おかしな星々
音羽 みゆき
第1話 真夜中の世界
『いつだって自分の味方がいる』と思えるのは、今までの僕の人生のなかで1番凄いことだったんだって思う。
それは言うならば一生に一度の、奇跡のようなもの。気まぐれに訪れた隕石のような。
きっともう、起こり得るはずもないなって思う。隕石が何度も地球に落ちてきたら大変なことだ。
だってもし、真夜中に何か起こりそうな気配がして、確認しに行きたくなった時、小学生にもまだならない子供の僕が相談したら、一体おじいちゃん以外のだれが共感してくれただろうか?
彼は胸を張って言ったものだ。
「コウ、おじいちゃんに任せろ。一緒についていってやる」
それは、僕たちにとって冒険だった。
当時の僕は怖いもの知らずだった。それも、いつだって味方の相棒がいてくれたからだろう。
「おじいちゃんに、なんでも分からないことは聞いたらいい。おじいちゃんは、なんでも知ってるぞ。大学の先生だったからな」
そう。おじいちゃんは、天文学者で、大学の教授だったんだ。日本の歴史にも詳しい。
「えっと、じゃあ、人は死んだらどこにいくの?」
真夜中の住宅街をそろそろと歩きながら、僕は聞いた。
「いきなり難しい質問するなぁ、コウは。人は死んだらどこにいくのか?」
「うん」
おじいちゃんは僕と手を繋いで、ゆっくりと歩いている。反対側の手で鼻をぽりぽりと掻いた。
「それはね、空の向こう側だよ。そこから大切な人を見守っているんだ。おじいちゃんの、お父さんとお母さんがそうだよ。月の裏側から、コウとおじいちゃんを見守っているよ」
僕は、おじいちゃんのお母さんとお父さんに見守ってもらっているのを知って、月を見た。
ぽかんと浮かんだ月の、柔らかな凹凸に、優しそうな光が笑っているような感じがした。あの向こうから超能力で見ているのだろうか?
僕はおじいちゃんの横顔を伺う。月の明かりにぼんやりと、笑い皺が見えた。週末に、買ってきたいちごをカラフルな紙袋に入れて、訪ねて来るときの表情と同じだと思った。
人一人いない冬の町を、2人して歩いた。まるで何もかもが、初めて見る景色だった。
スリリングな階段。街灯だけが頼りの坂道。テレビで見た王家の墓みたいだった。
舗装された地面がキラキラとしていた。闇の世界が、そこにはあった。
もし、あの角を曲がったら。もし、あの茂みの匂いを嗅いだら。
僕の想像を、現実が飛び越えていくのを感じた。
暗くて広い公園の入り口にまでくると、植木の茂みの真っ暗さに、驚いた。何かひそんでいても誰にも分からない。僕は、繋いだ手を強く握り、救いを求めて空を見上げた。
すると、底がぬけたような宇宙に、パラパラと一面に砂糖のようなカケラが浮いていた。月は、寒そうな風のなか、薄い雲に半分くらい隠れている。
遠くに、ヘリコプターのような赤い光も見えた。
「コウ、僕らツイてるぞ!晴れてなかったら、こんなにたくさん星は見えない」
えっ、夜中でも晴れ空ってあるの?僕は目を丸くした。
おじいちゃんは、宇宙を眺めながらブランコに座った。
「おばあちゃん、寝てるかな?」
いきなり気になって、僕もブランコの鎖を引き寄せておじいちゃんに尋ねる。
「あ・・・おじいちゃん、なんでも知ってるって、言ったけど間違いやったわ、、、よく分からないこともあるなぁ」
いつも綺麗にしちさんに撫でつけている髪の毛を、かしかしと掻いたおじいちゃん。ついでに四角のメガネを指で押し上げる。
おかしくなった僕は、
「そりゃそうだよね。神さまじゃないんだもん」とブランコに乗ってこぎながら応えた。
おじいちゃんは、家に帰るまでの時間、空の彼方にあるブラックホールのことも教えてくれた。
太陽の30倍以上の重さの星が、星の生命の終わりのときに大爆発を起こすと、その星の中心が、すごい勢いで縮んで、その星はブラックホールになるらしい。
そうなると、ブラックホールはすごい強い引力を持っているので、自分のだした光でさえ、飲み込んでしまい、光は逃げ出すこともできない。
もちろん、ほかにも近づくものは全部、強い力で引き寄せられ、飲みこまれてしまうそうだ。
なんだかもの凄い!星は生きているんだって?
それから、飲みこまれた星や光は、一体どこに行ってしまうのだろう?
僕は胸がドキドキして、新しい世界にふれたみたいに感じた。
だれもまだ見たこともない、理解もできない、そんな世界が僕たちの頭上に広がっているらしい。
何かあるかもしれないという、僕の予感は当たっていた。
「何が起こったって不思議じゃないんだ。宇宙やブラックホールでは。まだ人類には分からないことだらけなんだから!」
その夜、僕はおじいちゃんの言葉を何度も反芻して眠れそうになかった。
参考文献 沼澤茂美さん、脇屋奈々代さん共著
『宇宙 太陽系とその惑星から銀河宇宙の果て、地球外生命探査まで すべてがわかる』
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