2章 泉の月

森から戻り、気になることを図書館で調べてる内にお昼休みになったため朝起きたところへ戻って…

今、エルさんという以前助けてもらった方に説教を頂いてる最中である。

ここに居てと言われて秒で出ていってしまうのも、起きたら教えてと言われて伝えないのもご立腹だそうだ。


「全くもう…」

そう言って呆れから来るため息をつく。どうやら怒りのピークは過ぎたそう。


「申し訳ございませんでした。まさかここ近辺に私物の監視カメラがあるとは想定できずに脱走してしまって」

私物の監視カメラは許可を取ってつけたのかしら?

隣に一緒にいるプラパさんは反省の色は見せずに紅茶を嗜んでいらっしゃる。


「とりあえず無事に戻ってきたし、この人それなりに強いみたいだからいいでしょ」

「結果論で言われても」

ため息を付きつつパンの袋を開ける。それを見てこっそり昼食を取り始める。



どこから来たのか

どうしてそっくりなのか

質疑応答しつつ、向こうもすでに察している様子。


「本当にそんなことあるのですね」

「実に面白い」

心做しか楽しそうである。


「泉に行ったと言っていたけれど、なにかわかった?」

「はい。泉は比較的新しくできたものだという事はわかりました。が、途中でファイが現れて調査を中断。その後は図書館で調べましたがまだ調べきれていません」


「泉か、ここ最近話題にあがるよね。突然湧いて出てきた泉」

「ただの雪解け水じゃないですか?あそこらへん緩やかな窪地ですし」

「それなら噂にはならないと思います。毎年同じ時期や大雨の日、あそこまでの水たまりができるのであれば」


「とりあえず泉がゲートの可能性があるのね」


天候によってあそこに水が溜まるとは聞かない。それなら他の要因があるはず。

湧いて出てくる泉。本当に湧き上がっているなら地殻変動かだれか掘り当てたのか。

掘り当てたならその人の名前も挙がりそうなものだ。

地殻変動といってもここ最近なにか災害などあったとは聞かない。


何がきっかけなのか

当時の記憶を順に辿る…


「そういえば今の月齢はいくつでしょうか」

揃って不思議そうな顔をするが、すぐにプラパさんは調べてくれる。

月齢は11ほど、満月が14ぐらいと考えると月が明るく感じたのは当たり前。

私の記憶では数日後に新月の細月だった。


身近過ぎて忘れがちだが月も莫大な影響力がある物体だ。


「でも月の満ち欠けなんてサイクルです。それで泉ができたとは考えられません」

「あと一つ要因があると思いますが、大きくてわかりやすい違いがなにかヒントにならないでしょうか」

あと一つが何かは重大ではある。


「そこら辺詳しいやつに聞くほうが早そうだね」

「そうですね」

そろそろ昼休みの終わるチャイムが鳴る頃。

パソコン使っていいからここから出ないように、とまた注意される。


「…」

「お返事は?」

「はい」

つい返事をしてしまいましたわ。

さすがにここで大人しくしてましょうか。





パソコンで調べたあと、息抜きのため軽くそこら辺にあった本を読み耽り…


気がついたら放課後のチャイムが鳴っていた。しばらくするとプラパさんがやってきて、泉と月の関係性や聞き込みの結果を共有し合う。

パソコンでは今彗星が飛来しているぐらいしか分からなかった事。

聞き込みでははるか昔に隕石が森へ落ちたとか落ちてないとか…。

関連性があるのか非常に疑問だわ。



そこからアフタヌーンを希望しコンビニスイーツを買い占めてしまった。通貨は同じでよかった。


「良くそんなお金あるね」

「実戦科に知り合いがいますので、その方とちょっとした小遣い稼ぎをしていますの」

我が学園は部活と別に、校区内かつ勉学に差し支えの無い範囲で内職が許されている。運び屋、情報屋、ギルドとかの名称で言われていたりする。

実際これで本当に生計を立てている学生もいると聞く。


「委員長の仕事もあるんでしょ?」

「両立できる範囲で少ししているだけです」

この学園周辺の次々に出てくる流行りのスイーツを全て嗜むための努力は惜しまないわ。



「とりあえずは月夜の森に出直すのが早そうだよね」

その通りではあるが、生憎天気予報だと明日まで雨。

どうしたものか…


科学部と掲げられた部屋、もとい朝起きた部屋の入口まで戻ってきた。

中に入ると2メートル近い青い髪の男性が居る。

生徒はもちろん先生も含め個性豊かではあるが、この2つの特徴を持つ人は一人しか知らない。彼はこっちのピースさんだろうか。


「どうしたの喧嘩屋」

私の知っているピースさんは温厚だが、少々物騒な肩書な気がする。


「エルが人質だってさ」


「はい?」

「用心棒のためにここのソファ貸してるんだよ。何してるのさ」

「寝てた」

「いや、どういうことですか」

「起きたら机の上にこれが」

筆跡的にファイだろう。

エルゼを返してほしくば外れのビルまで来い。グラズと引き換えだ。


「ん?」

「どうした?」

「エルゼさんという方、居ましたっけ」

たしかピースさんと同じクラスで、小柄で銀髪で

男性だ。


「エルのことだけど?」

思考が止まる。

そうか、もしかして性別が同じにならない可能性があるだけか


「ちなみに男だよ。これ言うと本人怒るよ」

…そうか、個性豊かな生徒も多いから

先入観は捨てなければ。




「とりあえず仕事だよ、喧嘩屋」

気を取り直して作戦を簡易に立て説明する

1護衛

2ファイの制圧

3それからのエルの救出


「眠い」

「働け、じゃないとこの部屋入れてあげないよ」

個人的な動揺を抑えつつ、コンビニで買った小さな砂糖菓子を補充してから指定の場所に向かう。



「ところで彼はなぜ私を狙うのでしょうか」

「元はこっちのグラズを狙っていたと思う」

あまり話したくない雰囲気を感じつつ、歩きながら話す。


ジョセフ博士について


彼は表向き医療科学について何個も賞を取っている偉人らしいが、裏では孤児や身請けとして差し出された子供などで実験している噂があるそう。

こっちの私はそんなモルモットの一人で心臓が目当てだろうとぼやく。


「心臓?」

「彼女の心臓は人工腎臓なの」

もちろん、博士が作った物だそう。


「ちょっと前にアイツのプライベートデータベースをハッキングしてたら、その心臓についてのデータが更新してて。またろくでもない実戦するためにグラズの心臓が必要らしい」

そんな事したらまた彼女の尊厳どころか、命までを危ういと…


また気になりすぎるワードが出てきたが

おそらく、ファイはその博士とも繋がりがありその人の指示で仕方なく動いてると考えている。


「彼とグラズの関係性は正直知らないけど、入れ違いを隠蔽するためじゃないかな」


同時に守る方法。そんな事を言っていた事を思い出す。


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