第2話 お別れ

「今までありがとうございました」

演劇教室のみんなにお別れの言葉を言う。

子供たちが泣いてくれるのが少し気恥ずかしい。


お別れ会が終わり皆とさよならをした後、ある一人の女性に声を掛けられる。


「怜くんが居なくなるなんて寂しくなるね。いつでも教室に来てくれていいからね。」


「ありがとうございます。詩織さん、本当にお世話になりました。この6年間大変なことも迷惑かけたこともあったけど僕は楽しかったです。」


「それは良かった、楽しんで貰えるのが何よりの喜びだよ。」

詩織さんは1拍置いて言った。

「もう、演劇は辞めちゃうのかい?」


この人には1番言うつもりが無かったのに見透かされすぎててつい笑ってしまう。

言うしかないではないか。


「そうですね、辞めると思います。」

「あぁ、けど観客席には座るつもりですからいつでも誘ってください!」


詩織さんは一瞬複雑そうな顔を浮かべたが、僕が気にしないように軽い昔話をして栞さんは教室に戻った。


この人を見ていると演劇を始める前を思い出す。


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「お母さん、あの女の人すごく綺麗」


「そうね、あれでお孫さんがいるなんて美魔女っていうんでしょうかね。」

「……怜くん結婚したいとか言い出さないでちょうだいよ」


「そういうんじゃないよ。」


「ご観劇いただき……演劇教室にも是非いらしてください。」


「へぇ、そういうのもあるのねぇ。どう?怜くんもやってみ


「俺、あの人の教室に入りたい」


姿勢から一つ一つの丁寧な所作、凛としていてそよ風のように柔らかい声。

この人の背中を追いかけて、学んで、この人になろうとした。

でもこの人にはなれず、挙句の果てには朝倉澪という新しい大きくて強い壁が立っただけだった


ふと光に反射しているものが見えた。

扉の前に雫が落ちていた。

僕が居なくなるのを悲しんでくれているのか、僕の台詞うそに気づいていたからなのか分からない。

でも、わざわざ余計なことを言わないあたり彼女も役者なのだろう。


結局僕は何者にもなれなかった。

6年で成長したのは小手先の技術だけ。


しかし、小手先だけでもあの人の本物が見れたんだから。


足早に立ち去り、何も考えないことだけ考えて帰路についた。

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