2刻 再会は偶然にして必然?
あれから月日が経ち俺達は高校生になるまでずっと一緒だった。喧嘩もしたり、仲直りしたり…。いつもが楽しい日々だ。しかし、思春期という物は俺達の仲を邪魔するものだった。中学に上がってからは徐々に男子と女子という区切りがハッキリしてきて、会話することが減ってきてしまった。
中学を卒業する時にはほぼ顔を合わせることすら無かった。だから彼女が今どんなことが好きで、何をしているかも知らない。
そのまま俺たちは高校生になった。そこで奇跡的に高校が同じだったがクラスは違う。
1年間普通に過ごしたが、やはり中学と変わらずの関係。
幼馴染との関係は気づいたら事務連絡になるとかいう話もあるけど本当にそれすら無くなった俺達の関係はなんだろうか…。
未練がましくなっているのか少し拗らせながらも1年が過ぎ、2年生になったある夏の日に俺たちの関係に動きがあった。
『この後…暇だったら私の家に来て。』
彼女から1通のメッセージが来た。突然だったこともあり、びっくりしたが当の本人を見ると友達にいつも通りの表情をしていた。
(2年目にして同じクラスということも驚きでいっぱいだと言うのに今度なんなんだ…。)
考えることを辞めて俺は、『了解』と返事を返した。
一体何が目的なんだろうか。気になることばかりで俺は午後の授業に集中出来なかった。
放課後になり、俺は彼女の家へと向かっている。住所が変わっていなければいいが…。
念の為連絡を取った。どうやら俺のいる目の前の家であっているようだ。
チャイムを鳴らすとマイク越しから声がし、ドタドタと慌てて廊下を走るような音がする。
タイミングをミスったのだろうか。
ガチャッという音と共にドアが開く。
「いらっしゃい。さささ、上がりなさいな〜」
ドアの先に居た彼女は、ラフな格好で迎えていた。
「お前は俺の母親か何かか?」
「え、私ってアオくんのお母さんだった!?」
「んなわけあるか!」
久しぶりに会って早々ボケるのは勘弁してくれ。ツッコミ側の気もちもわかって欲しい。というかツッコミ側ってなんだよ。
「さぁ、ここが私の部屋。覚えてる?」
「あ、あぁ。」
彼女に案内されたこの部屋こと、当人の部屋。
中は昔と変わっているけれど、懐かしい空気、懐かしい物が残っている。
「えへへ、男の子に部屋を見られるってちょっと恥ずかしいね。」
「そうなのか?」
「むむむ…この鈍感野郎め…」
「?」
彼女が何を言っているのか聞き取れなかったが、まぁ恥ずかしいということだけは分かった。
「それにしても、ハナは相変わらず可愛いぬいぐるみを多く持ってるな〜。」
「おぉー。久しぶりにハナって呼んでくれた!!ねね、もっかい!」
「お前がアオって呼ぶから合わせたんだよ。というか俺の質問に答えろ。」
距離感が近いこの馬鹿を引き剥がし、距離をとる。すると、華美は少し寂しそうな顔をした。
正直昔からこの顔に弱い。だから甘やかしてしまう。そう、今みたいに。
「あ、…ぅ…。頭撫でるのいきなりすぎるよ、アオくん。」
「なら、辞めるか?」
「い、いや。そのままがいい。」
華美はベッドに腰をかけ、隣に座るよう催促した。俺は言う通り隣に腰かけ、頭を撫で始めた。彼女は猫みたいに幸せそうな顔をしている。
「それで、なんの用があって俺を呼んだんだ?」
「用事がないと呼んだらダメ?」
「いや、でも今まで全然話してなかったのに急に呼ばれたらさ。」
「………。」
華美は立ち上がり、俺の目の前に来て真剣な表情で語り出した。
「私ね…。時間がもうないの。」
「は?それはどういう…。」
すると彼女の瞳から沢山の涙が零れ落ち、ゆっくりと話し出す。
「私…癌があるの。しかもステージが結構危なくて、助からないとのことなの。だから…」
「え…。癌。そんな…でも海外とか行けばもしかしたらさ!」
俺必死に提案するが、彼女は首を振る。
「そんなお金も無いよ。それに、行っても治る保証なんてないから。」
「そんな…。」
俺達の暗い気持ちが空気に表れ、冷たい風が吹いたように…。
「だからね!私決めたの。」
急に彼女は笑顔になり、明るい声で言った。
そして、俺に指を指して宣言するように…。
「残りの1年間でやりたいことを全部やりきって、悔いのない人生を送るって!」
「っ…。」
そう言った彼女の目はとても輝いていた。だけど、少し悲しみの色をしている。
俺には分かる。幼馴染だから分かるんだ。無理して笑顔を作ってるって。昔から…会った頃からツンツンしてて、自分の気持ちを悟られないように必死で。
「ハナ…。」
「ふぇっ!?」
俺は彼女をそっと抱きしめた。そして、同じように宣言のような感じで…。
「お前のその願い。一緒に叶えてやる。いや…手伝わせてくれ。」
「っ…。アオ…くん。」
彼女は涙ぐんだ。そうだ、これが本来の彼女。本当は誰よりも傷つきやすく、甘えたがりの女の子。
「アオくん。お願いします。君との時間に私の残りの1年間を使わせて。」
華美は俺の耳元でそう言った。
その声はさっきまでの不安そうな震えた声とは違って、信頼から生まれる願い事をするかのような気持ちのこもっている声。
それを受けて俺は決心した。
これもまた運命。あの時出会ったのも、こうして再び話せたのも。
偶然ではなく必然なのだろうと思いたい。
彼女のためにできることをやるんだ。
後悔しないように…。
俺の見つめる視線の先に映るあの幼い頃のツーショット写真が再び輝きが増したように思えた。
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