第4話 mayu

 23歳の若さで夭折した鮎川まゆみ――通称mayu――には、生前からオカルトめいた噂がささやかれていた。



 たとえば、デビュー前に事故で死んでいたというのが、その代表的なものだ。



 mayuは事務所がテレビ局や食品メーカーなどともタイアップして、大々的に売り出す予定の大型新人のはずだったが、その具体的な日程が決まる直前に事故で死んでしまったのだ――と、噂はいう。


 事務所は仕方なく生前に撮りためておいた音源や映像を使って追悼盤のつもりでCDを出したのだが、はからずもヒットしてしまい、彼女の死を公表することができなくなってしまった。


 そして、古い音源を加工して次々と「新曲」を発表することになったのだ、と噂はいう。




 こうした噂は、mayuの突然の死――本当の死――によって、さらに増幅することになった。



 音源すべてをCD化してしまったので、もはや新曲を出すことはできなくなり、ついにmayuを死んだことにせざるをえなくなった、


という噂が広まったのだ。



 もちろん、こうした噂が生じるには、それなりの背景があった。



 mayuはテレビ番組に決して生出演をしなかったということも、そうした噂が生まれた要因の一つであったろう。


 電話取材などは受けるのだが、生で歌うということはなく、放送されるのはMVか番組用に撮られたビデオに限られていた。



 しかし、数こそ少なかったが、ドーム・ツアーといったライブ活動はしていたので、本当のファンで彼女の実在を本気で疑う者はいなかった――はずだ。


 それにもかかわらず、噂は増殖していくばかりだった。



「サード・アルバムの1000枚に1枚、mayuの別れの挨拶が入っているものがある」


「最後のシングルに収録されているシークレット・トラックを録音して、逆転再生すると『誰か助けて』というmayuの声が聞こえる」


「鮎川まゆみは1人ではない。同じ芸名を名乗った何人もの少女がいたが、みな20歳前後で死んだ」


 などなど……



 実は、これらの噂には少しずつ真実が含まれていた。



 というのは、mayuは実在するアイドルではなかったからだ。


 ルックス、歌、しゃべりを、それぞれ別の女の子が演じ、それにデジタル処理なども加えて合成し、鮎川まゆみというアイドルが作られていたのだ。


 mayuが作詞したとされる曲の多くは、15歳の時に失踪した少女が残した詩がもとになっていた。




けれども、mayuは本当に存在していた、と語るスタッフも多い。



 彼らは、曲の録音やMVの撮影、ライブの演奏中などにおいて、mayuの意志を感じたというのだ。



 実際、現場では「じゃあ、mayuがそうしたがっているみたいだから」と言って、演出などが決められることが少なくなかったという。





 こうしたことと関係あるのかわからないが、最近、新たな噂が広まりだしている。





 それはmayuが復活するというものだ。




 まるでキリストのようにmayuが再臨するというのだ。




 mayuがバーチャル・アイドルだったことは、いまだに秘密にされているのだが。

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