第六話
「……香椎が…、拉致られた…!?」
「おい、アル、何があったんだ?」
「…実は先ほどまで私と香椎さん、そして太一さんと一緒に行動してました……。」
アルは泣きながら説明した。
今から三十分前。
「…ったくよ~!あいつのせいで俺が佐伯とバディだったのに、あいつに盗られちまった!」
香椎はいまだに加藤の参戦に納得いってなかった。
「ま、香椎さん臆病ですし、これでよかったんじゃないですか」
「どういうことだ貴様」
アルの悪態に香椎は腹を立てた。
「まあまあ、二人とも。喧嘩したところで何も変わらないから。それに、喧嘩してる場合じゃないでしょ。」
太一が二人をとがめた。
「……わかったよ太一。ひとまず俺は加藤を信じることにする。 …いけ好かねえけどなっ!」
「まあ仰る通り信じるしかないですね。 私はずっと香椎さんは兄さんのバディに相応しくないと思ってましたから」
「ひとこと余計だバカ!」
太一は二人の喧嘩にやれやれ、と思った。
「……で、お前らは稲島の動向を監視しなくていいのか?」
香椎は太一に訊いた。
「大丈夫。俺がずっとハッキングした監視カメラの映像を見てるけど、それらしい車は見当たらないよ」
「…ああ、さっきから何タブレットじろじろ見てるんだと思ったら、そういうことだったのね」
すると、タブレットの画面をのぞいたアルが何かに気づいた。
「……あれ?この高級車…」
「あっ、これはっ!稲島が毎日乗ってる車だ!」
「ついに来たようだね! 二人にも伝えないと!」
事前の計画では稲島を確認したらすぐに佐伯に通信機で伝えるとしていた。
だが、肝心の通信機が見当たらなかった。
「おい太一、通信機は?」
「あっ、しまった!あっちの部屋だ!」
「お前……、スパイとしての自覚足りてねえんじゃねぇか?」
香椎は呆れた。
「ごめんごめん!取りに行ってくるよ!」
太一がそう言って部屋を出た瞬間。
赤く光る鉄パイプが太一の頭を貫いた。
太一はそのまま全身の力が抜け、人形のようになった。
「イ……イヤァーーーーーッ!」
「た……太一ィィーーーーッ!?」
その時。扉の向こうから太一を貫いた鉄パイプを持った稲島が姿を現した。
「フハハハハハハハ! ……本当に政府の犬というものは愚かなものだ。
わしは狙われている身。影武者の一人や二人は用意してある。
……本物の俺は一週間社内から出ていない。」
そう言うと、稲島は鉄パイプから太一の体を引き剝がした。
「いや~、一週間も待った甲斐があったぜ~!おかげでバカ一人殺れたんだからよ~」
稲島はショックで茫然としているアルと香椎を見て、鉄パイプを構えた。
「……お前らもこいつと同じところに送ってやるよ。」
すると香椎がアルの前に出た。
「……させるか!」
「香椎さん!?」
香椎は稲島を威嚇した。
「やれるもんならやってみろ!この俺が相手してやる!」
すると香椎はポケットから大量の光るカラビナを取り出し、区内の要領で稲島に向かって投げた。
「……ほぉ、お前も金属眼使用者か。……だが!」
稲島は鉄パイプを回し、カラビナをすべて弾いた。
「くっ!全部弾かれたっ!」
「金属眼使用者にもピンからキリまでいるいるってこと、もちろん知ってるよなぁ?お前らはキリだ、キ・リ!」
圧倒される香椎を見て、稲島はにやりと笑った。
「……確か、あと二人、潜入してるやつがいたよなぁ…?」
「…! お前…、何するつもりだ…!」
香椎の追及を、稲島は誑かした。
「さあなぁ? しかしバカの仲間はバカだ。そんな奴らなら、今頃バカらしくくたばってんじゃねぇのかぁ?」
すると香椎の怒りは最高潮に達した。
「て…てめぇっ!」
香椎は稲島に飛びかかった。
「フフフ…、かかったな! 『パイプ・エクステンド』ォ! 」
すると鉄パイプが伸び、香椎の側頭部を削った。
「ぐはぁっ!」
「香椎さんっ!」
香椎はそのままダウンした。
「く…くそっ……うぐっ!?」
「ハハハハハ!お前はずっとそうだ!ここに潜入してる時も何か悪口を言えばすぐ感情的になってたよなぁ!?
それも今回はお仲間の悪口でプッツンしやがった!どこまでも愚かな奴め!」
立ち上がろうとした香椎を稲島は踏みつけ、そのまま吐き捨てた。
「あ…ああ……、香椎さん…!」
アルは涙が止まらなかった。
「…に…逃げろ……!」
「……えっ?」
「……いますぐ……、ここから逃げろ……!」
香椎は朦朧としたまま、アルに向かって言った。
「で…でも…!」
すると香椎の語気は強くなった。
「いいから早くッ!逃げろつったら逃げろッ!お前のそういうところが気に入らねえんだよッ!」
アルは圧倒され、香椎の言った通りどこかへ逃走した。
「オイ!待て!どこへ行く!私から逃げれると思うな…、うっ!?」
稲島はアルを追っかけようとしたものの、左足が動かない。
稲島が下を見ると、ひどい息切れをしたまま左足に抱きつく香椎の姿があった。
「へへへ……、おい稲島ぁ、俺との決着がまだついてねぇぞ……!」
「く…くそがっ! 子が調子に乗りやがってッ!」
稲島は香椎に強く鉄パイプを打ちつけた。
「ぐぅっ!」
香椎はそのまま失神した。
「…はぁ……はぁ……、くそっ、こいつのせいでさっきの女見失ってしまった!
……まあいい。二人も殺れたのは大きい。」
稲島は二人の姿を見た。
「……いや、こっちはまだ生きてるな。 …そうだ、こいつを材料にして二人もおびき出して一網打尽にしてやる…!」
そう言うと、稲島は香椎を肩に担ぎ、どこかへ行ってしまった。
アルはすぐ近くの柱の陰で、息を殺して泣いていた。
そして時間は現在に戻る。
「…そうか、つまりは太一は死んで…。」
「ごめんなさい!」
アルは大声で謝った。
「…はっ?」
それを見た佐伯は困惑した。
「私のせいで……私のせいで二人をひどい目に……!」
「おい、泣くなアル!お前は悪くない!悪いのは稲島だ!」
「……佐伯さんの言う通りっすよ。悪いのはあの犯罪者だ」
佐伯の後ろからの声がそう言った。加藤だ。
加藤は佐伯たちに背を向けて立っているため、表情はよくわからなかった。
「……だから二人とも、行きましょう。」
「行くってどこに……?」
「稲島ン所に決まってるじゃないすか。」
「!」
二人は驚き、そして加藤の言ってることに賛成できなかった。加藤が今、稲島が思った通りのことをやろうとしているからだ。
「加藤さん、ダメです! それでは稲島の思うつぼですよ!」
「そうだぞ加藤!香椎の必死の救出が無駄になってしまう!だからまた後日に……」
「じゃあ見殺しにするっていうんですかッ!」
加藤は大声で反駁した。
「……佐伯さん、俺こんな人間なんですけど、一つだけ信念があるんす。」
そう言うと、加藤は前を向いた。
加藤は鬼の形相になっていた。
「 人の命脅かした奴が笑うのがいっちゃん気分が悪いッ! 」
佐伯とアルは気押しされた。そして、彼の覚悟はあまりにも強いことも分かった。
「……だから、今!稲島をボコボコにしてきますッ!」
「お、おい!加藤!?」
すると加藤は電気柵をなんと人蹴りで破壊し、キッチン上の弁を開けた。
「……佐伯さん、止めないでくだせえ。 これも日本の治安を守る『必要な任務』なんですから……!」
加藤はそう言うと弁の中へ消えていった。
佐伯とアルは固まったまま何も言えなかった。
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