酔った二人を行き交う肴
酒月うゐすきぃ
壱ノ肴:宇宙人
「実際のところ、どうなんだろうね」
賑やかな大衆酒場で、顔を赤くした二人のサラリーマンが、呂律を気にせず話していた。
二人の間には汗をかいた茶色いビンと、金色の液体に満たされたグラスが2つ。
肴は炙ったエイヒレと甘酢で漬けた葉生姜である。
「どう、ってなんの話だい?」
「宇宙人だよ。どんなふうにやってくるのかと思ってね」
「莫迦に、子供じみた話題じゃないか」
「別段、歳は関係ないだろう。不思議なもんは不思議さ。実は昨日やっていたテレビじゃ、随分とおかしなことを言っていてね」
「そんな言われ方をされたら気になるじゃないか。一体、どんなことを話していたんだい」
話題を振ったほうの男は、一息にグラスを干すと話し始めた。
「どこだかの偉い人が言うには、宇宙人は間違いなくいるそうだ。そのうち地球に来てもおかしくないってさ」
「それはまた興味深いね。存在することを言い切ったわけか」
話を聞いていた男は、相槌を打ちながら、向かいのグラスにビールを注ぐ。
「それは、この際どうでもいいんだ。広い宇宙、どこかに生き物がいても、おかしな話じゃない」
「だったら、何が気に入らなかったのさ」
「そいつの話じゃ、宇宙人が地球に来ても、一般人に接触するなんてことはありえないって」
「それは随分と不思議な話じゃないか」
「そうだろう?別段、俺らの前に現れたって、何もおかしくないはずだ」
「もっともだと思うよ」
聞いていた方も、葉生姜を齧りながらまんざらでもない様子で会話を楽しんでいる。
「なんでも、他の星で知的生命体と出会える可能性は随分と低いわけだから、きちんと手順を踏んで、しかるべき立場の人間に接触してくるはずだとさ」
「聞いてみると、そちらも至極もっともな話だね。昔からよくあるSFみたく、突然に攫ったんじゃ外交もへったくれもないというわけか」
「そうなんだよ、俺も納得しかけたぜ。でもやっぱり、そうとも限らないと思うんだよ」
横を通りがかった給仕に、瓶をもうひとつ注文しながら続ける。
「考えてもみろよ。俺らが森の中やら深海やらで新しい生き物を見つけたとき、代表者に挨拶するかい?」
「そんな話は聞かないね」
「だろう?新種発見!なんて興奮しながら、手近なのを2、3拝借しちまうわけだ。こんなのは相手方からするに、さっき話していたSFよろしく、突然攫われるのとおんなじじゃないか」
男はやや興奮気味に、給仕から受け取ったばかりのよく冷えた瓶を、聞いている男に差し向けた。
グラスを持ち上げてビールを頂戴した方は、半分ほど呑むとこう返す。
「ただ、彼らは知的生命体とは言えないんじゃないか?」
「そこだよ!茸やら魚にだって、知能があるかもしれない。俺らが解読できていないだけで、お互いに昨日あった愉快なことなんかを話してるかもしれないわけだ」
「ははあ、何が言いたいのか見えてきたね」
「お察しの通りだよ。宇宙人が俺らよりもはるかに優れたおつむを持っていて、彼らからして俺らが虫けらみたいな存在だとしてみろ。わざわざ代表者を探し出して挨拶するなんて、到底考えられんね」
そこまで捲し立てると、意見を聞きたいとばかりにエイヒレをひときれ、七味を振ったマヨネーズに潜らせると口に放り込んだ。
「テレビに出ていたという偉い人がどれだけ考えていたのかは想像もできないけれど、話を聞く限りじゃ君の意見に賛成だね。俺らよりもっともっと頭のいい宇宙人がいれば、見つけた端から2,3拝借されるのも、随分とありえそうな話じゃないか」
「そうだろう」
男は満足そうに、エイヒレの余韻をビールで流し込んだ。
「もっとも、それもわからないことだよ。案外、僕らと同じくらいの頭で、こんな風に一杯やってるかもしれない」
「それなら、お偉いさんなんかより、俺らの方がよっぽどうまい外交ができそうなもんだ」
「違いない」
男たちは軽く笑い合うと、互いにグラスを空けた。
「しかし実際のところ、どうなんだろうね......」
酔っぱらい達はその先もしばらく話を続けたが、内容はころころと移り変わっていった。
意味のある話をしたいのではない。
こうした会話が、いい肴のひとつなのだ。
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