第3話大乱闘

悪魔の世界に来て半年。


今日は知り合いが来るというので、二人して客間で待つ。


どんな方なのですかと気になり、聞く。


「古いってわけじゃないかな。割と最近知り合ったよ。」


悪魔の内容に頷く。


「ご友人なんですか?」


「うん。君をかけて大乱闘した時に、互いに力が均衡するくらいの強さで、なかかなかの接戦を繰り広げたんだ。そして、意気投合」


「そうですか。悪魔世界にも友人などがあって安心しました」


「ナサリーも気に入った愛し子と、仲良くなればいいよ」


「なれれば、考えます」


今は彼との蜜月を、味わっていきたい。


やがて客間に現れた悪魔を見て、口元に手をやる。


「やぁ、ノビス」


「ようこそ、我が家へ。うちの奥さんのナサリー。君はもちろん知ってるだろうけど」


「ああ。もちろん。ナサリーにあと一歩手が届くところだった」


「王から特別に人間を一人選んでもいいって許してもらったろ?しかも、選んだ相手が血縁者なんて、君も考えたよね」


その相手は子爵。


姉の悪魔だった男。


「え、あの。どういう、ことでしょう」


時系列もわけがわからない。


姉が見初められたのは、妹より先だ。


「大乱闘騒ぎはメンフィスの時よりずっと前に起きて、誤差だけど僕より先に姉を娶っただけだよ」


「知りたくないですが、姉は今どこら辺に?」


今生報告的なものを知りたくなり、尋ねた。


姉のことというよりも、まるでナサリーの血縁だからというだけで、娶ったのちのあれこれを怖いもの見たさで聞く。


知らないのも、なんだか気になる。


「うん?適当に部屋に放り込んでるけど?」


随分と最初に会った時と印象が違う。


「あ、でも安心してくれ。義理の兄という肩書は死んでも手放さないから」


(なんとなく分かった。義理の兄のポジションが欲しくて、メンフィスを愛し子のように扱ったんだ)


「お兄さんと、ぜひ呼んでくれたまえ」


「ノビス様がお許しくださるのなら」


「勿論、こいつと約束してたから、許すよ。呼んでやってくれ。僕とこいつの君への愛は同等にも、等しい。意味は重複するけど、言いたくなる程ってことを、言いたいんだ」


メンフィスは愛し子ではないとかと聞くと「違うけど」と素直に答えをいただいた。


「本物の愛し子は別にいるのですか?」


「愛し子の二人目なんて、掛け持ち行為をしたくないけど、君はノビスの嫁になってしまったし。これからコツコツ探していくってところかなー」


悪魔のイメージがどんどん剥がれていく日々。


姉は、と聞くと首を傾げられた。


なにをしているのか見てないので知らないとのこと。


餓死はしないので、安心してほしいと言われた。


「会う?」


二人に聞かれてうーんと悩む。


嫌なことしかされてないしな。


もう少し後にします、という。


問題を先送りにしていると思われるかもしれないが、蜜月に水を刺されるのは嫌だ。


自分、新婚なんで。


「ノビスと義兄弟になれるから、本当に最高だ」


姉の悪魔ではなかった人は、ノビスと握手し、ナサリーには指先にキスを灯す。


「人妻だからこれで我慢しよう」


本当に我慢している顔だったので、可愛くて「お兄さん」と呼んだ。


飛び上がって、スキップして帰って行ったのには驚いた。


それから、子爵とは義理兄として交流を続けていくことになる。


お土産に渡すものを送って、そのお礼を言いに、家まで来ることもしょっちゅうだ。


「近くによいハンカチがあるから、いつでも食べれて楽々だ」


「ハンカチ?」


「ハンカチじゃなかった。えーっと、うーんと、名前は忘れたけど君の姉だ。姉だったよね?」


名前も、血縁者の肩書き確保の為だけに居候させているメンフィス。


メンフィスのことも、忘却しかけていた。


ハンカチ扱いにまでなっていて、微かになにを言っているのか、ちんぷんかんぷん。


ナサリーはノビスの方を向いて「姉に会います」と遂に言葉にした。


今まで姉に全てを優先されてきた。


それが、実は違ったという現実になにもいう気がしなかったけど。


もうそろそろ、見てもいいかと感じた。


ナサリーの勇気ある言葉に彼は指先へキスをした。

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