第10話 フィナーレは、怪盗ライトが勝利する

「お、きたきた」


 貯水タンクの後ろから、わたしは黒服たちが屋上に集まってきているのを確認する。

 さっき、あおいが無線で黒服たちに「侵入者は屋上にいる」と伝えたからだ。


「じゃ、いきますか!」


 ネックウォーマーで顔を隠して、気づかれないようにタンク裏から飛び出した。黒服は全部で10人。こいつらを倒して、警察に引き渡すっていう作戦なんだ。

 2人、手刀をくらわして気絶させたところで、他の黒服に気づかれた。


「なっ、構えろ!」


 気づかれたなら、しょうがない。

 動揺して隙がある一瞬のうちに右にいた男にボディーブローを叩き込み、そのままわたしの後ろにいたやつの襟を掴んで投げ飛ばす。


「はああっ!」

『こっちも終わったら加勢する』

「その必要はないかもしれないけどね」


 こいつら、あんまり強くない。パルクールだけでなく武術もおさめているわたしとしては、拍子抜けしてしまうような弱さだ。

 守り専門で、攻撃に特化してないからかも。


「くらえ、ライト特製ボール!」


 ボールを3つ投げつけた。男2人と女1人が見事にくらってその場に崩れ落ちる。

 今のは即効性睡眠薬(あおい作)入りだ。

 残りは3人!


 ちょっと楽しくなってきたわたしは、ぐっと足に力を入れて、高く飛び上がった。

 地面から、2メートル以上は離れていると思う。こんなに高く飛んだのは、久しぶりだ。

 眼下には、唖然とする黒服たち。タンクの影で、あおいが顔を顰めているのが見えた。

 多分、いらんことするなってことだろう。


「でもさ、ちょっとくらい、カッコつけてもいいよね」


 月をバックに、空中でくるっと一回転。

 そのまま、黒服たちのすぐそばに着地した。


「おやすみ!」


 バンッ!


 さっきのライト特製ボールを、背後にいたあおいが投げつける。わたしは、目の前にいた女を気絶させた。


「よし、一段落」

「なんだったんだ、あの無駄な動きは」

「無駄って言わないでよ。それよりサファイア、これで終わりじゃないよね」

「もちろんだ。それに、もうここへ来るはず――」



「動くな」



 背後から、カチリという音とともに、低い声が聞こえた。

 ――これも、あおいの作戦通り。


 その声を無視して、くるりと振り返ると、男の持っていた拳銃から煙が立ち上がる。

 パァンと音がするより早く、わたしは顔を左に傾けて銃弾をかわした。


 通信機越しに、ため息混じりの声が聞こえる。


『……お前、玉避けるとか……本当にバケモノなんじゃないか?』

『アニメとか漫画には、避けれる人いっぱいいるよ?』

『どう考えても現実とフィクションじゃ違うだろ……訓練もしてないのに』


 チラッと横を見ると、呆れを通り越して奇怪なモノを見るような目をしていた。かなり失礼なので、あとで一発殴ろうと心に決める。


「お前らだな、ダイヤを盗んだのは。返してもらおうか」


 男――鳥喰刹那とりばみせつなは、どこかのんびりとした口調で言った。


「バレない予定だったんだけどなー。最初に盗んだのはそっちでしょ? 返す気はないかな」


 見せつけるように、わたしは取り出したタブレットをひらひらとさせた。


「なっ、それは!」

「これ? 明日開催のオークション関係者の名前が並んでたよね。このタブレット、壊したらどうなると思う?」

「き、貴様……ッ」


 鳥喰がうめいたとき、背後に第三者の気配がした。

 ハッとして振り返ると、その第三者がちょうどあおいに向けて引き金を引く寸前!


「っ、危ない!」


 タックルして避けさせる。スレスレで、ポニーテールの先が銃弾をかすめた。


「大丈夫?」

「問題ない、そろそろいいぞ」


 あおいの声にわたしは頷いて、立ち上がる。

 さっき発砲したヤツは、鳥喰の後ろにいた。おそらく、専属のボディガードだと思う。


 鳥喰と対峙したわたしは、にっこりと、そりゃあもう満面の笑みで――ボキッと、タブレットを真っ二つにした。


「な……! それって人間の手で割れるものなのか!?」


 そっち?


「ウソだ……って、データが!」


 あっ、やっと気付いた。

 どこからか、パトカーの音が響いてくる。


「警察!? まさか、お前らが呼んだのか?」

「さぁ? わたしたちじゃないね。警報機が鳴ったときにでも通報されたんじゃない? 捕まるのは勘弁だから、そろそろおいとましようかな」


 シューっと、あたりに煙が立ち込めた。黒服が来るまでの間に、わたしとあおいで仕掛けた発煙筒だ。


「怪盗は、手口が鮮やかな盗賊だから、最後まで美しくないとね。じゃ、さようなら!」


 そう言い残して、わたしとあおいは、鳥喰の前から姿をくらました。


 ♢◆♢


「ヘマしたぜ……あんなところに赤外線センサー仕掛けられてるとは思わなかった」

 スカーレットビルの隣の建物から、屋上で起こった一部始終を見ていた人物がいた。

「……にしても、あいつら……正義感も強そうだったし、もしかしたら……とりあえず、代表に報告するか」

 そう呟くと。人影は、建物を飛び移り。

 夜の闇に、消えて行った。

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