗聴した内容だけじゃストーリーに深みが無いんだよ。取材させてくれね?"
"え?取材?僕に?"
"そ。インタビュー。"
一般人はこういう言葉大好きだろ。お前の話が俺の作品になるんだ。俺は必死にアオの好感度上げに邁進する。
アオは俺の時間を確保する為に二日に一度と言っていた地球時間を毎日に変更した。思った通り、こいつは俺自身ではなく香坂流星と話したいし過ごしたいのだ。
だがそこから踏み込んでいく。
香坂流星の中身を知っているんだという優越感に浸らせてやろう。ついでにお前の自己肯定感も上げる。お前は自己評価が低すぎる。過剰な嫉妬はそこから来るんだろう。俺が更生させてやるからな。
『イベント 俺達の作品 第一章 進行中』
俺はできた第一章をメモリに入れてアオに渡す。
"第一章が完成した!俺達で書いた小説をアオに真っ先に読んでもらいたいんだよ!"
イベントタイトルをリップサービスに盛り込む。
"ぼ、僕達って。"
"そうだろ?これは俺達の作品だ。"
"僕リューを理不尽に虐げてるのに、こんな僕に香坂流星の作品に関わらせてくれてありがとう…まだ関屋さんとの事、信じる事できなくて、ごめん。"
『アオ 好感度アップ』
やっぱりこいつは正直者だ。
"信じてくれるまで待つよ。"
アオは作品作りに関われた事にいたく感動していたので、更なるサービスだ。上がれよアオの自己評価!お前の生きづらさを解放してやるぜ!
"俺今まで人との関わり絶ってきたけどさ、やっぱり人と作品作るの楽しいわ。俺達、パーティメンバーなだけでなく、一緒に作品を作る仕事仲間だよな?お前も同じ気持ちだと思うのは俺の自惚れかな?"
『アオ 好感度アップ』
"こちらこそ、香坂流星に、リューにそんな風に思ってくれるとかめっちゃ感激なんだけど。
『仲間宣言 アオ絆アップ。アオ好感度アップ』
『イベント報酬 インベントリ アオ 絆アップ 好感度大幅アップ』
きた!!インベントリを得たぞ!!これで俺はアオに縛られない!!だがまだ隠蔽だ。絶対に悟らせるなよ?!
『それじゃまほスキの先読みは我慢する?』
それは仕方ない。それも使って操っていくよ。関屋さんよりアオの方が突発的行動は少なくて御し易いからな!こんな素直な奴を持て余す関屋さんが信じられないわ。
『友情と恋愛は別!』
あーね。
俺がエアリアル一話を投稿すると、小説スキルを得た。なんと、文章によりスキルを実装できる。しかも俺の作品を読み込ませる事で、俺の文体で一日の行動が自動で小説としてスキルフォルダに保存されるのだ。もちろん添削は可能で、沢山文章を読み込ませたり打ち込む事により俺の文の再現度も上がる。
これがマナビたんが僕を地球組に推した理由か。
『地球ではスキルの方が役に立つから。マナビたん上手い事莉緒たんを操るよね。非常階段勧めたのも多分好感度上げさせない策略!』
こら、莉緒たん呼ぶな。俺が間違えてそう呼んだらどうしてくれる!あとお前は俺を操ってるとか思うなよ?
『ふはは!主は我の手のひらの上なのだ!!』
やめろww
スマホにデータを残せる様になるが、アオに知らせればデータを搾取されるな。だがそうか、アオは最初から動画作成スキルがあって魔法作る能力があるらしいからな。
それに近い能力を実装しなくちゃダメか。
俺はあったら良いなと思っていた能力にあえて制限を付けた。俺のMP以下の闇魔法を実装できる能力。俺はMPゼロだから、アオには俺を使いこなせない。
その次に実装するのはもちろん読心だ。
ふっふっふっ。これで勝ったも同然だ。
おっと、時間時間。
お次は関屋さんとネットカフェへ。時間無限なのにやる事盛りだくさんだ。ちなみに読心により関屋さんが俺の顔のみをめっちゃ好きだという事を知る。時々俺を見つめているのだ。
いや、昔よく言われたよ。あなたの顔が好きって。なかなか失礼なセリフだよな。
「何?」
「いや、タイピング早いよね。」
「俺より関屋さんの方が早くない?」
「そうかな。」
「相手の反応遅すぎてチャット中にイライラしてるの顔に出てる。俺ならその速度でも即レスできるけど、関屋さんは戦いながらそれをやるから異常だと思うよ?」
彼女はコントローラーを使わずにキーボード操作で戦いながらチャットまでこなすのだ。
コントローラーは左に方向キーがあるが、キーボードの矢印キーは右にある。それでキャラクター操作をし、割り当てられたボタンでジャンプや攻撃をする。これだけでも意味が分からないのに彼女は臨時パーティメンバーに声をかけ指示をしながら戦う。
チャットをする時キャラクターの動きは止まるが、安地に移動する事なく一瞬の隙をついて短文のチャットを飛ばしパーティメンバーとの意思疎通をする。一体どれ程のゲーマーなのだこの人は。俺達パーティをまとめる能力はあるか?
『現実だとそうでもなさそう。』
何故だ。
『インターネットの臨時パーティだとゲーム攻略以外は考えなくて良いけど、複数の事象が絡むと判断が一気に難しくなるよね。』
ふうん。そうかな?
『まあ、ゲームと現実は別って事だね。』
まあ俺は戦う事が無さそうだから分からないが。
「異常とか言わないでwここだと会話できないし。パーティの連帯難しいんだよね。」
「自室だと音声チャットで叫びまくってるの?」
「さすがに叫ばないよ。」
(親と同居なのに)
いや同居じゃなかったら叫ぶのかよ。
他愛もない会話をしながら俺はどんどんスキル設定を書いていく。嫌がらせで動画にしづらいものも半分以上混ぜる。文章は小説仕立てだ。
関屋さんはその間もずっと、佐々木さんは子供だけど坂本さんは大人の男だよね!とか、好みは顔だけで異世界的には佐々木さん一択だから!とか思ってはマナビたんに『むしろ言い訳しすぎて引きます。いい加減認めたらどうですか。』などとツッコミを入れられている。
いやいやびっくりだわ。あんな淡い恋愛しながらまさかそんな子だとは思ってなかったから。さっきからちょいちょい好感度上がってるのも驚きだわ。思わせぶり悪女オブ悪女!やばすぎだろ!しかも能力的にアオ一択が本心なのが更に引く。関屋さん、異世界の為には自分の感情とか二の次なんだ。こういう女付け入りにくいなあ。俺のパートナーアオで良かったよ。
『リューもあまりに好感度が上がりすぎてヤバいから。何でそんな悪女好きなの?弄ばれたいの?好きなのバレたら警戒されるから。あと思い出し好感度アップとか今アオ多分びっくりしてるよ?』
え!俺の好感度アップ夜闇分かるの?ちょ、それ告知して。ログとか見れる?
小説スキルに別で紐付けとかできる?
俺はスマホを出して確認する。
は?!何この爆上がり。ヤバい、俺そんなチョロい?
『チョロすぎだよ!気付いてないのびっくりだよ!しかも何なのそんな変なタイミングw』
『ハッキング派生スキル、データ抽出、干渉を覚えました。盗聴派生スキル、盗聴器生成を覚えました。』
えっ?!
「どうしたの?坂本さん。」
「いや、何でもないよ。そろそろ時間かな。」
盗聴器生成ではチップ型の透明盗聴器を生成、触れるだけで設置、回収でき、その場所を特定し看破しないと発見されない。しかも物質ではなく接触不可、意味が分からない。チップのサイズは5×5ミリ、薄さ1ミリ。実質看破は無理だが俺にだけその場所は看破できる。上限は5だ。所謂チートだ。
『罠看破には気を付けて。まあ、シーフはリューなんだけどねw』
罠看破とかある訳?
『そ、熟練度上げないとね!』
おお!早速自宅に仕掛けるわ!遠隔で削除はできる訳ね。回収は触れる必要があると。
ん?何で削除できるのに回収する必要がある。リアタイ盗聴可能なのに。
『異世界の事象はリアタイ盗聴できない。それは触れて回収する必要がある。』
うわ。触れる必要があるのか。
まあ適当にその辺設置して削除するわ。
早速ディスプレイの角度を変えるふりをして盗聴器を仕掛けた。盗聴器はリアタイでスマホのスキルフォルダに音声と文字起こしデータが蓄積される。
昼にアオと交代をする約束をしているのだ。
トイレで変装し、部屋を交代する。
ちなみに変装は魔法からスキルに実装しており、貰った魔石はインベントリに貯めようと思ったのだが夜闇に止められた。
『アオの性格なら空の魔石を回収してMPと使用頻度の管理して、管理外の時に莉緒たんにアオのフリで接触しないか警戒するね。どれだけ熟練度が上がるか、適正により上がりが違うかの検証もしてると思う。あいつ多分リューよりストイック』
俺よりストイックとかそんな訳あるか!
『職業病でしょ。』
俺は一旦外に出て関屋さんの自転車に盗聴器を仕掛けた。
けど関屋さんが異世界に自転車を持ち込む事はもう無かった。
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