のじゃっ娘★心霊探偵ミココ
翔龍LOVER
第1話 仙人が幽霊を証明しようとしてくるのだが
大人数のプレイヤーが仮想空間で銃を持って互いに撃ち合う、とあるネットゲーム。
ある日、よく一緒にプレイする女が、ゲームの真っ最中にボイスチャットで妙なことを言い始めた。
【なーなーイッポー。うぬは心霊現象というものを信じておるか】
「なんだよ急に。おら、建物の逆方向に敵がいんぞ。集中しろ」
【わかっておる】
的確な射撃が一瞬にして敵を排除していく。
なんで右後方の敵に気付いてんだキモ。やたら照準を合わせるのがうまいし、周りもよく見えてるし、追い詰められた時の状況判断も俺より優れてるというのがまたムカつく。
【友人がのう、家に幽霊が出ると言うておるのじゃ】
「目の錯覚だろ」
【詳しく聞きもしないで、どうして目で見たと言い切るのじゃ? その友人は妙な音が鳴ると言うておる。まあ言わば心霊現象の入門編、スタンダードな怪奇現象『ラップ音』じゃな】
「最初っからそこ説明しろサンシン、『出る』と言ったら見たんだと思うだろ。つーか手慣れた口調でいつの間にか人をオカルトの世界に誘い込むなっての」
【つれないのう。もう長らくこうやって生死を共にしている戦友じゃろうが】
「ゲーム中に知り合って二ヶ月くらい何となく一緒にプレイしている単なるネッ友の間違いだろ」
【ゲームのやり過ぎじゃな。イッポーは陰キャじゃろ。絶対にクラスの中でも浮いとる】
「いやいやお前もだろ。だいたい陰キャってのは人見知りで引っ込み思案、声も小さいし友達もいなくて外出も苦手な奴のことだろが。俺はそれらを全部クリアしており従ってクラスで仲間外れになんかされてねーし、ちなみに顔も悪くねー」
【はは。なら、趣味は?】
「こら何がおかしい。趣味だぁ? えーと……こうやって
【陰キャの鏡じゃ。儂とだけでも学校が終わってから寝るまでゲームやっとろうが。学業に専念せんといかん高校生のくせにネトゲ廃人寸前じゃ。今はこうやって流暢に喋っておるがクラスの友達と喋るのは好きではなかろう】
なんでこいつは俺が高校生だと知っているのだろう。
どっかで口を滑らせたか?
「……ま、その点に関しては否定はしない。好きではないな。他人と深く関わり合おうというモチベーションは全く持ち合わせていない」
だからこの女のことも「女である」ということ以外は何も知らない。
というか、知る必要もない。
【ど真ん中の陰キャじゃ】
「あん!? ゲームのことはお前もそっくりそのまま当てはまるだろ!」
【ユーザーネームも変じゃし。だいたい『イッポー』ってなんじゃ】
「それも一緒だ馬鹿。『サンシン』ってなんだよ」
ちなみに俺の本名は
たまに「
同じく、名前のせいで俺のあだ名はイッポー。
よって、このゲームでの俺のユーザーネームもイッポー。
このサンシンは、声質だけ聞くと「顔も可愛いかも」とつい思わされちゃうが、喋り方は仙人とか武士を連想させる「のじゃっ
俺は仙人語と名付けてやった。サンシンは馬鹿にするなと怒っていたが、普通の女子がこんな喋り方をするはずはないので変わり者に違いはない。おそらく外見も可愛さなどとは無縁のはずだ。お前こそ陰キャだろ!
【なーなー。そんで幽霊の話じゃが】
「まだ続けんのその話」
【話も聞かずに拒否るなんて可哀想じゃと思わんのか】
「俺は心霊現象なんて非科学的で非常識なものは大嫌いなんだよ」
こんなことを言っているが、俺は、心霊現象のことは意に反して多少詳しかったりする。それもこれもオカルト好きな親のせいなんだけど。
ゲームは非常に忙しい場面へ突入していく。立て続けに喋っていたサンシンが急に黙ったせいで銃撃音だけが
きつく言い過ぎたか? なんかちょっと可哀想になってくるな……。
ま、話くらいは聞いてやるか。
「しょうがねーな。とりあえず詳しく話してみろ。……おい、そっちは敵が固まってんぞ!」
【……ふふ。わかっておる】
「あ? なんでちょっと嬉しそうなんだ。敵に囲まれそうなんだぞテメー、この場面で笑うな」
サンシンは、コホンと一つ咳払いをした。
【その友人は、一週間ほど前に祖母が亡くなった。異音が鳴り始めたのはその頃からのようじゃ。部屋の中でも鳴っとるし、廊下を移動しながら鳴ったりもする。その様子は、まるで幽霊が家中を歩いて回っとるかのようだと言うておった。……うぬの後方、崖の上に敵がおるぞ】
「うわっ! やべーっ」
敵の銃撃を岩陰でやり過ごしながら、この場を
一般的な友人同士の会話なら、「こわっ」だとか、「それに似た話知ってる!」だとか、「マジでお祓いしたほうがいいかもね」とかいう反応をするんじゃないだろうか。
幽霊話を信じていようがいまいが頭ごなしに否定なんてせず、まずは一緒に盛り上がろうとしてイエスマンに化けたりして。
だが、この俺は違う。こういう正体不明の現象をさも幽霊の仕業であるかのように語る奴など、俺は嫌いなんだ。
妙な音が鳴ったのなら、それは本人から見えない位置で、本人の想定していない現象が起こってその音を鳴らせただけ。
幽霊を見たというなら、それは幻覚か、光の具合でそう見えただけ。
枕元に出たなら、それは夢か寝ぼけているだけ。
それが、常識的で当たり前の考え。
だから俺は、
「家の構造体が
【パチンパチンと鳴るその音は、廊下を移動するように鳴っていると友人は言うておる。さっき説明したじゃろ、うぬは儂の話をちゃんと聞いておるか?】
命を
結果、ごく平凡なひと言を口にする。
「そんなこと、あるわけないだろ」
【なーんでわかるのじゃ?】
「幽霊なんて、いるわけないんだよ」
【どーしてじゃ?】
「この世は、科学で成り立ってんだよ」
【なーんでそう思うんじゃ?】
同じ返しを連発されるこの妙な流れを断つため、ここで俺は回答に慎重を期した。
「……じゃなきゃ、この世がこんなに科学で栄えるわけがないだろ」
ヘッドセットから流される銃撃音に混じって、ワザとらしい大きなため息が聞こえる。
【なぁ、イッポーよ。近代科学なんぞ、たかだかここ数百年の話じゃろ。怪異は太古から信じられとる不変の存在じゃぞ】
「だからさ、ここ数百年で、過去から長らく信じられてきた
【オバケ怖い奴が意地張ってる定期】
「負け惜しみ定期」
しばらくの間。
ちょっと言い過ぎたかな? と俺がフォローの言葉を考え始めたタイミングで、予想もしなかった方向へサンシンが会話を
【へー。じゃあ、証明してみようよ。今から】
サンシンの声は怒っている感じではなく、かといって傷ついている風でもなく、楽しくて楽しくて
どうやらこいつは、俺が心配していたのとは全く違うメンタルだったらしい。
仙人語をやめて──意図的にやめたのか、それとも素が出たのか、まあいずれにしても最初からこいつは謎のキャラを作り込んでいただけという意味不明な結論に自然と行き着くことになるのだが。
ともかく、俺が知っている限りは
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