第9話:このピアノのことを忘れないでください





 縁といえば、もう一つある。

 妻と夕食を取りながら、何げなく見ていたテレビのニュースだ。

 そこで放映されていたのは、とある記念館に置かれているピアノについてだった。老朽化が進んだが、様々な財政難でピアノの修理ができず困っているので、募金を募っているとのことだった。

 そのピアノを見た時、私は何かを感じた。


 あの廃屋で見たピアノと、そこで弾く少女の姿がテレビの中のピアノと重なったのだ。

 私はいてもたってもいられず、記念館に電話をして、自分のできる範囲での寄付を申し出た。電話口の記念館の職員は喜びつつ、寄付に関連して書類を作成するので名前などを教えて欲しいと言った。


「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「はい。加納修次といいます」


 一通りの手続きを終えて電話を切った後で、私は気づいた。

 あの廃屋に置かれたメモ帳のことだ。そこには『あなたの名前を教えてください』と書いてあった。あの時私は自分の名前を書いた。

 あの何気ない行為と、今の私のしたこととが重なった気がした。それでいいと思った。むしろそうしたいと思った。


 あの時彼女が言った「このピアノのことを忘れないでください」という言葉は、きっとこのことだったのだろう。だから私は迷わず寄付をしたのだ。

 電話を終えると、私は妻のほうを見た。あのピアノこそが、私と少女をつなぐものだ。そしてまた、今の私と妻をもつないでいるのだ。そう直感で感じていた。





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