3章 運命
真夜中、御屋敷をこっそりと抜け出す。
初めて一人で出歩く外が思いのほか寒くてびっくりしたが、遠くで見ていた景色が間近で見れてドキドキとワクワクしている。
街灯の下。青いマントから赤い液体が雪に染み込んでいくのが見えてきた。
慌てて駆け寄り人だと確認して、慣れない治癒魔法をかける。
『ーーー』
何かを話している。
あぁ、もう一度あの人に会いたい。
…夢だ。
いつもは夢を見たことさえ覚えていないけれど、今回は懐しい夢を見た感覚だ。
内容は覚えてないが、なんだか目覚めが悪い気がする。
今日の天気予報は一日中雨。泉の調査は一度中断。どうしようか。
とりあえず博士の事はプラパさんが知ってそうではある。
少し早めに寮を出て学校に向かう。
「おはよう」
科学部の扉を叩くと開けてくれる。
「ここで朝食をとってもよろしいですか?」
来る前に買ってきたパンと紅茶の袋をみせる。
「何日分の朝食なの?」
「え?」
…
……
「…食べます?」
「貰ってあげてもいいよ」
そのうちにエルさんとピースさんがきて、朝食を取りながら雑談を楽しんだりピースさんが二度寝をしてたりする。
気がつけばファイが私のパンを横取りしている。
「なんでいるんですか!?」
「居ちゃ悪いかよ」
「ここは科学部。部外者立入禁止」
「じゃあコイツはどうなんだよ」
「人に指を刺さないで下さい。私はちゃんとノックをして招かれましたわ」
皆から責められて黙ってしまう。
「それで、貴方は私のパンを目当てで来たわけではないのでしょ?」
「…明日までにグラズを引き渡せってアイツが言ってきた」
「明日まで、と言うなら今日一日は猶予があるんだね」
「博士は心臓で何を研究し、次は一度自分の手で作った心臓が必要なのでしょうか?プラパさんなにかご存知ありませんか?」
「全てをハッキングできたわけではないけど、今の設計図と改良した設計図が出てきただけで、肝心の内容はわかってない。でも、もう一度大掛かりな実験と手術することは決まっているようなものね」
それは私の体でなければいけない理由があるのか。
もうそろそろ朝礼のチャイムがなる頃。
部室の戸締まりをし、それぞれの教室へ向かう。
挨拶が終わり、思いのほか授業などはスムーズに終わる。
休憩時間多少のいざこざはあったが、やんわりとお断りしたぐらいだ。
お昼休みにはプラパさんに誘われて部室へ向かう。
「そういえばこちらの私はどういう方なのですか?」
「ん〜、頼りない感じ?魔法が使えないから皆を怖がってたのかもね」
なるほど?魔法がつかえないというのは考えたことも無いわ。
「昨日気になったのですが、こちらの私はどこで育ったのでしょう?」
「孤児院で育ったと聞いてるよ」
5歳の頃何かしらで心臓の手術もとい実験をされて、両親には死んだと偽り、孤児院で育った
使命もない、誰にも縛られない所で
「…彼女は幸せなのかしら」
「え?」
思わず出てしまった言葉だ。
「知らないけど、皆から虐められてても勉強は好きそうだし、お姉さんとは仲良さそうで楽しげだったよ」
ん?虐められてたの?
「姉?」
「もちろん血の繋がりは無いけど、姉のような人と言ってて良く話題にあがってくる。フロシーとか言ってたかな」
初めて聞く名前だわ。
その人は学校には通わず、もう働きに出てるらしい。
ランチを取りつつそんな話をしてから月と泉の関係性を調べる。
遅めに来たエルさんとピースさん。泉に関係してそうな噂話を聞き回っていたらしい。
「満月の夜、森の水溜りを除くと理想の自分が映り込む噂」
「森の泉に映る水面は過去とか未来とかの噂」
「月夜なのに水面に何も映らない噂」
「どれも信憑性は微妙」
もはや学校の七不思議ぐらい信憑性は無いとぼやくピースさん。
そのまま昼寝に入るらしい。
「情報屋のナツさんがいるなら良いんですけどね。今日もお休みでした」
情報屋のナツさん。情報屋は多いけれど、同じ一年生でありながら情報の信頼度は高い。その分、報酬は高めではある。
ただ居ないとなれば仕方がない。
今日の授業も終わり、最後の宿題も終わらせる。
プラパさんにもしカメリアさんを助けるならどこに匿われてるか調べて欲しいと依頼。
後は気分転換で外に出向く。相変わらず雨で寒い。今にも日が沈みそうだ。
まずファイを助けるならカメリアさんの救出。
ただ、プラパさんにもカメリアさんを見つけられなかった場合私が身代わりで行くしか無い。
そうなってしまったら自力で脱出するしか無いが…
向こうの彼なら怒りながら止めるであろう。
そんなことを考えていたら結局泉に付いてしまった。
雨水で波紋が絶えず、鏡のようにはなにも映らない。
ガサガサ
後ろの草陰から気配がすると同時に杖を取り出し身構える。
獣か、人か
「あれ、グラズじゃん」
人の心情なんて察しないような素っ頓狂な声だ。それに見慣れたアホ毛。
「シャン…」
思わずいつもの調子で呼んでしまったが、私の知っているシャンとは違うはず。
今のところは誰かさんとは違い敵意は無さそうだ。
「知り合いっすか」
隣りにいるのはパディだろう。流石に少し雰囲気が違う。こちらの彼との面識は無いらしい。
「ちょっと昔の知り合いだ。久しぶりだな」
雰囲気変わったか?
と聞かれても、私からしたら初めましてである。
「…ン?おまえグラズじゃないな。双子?」
思ったより早く異変に気がついたのね。
何故そう思うか尋ねると、なんとなく。だそうだ。
隠しても同仕様もないため今までのことを全て話す。
「本当にそんな事あるんっすか」
「でも実際起こっている事なら疑ってもしゃーねぇだろ」
ちょっと私と距離のあるパディと、ちょっといつもより丸いシャンに慣れるまで時間がかかりそうだわ。
「それで、なにを悩んでるんだ?」
「私は私の立場上、こんな事をしていいのかがわからなくて」
もし、この世界で死んでしまったらどうなってしまうのか。
もし、カメリアさんを救えなかったらどうなってしまうのか。
「でもお前は友達を救いたいんだろ?やっちまえばいいじゃん」
「シャン、時々無茶なことを簡単に言うっすよね。アホなのは毛だけにして下さい」
全くだわ。
自分がそんなにおかしなことを言っているか自覚が無いのか、何故だと戸惑っている。
そんなシャンを見て思わず声に出して笑ってしまった。
「フフッ でもそれもそうよね」
考えても仕方ない。
少なくても今は怒る人も居なければ、まだ最悪の状況でもない。
悩んでも何も始まらないわ。
「あなたは本当に変わらないわね」
片眉を潜めてるその顔も変わらない。
ちょっといつもと変わらないようで変わっているこの空間に疲れていただけかもしれない。
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