第5話

 そのまま始まった授業が終わると、例の転入生のもとに人が集まってくる。

 そこそこ席が離れていたにもかかわらずいの一番に刀也に絡んでくる男子が一人。


「よっ、ここに転入してくるなんて珍しいな! オレ、一ノいちのせ 聡太そうた。よろしくな?」


 そう言って短い茶髪の男子は元気に笑う。


「ちょっ、聡太速い… 御地合おちあい 美香みかだよ。よろしくねー」


 髪を肩口に切り揃えた女子は呆れたように一ノ瀬を見やる。


「君たち、がっつきすぎじゃない? 妙霧くん困ってるよ。…ああ、ぼくは護院ごいん 界人かいと。」


「…護院? 不破ふわの…?」


「まあ、そうだね。あまり気にせずに仲良くしてくれると嬉しいかな」


 結局、刀也はクラスの半数位の自己紹介を聞くこととなった。



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 昼休み、再び集まったクラスメイトに、質問責めに遭っていた。


「前までどこにいたの?」


「北東の方」


「家族は?」


「いない」


「…ご、ごめん」


「いいよ、気にしてないし」


「何でここに転入してきたの?」


「…推薦貰ったから…?」


「何故自信なさげなんだ…」


「はいはい!恋人は!?」


「いないよ」


「マジ!?」


「そういや、パートナーって決まってる?」


「…いや、決めてないかな」


「お、じゃあ何の武器得意?」


「基本的に何でも扱えるかな」


「「「おおー」」」


「めっちゃ優良物件じゃん」


「ぞ、属性は…?」


「…僕、装者と魔獣狩りするつもりはないよ。というか、誰も僕と戦いたがらないと思う。一度、装者を亡くしているから」


 刀也の答えを最後に、今までの騒がしさが噓のように静まり返る。

 また、刀也を見つめる視線にも変化が現れる。

 興味深そうな視線から、そう、碓氷に向けた視線のような。


 静寂の中で、一言、


「じゃあね」


 とだけ告げて、教室を後にした。



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 魔獣対策局、東海本部。

 乱立するビルの内、南ブロックの黄色のラインが走る建物へと足を運ぶ。

 受付の端末にカードキーをかざしてしばらく。


「あーはいはい、おお、刀也くんじゃん。もうできてて、調整も済んでるから、上がってきて」


 通信がブチ切られる。

 変わらないなあと思いながらエレベーターに乗り込む。

 扉が開いた瞬間から、


「やあやあよく来たねえ! 前のも傑作だと思っていたんだけど危険度6如きに砕かれたからね! 刀身だけじゃなくプライドもバッキバキだよ! と、いうわけで新しく造り直してみたよ! 砕けた原因は魔力の通り道として繋げた回路が脆くなっていたからみたいだ。そこで刀身の内外で圧力に差が生じて…って感じかな!」


 客室までの間でずっと喋っていた。

 めちゃくちゃ喋るこの男性は、魔力を用いた道具、通称魔道具の開発や研究、整備、点検までを幅広く行う技術開発部の部長を務めている。

 仕事はできるのだが、如何せんテンションがおかしい。

 刀也も若干引き気味である。


「…魔力込めすぎましたかね?」


「結果的にはそうなるけど、もう限界だったし、遅かれ早かれだと思うよ? むしろ試作品の段階だったのに大切に扱ってもらえて嬉しいよ。で、ここからが本題! 魔力回路もだけど、少し歪んでたり、劣化もしていたから、造り直したんだ。見てみてよ」


 1.5メートルほどのケースを開くと、一振りの刀があった。


「…魔力を纏っている…? 違うか、魔力を鉄に練り込んでいる?」


「あっはっは! すごいね! 見て気付くんだ! 流石に魔力を自然に含んだ鉱石はコストがかかり過ぎる。 溶かした鉄に大量に魔力注いでみたら良い感じになったからさ! そのまま打ってみた!」


 持ち上げ、片手で振ってみる。

 びゅん、と風を斬る音を聞いて部長は笑みを浮かべる。


「どう?」


「良いですね…あ、重心の位置変えました?」


「刀也くん身長伸びてたから、理論上は振り易い位置に再調整したんだけど…まずかった?」


「いえ、少し前と違和感を覚えただけなので。ありがとうございます」


「いえいえ、これが仕事だからね…もう行くの?」


「はい、仕事なんで」


 刀也は同じような返しをして頭を下げる。


「無理は禁物だよ? あとフィードバックよろしくー」



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 すっかり冷めたコーヒーを飲みながら、折れた刀身を眺める。

 魔道具による戦闘はあまり日本では主流ではない。

 

「結構自信あったんだけどなー。一体どんなペースで斬り続けたらこんなに消耗するんだか!」


 寝不足の目を擦りながら、研究の予定を考える。 


「部長!! 妙霧さんが来てるってマジっすか!?」


「もう帰ったよ。魔獣でも狩りに行ってるんじゃないかな?」


「ええぇぇ!! そんなあぁぁ!?」


 嘆く部下を尻目に、刀也くんは人気者だなあ、と吞気に欠伸をしながら仮眠室へと向かった。






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