Diver's City

敷島八雲

第1話

 眼下の湖はどこまでも深くて、日の光を反射して眩しい。湖は周りを山に囲まれていて、中央には島がある。それを、俺は近くのトレイルから見下ろしている。

 まただ。俺は遠くへ行ってしまっていた意識を引き戻した。気が付くと、意識は日本を離れて、夏の頭にホームステイをしていたカナダへと飛んで行ってしまう。思い出している。考えている。もう戻れないことはわかっているつもりなのに。身も心も日本にいて、帰ってきているつもりなのに。思い出したとたんに切なくて、戻りたくてたまらなくなる。

「じゃあ、授業ここまで」

「ありがとうございましたー」

 間延びした声とガタガタと椅子を引く音がして、食堂やら他クラスやらで弁当を食べるためにクラスメートたちが教室を出ていく。

「遊多ー。昼めし食おうぜ」

「あ、うん」

 友寄が弁当袋を片手に提げて俺の席へ歩いてきた。持ち主が他クラスへ行ってしまった前の席の椅子を引っ張って向かいに座る。友寄は俺がクラスで一番仲良くしているやつだ。入学してすぐに隣の席だからと弁当に誘われて以来、移動教室なんかも一緒だ。ただ、親友とは何かが違う気がしている。本当にそこまで仲がいいのか、と問われるとわからない。

「てかさー。さっきの授業、また小池教壇から落ちてたよな」

「そうだっけ?」

「マジ、マジ。後ろ下がり過ぎなんだよな、いつも」

 友寄はフレンドリーだ。名は体を表すとはまさにこのことなんだろうなっていうくらい知り合いがたくさんいる。俺はときどき、本当に俺と一緒にいてもいいんだろうか、と考える。ほかの誰かから誘われていて、本当はそっちへ行きたい、なんてことはないだろうか、と。被害妄想気味だろうか。いつもこんなことばかり考えているから、友寄と今ひとつ距離を詰められないのだろうか。

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