第1色

魔女閻羅

第1話

―――――コツコツコツ。







自分の足音が、湿った洞窟のなかで高い音を立てる。時折、ピチャン、可愛らしくもあり奇妙でもある水音が響くのも耳に届く。幼い子どもなら涙目で、もしくはこれでもかってくらいには泣いて座り込んでしまうような雰囲気だ。








まるで腐敗しかけの生魚みたいな匂い。自身の身体のなかを駆け巡っている血液より何倍もどす黒い液体が身体にへばりつきながら音もなく地面に落ちる。








持っていたランプをかすかに揺らしながら洞窟内をくまなく照らす。照らしたところで視界に入ってくるのはどうにもつまらない、遊び心をひとつも持ち合わせていないような岩や石ころ、地面だけ。








色ですら面白みがない。








ふと足を止め、後ろを振り返ると、先程まで威勢良く牙を向けていたヤツらが積み重なって倒れている。あたしの服だの肌だのにへばりついている血の主たちが。







それらに一瞬だけ目を向け、再び前を向いて歩きだす。








―――――コツコツコツ。







相変わらず、視覚からの情報も、聴覚からの聴覚からの情報も何もかも、五感すべて変化を持たぬまま歩みだけが進む。








「……随分長いな」








違和感を感じ、ポツリ、声が漏れた。









おかしい。どれくらい歩いただろう。眉間にシワを寄せて考え込む。すると、ヒュッ、鋭く空を切るような音が響き、そちらを見ると随分と赤黒い、まるで錆びた鉄に血液が付着したみたいな、決して良い気分にはならないような色をした竜であろう生き物が現れた。

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