マジカルの3☆お手伝い部のお仕事
〜語り手 しの〜
「ゆのちゃん、今日もがんばってたなあ」
壁にかけられていたモニターから視線を外して歩き出す。
周りの人たちが口々にゆのちゃんの勇姿を讃えていた。
あっという間に悪魔を撃退したことで救われた命がたくさんいると思う。
だからみんなが喜ぶのは当然だし、わたしもうれしい。
「わたしもあんな風にできたらいいのにな」
屋上に通じる扉を開けると。
青空とたくさんのシーツが目に飛び込んできた。
朝早くに干していたからもう乾いてるだろう。
今日のわたしの仕事。
洗濯のお手伝い。
「ゆのちゃんはどうだった?
悪魔を無事に倒したかい?」
「うん。かっこよかったです」
シーツをとり込む生活部生活課班長の洗濯少女サキさんの問いかけに素直に答える。
サキさんはたっぷん色白美人さん。
いまは普段着だけど魔法少女コスチュームはなぜか割烹着っぽい。
「サキ班長。
生活部生活班のお仕事、シーツを取り込み終わったら次のお手伝いに行ってもいいですか?」
「もちろん。
予定通りでいいよ。
人手が足りない各部のあれこれに手伝いに行かなきゃいけないってのも大変だね」
「あはは。
わたしたちみたいに取り柄のない人は足りない人手を補うだけですから」
「取り柄がないとは思わないけどねえ。
お手伝い部には、特にしのちゃんにはいつも助けてもらってるし」
「お手伝い部じゃなくて補助労働派遣部ですよ。
あ……」
青空に一直線に伸びるキラキラとした飛行機雲が見えた。
「おかえりゆのちゃん」
「ん? うちのエースのご帰還だね!」
サキさんが見上げると飛行機雲の先端にあった微かな人影が急降下してくる。
わたしがいる屋上を飛び越して本部の格納庫へと帰投するんだ。
本部
さいたま新都心に設置された日本政府公認の組織
世界魔法少女隊連盟所属魔法庁
通称、魔法少女隊
日本本部 兼 南関東支部
通称って言うけどそのまんまだ。
まるでモノリスのようなバベルタワーのような立体的に造形された日本を守る要。
あの日から前に建てはじめられたというこの建造物。
ここで働く人たちは一応公務員と同じくらいの扱いになっている。
「戦う魔法少女たちのおかげで今日も平和だねえ」
「……そうですね。
シーツ、取り込みますね」
シーツを丁寧にたたみながらカゴに重ねていく。
最初はみんな取り込んでからたたんでいたけど、わたしが始めたやり方を生活班の人たちが真似するようになっていた。
だって、ぐちゃぐちゃになったシーツを一枚ずつ伸ばしてからたたむのめんどくさかったから。
急な雨の時はぐちゃぐちゃに取り込んじゃうけど。
「東京に残った人たちも早く避難するといいのにねえ」
「……みんな自分のお家にいたいんだと思います。
わたしもほんとはパパやママの……眠る街にいたかったです」
「ここが終わったらゆのちゃんのとこに行ってきてもいいんだよ?
幼馴染なんでしょ?」
「……はい」
最後のシーツをカゴに放り込んでおしまい。
けっこう時間がかかった。
屋上から地上を眺める。
何メートルかは知らないけれどかなり高い。
地上がおもちゃみたいに見える。
きっと神様にも同じように見えているんだろう。
行き交う
街に生きる人たちは変わらず息づいている。
惨劇
世界各地で起こる突然の出来事。
いつ、どこで、なにが起きるか、多くを知ることができない。
逃げ場もなく、食べるために経済活動を止めるわけにもいかず、みんないつ降りかかるかも分からない恐怖に晒されながら生きている。
ふと視線をずらすと空に人影。
「しのっち、やっほ♪」
「うわ!? ゆの!?
びっくりしたあ」
空からの言葉通り、ゆのが箒に乗って空に浮いている。
「今日もおつかれさまだね」
「ほんとに疲れたよ〜!
聞いてくれる!?
今日の悪魔ってさ!
航空自衛隊の最新鋭戦闘機だったんだよ!」
ゆのから次々語られる戦いの話。
みんなから称賛されて当たり前のゆの。
「……ゆの。
ゆのはすごいよね……
たった一人で悪魔を倒して……
みんなに褒められて……
わたしは……
わたしは……」
「……しのっち」
「とってもうれしいよ〜!」
「うわあ!?
危ないよ!?
急に飛びつかないで!?
落ちちゃうよ!?」
「え? うわあ!?
う、浮いてる〜!?」
うっかり感激のあまりに屋上の手すりを飛び越えて抱きついていた。
ゆのの魔法力がなければ落ちるとこだった!
「しのっちはほんとにいつもいつもドジというか、後先を考えないというか。
ほんとにわたしのことが大好きなんだから!」
「あはは〜。
危うく死んじゃうとこだった……」
わたしの左目に映る地上。
足が宙をぶらぶらしていて、さすがに顔が青ざめる。
右目には映らない。
あの日、怪我をして失明をしてしまったから。
ずっと眼帯をしてる。
鏡を見るたびに傷跡を見て泣いてしまうから。
ちょっと厨二っぽいデザインが気に入ってる。
「ゆの! なんて大活躍なの〜!
さすがわたしのゆの〜!」
ぎゅぎゅっと強く抱きしめる。
「へへ〜♪」
「ゆのはすごいね。
機械や道具の力を何倍にしても操るその魔法力がすごいよね!
なんで箒で空が飛べるの!
物理もへったくれもない訳が分かんない魔法力がすごい!
ゆのみたいな頭がぶっ飛んだ美少女じゃないとできないことだよね!
さすが装甲魔法少女!」
「褒められてるんだよね?
いつもわたしを褒めてくれるしのっちかわいい〜♪」
そんなわたしたちが戯れ合う姿を生活班の数少ない男子たちが遠巻きに眺めていたのは言うまでもない。
「しのっち、ちょっと空散歩デートしようよ」
「いまから? 分かったよ。
サキさん! ゆのとちょっと出かけてきます!
お仕事行けなくてごめんなさいって伝えてもらえませんか!」
「サキさん、わたしからもお願いしま〜す」
サキさんから、あいよ〜とお返事をもらった。
「それじゃあ行こっか」
箒にまたがるゆのの前に横座りしてしがみつく。
箒が空を進んでいくと魔法力の帯がキラキラと虹を描いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます