友情

第36話

「ハム、ハム、ハム...。」

大谷沙友理は食べて、

「うふふふ。」

と、ほっぺたに両手を当てて笑った。


「あんたねぇ...。」

石田絵梨花は、呆れたように、

「“ハムハム”言いながら食べてるから、

タマゴサンド食べてるのに、ハムサンド食べてるみたいよ。」

と言った。


「うーん、癖なのかなぁ…。」

沙友理は、首を傾げてから、

「うふふふ。」

また、ほっぺたに両手を当てて笑った。


━━沙友理は、無意識のうちに自分の行動に擬音を付けてしまうらしい。

あと、ほっぺたに両手を当てて笑うのも癖である。


呆れたような言い方をした絵梨花だが、そんな沙友理を見て癒されていた。


(この笑顔を守ってあげたい...

たとえ、敵味方に分かれても...)

そう、絵梨花は思っていた。


「沙友理...。」

と、絵梨花は訊いた。


「何?」

沙友理は、絵梨花を見た。


「私と一緒にいたら、徳川に潰されるかも知れないよ...。」

絵梨花は、少し間を置いて、

「徳川に付いてもいいんだよ。」

と言った。


「私は、絵梨花といるよ。」

沙友理は微笑してから、

「私の命は、絵梨花に預けたんだ...。

━━あの日から...。」

と、絵梨花を見つめた。



━━豊臣麻衣が生前の頃、麻衣が淹れた一杯のコーヒーを、絵梨花や沙友理など、役職が上の家臣達で回し飲みをして、絆を深めようという事が行われた。


しかし沙友理は、数日前に戦で顔を怪我してしまい、顔のあちこちが化膿してしまっていた。

麻衣が淹れたコーヒーが、徐々に回し飲みされて来る...。

そして、沙友理の所へコーヒーが来た。

顔中が化膿していて、自分でも気味が悪いくらいだったので、当然、他の家臣達も気味悪そうに見ていた。

沙友理は、コーヒーに顔が着かないように、飲んだ振りをしようとした...。


━━その時!!

沙友理の顔の化膿した場所から膿が落ちて、コーヒーの中に落ちてしまったのだ。

一同は、気味悪そうに見た。


沙友理は コーヒーカップを持ったまま、愕然としてしまった。

(どうしよう...)

沙友理は、泣きそうだった。


すると、

「沙友理、あとがつかえてるんだから、早くしてよね。」

絵梨花が、沙友理からコーヒーカップを奪い取って、沙友理の膿が落ちたコーヒーを、一気に全部飲み干した!!


そしてそのあと、コーヒーカップを落として割ってしまった。


すぐに絵梨花は、

「麻衣様、申し訳ございません!!

麻衣様の淹れたコーヒーが美味しくて、全部飲んでしまいました。

おまけに手を滑らせて、コーヒーカップまで割ってしまいました。

申し訳ございませんが、新しいコーヒーカップで淹れ直して頂けないでしょうか?」

と、深々と頭を下げた。


「絵梨花は、ホントに欲張りなんだから。

仕方ないわね、新しいコーヒーカップで淹れ直します。」

と麻衣は言って、新しいコーヒーカップで淹れ直して、会は無事に終了した。


━━当然、麻衣は全てを察していた。


絵梨花にしか出来ない神対応だ。

絵梨花は沙友理を守ったのだ。

あのままいけば、他の家臣達は気味悪がったり、飲まなかったり、大騒ぎしそうだったからだ。

そんな事になれば、沙友理が傷付くだろう...。

それだけは、阻止したかった。


その会が終わり、みんなが帰ったあと、

「ごめんなさい、ごめんなさい。」

沙友理は、泣きながら絵梨花に謝った。


「何で謝るの?」

と、絵梨花が訊いた。


「私の為に...あんな事を...。」

沙友理は言った。


「━━私達、親友でしょ?」

絵梨花は沙友理を見て、

「親友は...いつも一緒...。

辛い時も...ううん、辛い時にこそ、一緒にいて分かち合うの。

そうすれば、喜びは倍に、悲しみは半分になるわ。」

と言った。


沙友理は、嬉しくて大泣きした...。


━━この時、沙友理は命懸けで絵梨花を守ると決めた...。


「ありがとう。」

絵梨花は、沙友理を見て、

「良かったら沙友理の弟と、未央奈を交際させたいんだけど...。」

と言った。


「いいわよ。」

と、沙友理は答えた。


━━そして、絵梨花は真田未央奈に連絡をして、事情を説明した。



━━数日後。


大坂女学園近くのファミリーレストランで、真田未央奈と沙友理の弟、大谷大志(おおたに・たいし)は会った。

大谷大志、中学三年生。

スラリとした長身のイケメンだ。

そして、二人の交際は始まった。



━━太陽3年9月の初旬から、東軍の攻撃が始まった。

次々と西軍の学校が攻め落とされた。

徳川七瀬の軍は、絵梨花の挙兵を知って、越後の上杉ではなく、関ヶ原方面へ向かった。



━━9月14日の夜。


ついに、絵梨花と沙友理は、七瀬を討つべく、

美濃地区関ヶ原(せきがはら)に陣を構えた。


ついに、その日が来た...。

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