マンガしか描けない少年絵画術師、ダンジョンの奥地に生息していた恐るべきドラゴンを、萌え神様にイメチェンさせて神絵師となる

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第1話 マンガ絵しか描けない、絵画術師

 絵画術師たちの作品が壁に並ぶ中、ボクの作品だけが異彩を放っていた。


『カミュ・エッジ作 風の精霊』


 ボクがデザインしたイラストは、ミニスカートを履いた小さい精霊たちだ。術師の中央を、フヨフヨと舞っているイメージ。


「てぇてぇ」

「オレはスキだな」

「かわいいわ」

 

 ボクの作品を見て、みんながニヤニヤしている。


 とんでもないことだ。


 みんなのほうが、よっぽど優れいている。


 特に、幼なじみであるタマロィちゃんや、ホークサイトくんの作品なんて、人だかりができていた。


『タマロィ・キルティ作 風神』


 タマロィちゃんが描いた風の精霊は、ムキムキマッチョな嵐の神様だ。筋肉一つ一つが、今にも躍動しそう。


 と思っていたら、本当に躍動した。キャンバスから、絵の通りの魔神が実体化して、空に嵐を巻き起こす。

 もちろん、これはデモンストレーションに過ぎない。

 タマロィちゃんだって、魔神を制御もできている。

 


『ホークサイト・ガッツ作 風の龍』


 緑色の龍を、風の精霊のモチーフにしたのは、ホークサイトくんである。


 このドラゴンも、実体化した。

 巨大なヘビの形をしたドラゴンが、風神の起こした嵐を自分の力に変える。

 ギャラリーたちを脅かすかのように、地面スレスレを舞う。

 突風が、ギャラリーたちの髪を撫でた。


 これが、【絵画術師】の力である。


 魔力を絵筆に込めることにより、描いた絵の精霊が自身の分身となって具現化するのだ。


 絵画のできがよければ、それだけ具現化した精霊も強くなる。


「すごいですね! 一四歳でこれだけの魔神たちを描けるとは!」


 担任の先生も、自分のことのように喜んでいた。

 

 優等生二人に比べたら、ボクのイラストなんて幼稚もいいところだ。


 絵が気に食わないのか、風の精霊たちは具現化すらしてくれない。ボクの絵に、興味を示していないのだ。精霊の笑い声すら、聞こえてきそうである。


 乗り移る絵画のセンスが悪いと、精霊たちはヘソを曲げてしまう。「こんな絵に魂を乗せることはできない」と。

 ボクは絵画術師にあこがれているけど、一度も精霊に具現化してもらえたことがなかった。

 ボクより下の学年の子だって、一度くらいは具現化できているというのに。


 もうすぐ一五歳になって、卒業も近い。なのに、このザマだ。


 優秀な絵画術師の家系に生まれたのに、ボクだけがポンコツなのである。


「カミュさんは、今日もダメでしたか」と、担任の先生も呆れ顔だ。


「悲観することはないぞ、カミュ。お前の絵が世に知れ渡るのは、そうそう遠くないぞ」


「そうよ。時代が追いついていないのよ」


 ホークサイトくんもタマロィちゃんも、ボクをなぐさめてくれる。


「ききき、気休めは、よよよしてくだいぃ」


 ボクは幼なじみ相手でも、敬語を使ってしまう。


「ボボ、ボクは、みんなのような絵を描きたいっ」


 いたたまれなくなったボクは、その場から逃げ出した。


 もっとインスピレーションが湧く場所で、絵を描かないと。


 このままでは、ダメなんだ。



 気がつくと、禁忌とされている地下の祠に、足を踏み入れていた。


 ここには、恐ろしいドラゴンが封印されているという。


 ドラゴンは本来、実体を伴わない。自然現象を具現化したものである。人間のイメージによって、その姿を自在に変えるのだ。

 世界最初の絵画術師によって、ドラゴンは「コウモリの翼が生えたトカゲ」というイメージが定着した。

 そこからバリエーションが変わっていき、「空を浮遊するヘビ」だったり、「角の生えた屈強な若者」へと姿がイメージされていく。


「ここのドラゴンは、【ノヅチ】という恐ろしい怪物だって聞く」


 かつて誰も、ノヅチを具現化できたものはいない。


 名のある絵画術師が挑んでも、ノヅチは具現化を許さなかった。


「でも、それを具現化できたら、ボクは一歩成長できる」


 ノヅチを具現化して、世界を支配しようとかは、考えないけど。


 祠の奥に入っていった。


 とにかく、キャンバスを用意して、と。


『そこの者よ、なおれ』


 頭に直接、声が聞こえてきた。


 女の人? 女の子と形容したほうがいいか。


 でも、脳内にイメージできる姿は、稲妻のようにほとばしる虹である。


 具体的な印象を、掴めない。


 この人の姿は?


『なおれと、言ってんじゃん?』


 ボーッといていたら、再び声をかけられる。

 

「は。はい! ととと、突然お邪魔して、ごご、ごめんなさいっ」


 ビックリして、ボクは立ち上がった。

 これまで描いてきた絵を、地面にぶちまけてしまう。

 片付けなきゃと思っているけれど、怖くてできない。

 

『よい。汝の名は?』


「かか、絵画術師見習いの、カミュ・エッジと、い、いいます!」

 

『カミュか。ふむ……?』


 ボクにはわかった。

 ノヅチ様の視線が、ボクのヘッタクソな絵に移ったのが。

 目なんてものがノヅチ様にあるか、わかんないけど……。


 とにかく、なんらかの視線が、ボクの絵に向けられている。それだけは、わかった。


 だって、地面に散らばっていたボクの絵が、ひとりでに浮き上がったんだもの。

 ボクの作品は宙を舞って、ピタリと止まる。

 

『おおーっ。どれも、なんともカワイらしい。鬼カワ・夢カワ系じゃん』


 よくわからない単語が、ボクの脳内を飛び交っているぞ。


『ぐうかわ。これムリ。マジ死ねる。この子ならあるいは、いけんじゃね?』


 ノヅチさまの放つ言語は、ボクには解読できそうもない。


 なんだろう? 褒められているのか、けなされているのかも、理解できなかった。

 

 しかし「ムリ」とか言っているから、ボクは不採用なんだろう。


 かつてノヅチの具現化に失敗した絵画術師は、食べられちゃったと聞くけど。


 ボクも、食べられてしまうんだろうか?


『カミュだっけ? アンタさあ、アタシを描いてみてよ』

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