オアシスの鏡
つだ いかみ
第1話
初めて歩く桃色の通学路。桜の花びらがぶかぶかの紺色のブレザーのもとに舞い降りる。学校の校門には太い字で「
ついに私も中学生デビューか。
周りには同じ小学校だった子達がちらちらと散見される。皆だいぶ印象変わったなぁ、ただでさえ制服着るだけでも随分お兄さんお姉さんに見えるのに、女子なんかは位置高めのポニーテールとか編み込みとかいっちょ前におしゃれをしている。
私は楽だからって理由で小学校からずっとベリーショートで貫いてるんだけど、こういうのを見てみると中学生デビューに合わせて他の髪型に挑戦してみるのもよかったかな。まあ、バスケ部に入りたいから当分髪は伸ばさないだろうけど。
さて、いつまでも一人で初々しい空気を味わい続けるわけにはいかない。誰か知ってる子いないかなって辺りを見回していると。
「おはようアサちゃん!」
明るい声のした方向に振り向くとふんわりとした黒髪のボブの女の子がこちらに向かって走っていた。私は彼女に大きく手を振りながら、おはよー! って大きく挨拶を返した。
この子とはすっかりいつメンになったわね。とは言っても仲良くなったのはほんの1年ぐらい前のことなんだけど。
★ ★ ★
「あさひ! ドッジしよ!」
「ごめん、運営委員会の会議があるんだ!」
運営委員会、その内六年の委員が所属する児童会。今から児童会の役割を決める大事な会議がある。私は、前々から絶対に児童会長になるって心から決めていた。
うちの学校において、児童会長はよくある全校生徒による選挙……ってほどの大掛かりなイベントを立ち上げてまで決めるものではない。運営委員会に所属する6年生で一回集まり、その中の話し合いで各々の役割を決めていく。そしてその運命の日が今日。
「そっか、あさひ児童会長になるんだもんね! 絶対あさひで確定っしょ!」
友人が肘で私の腕を小突く。私は勢いよく、うん! ってうなづきたかったんだけどそうもいかない。苦笑いをしながら首を横に振った。
「運営委員会に入る子って私みたいに全校を引っ張りたいって子が多いだろうしどうなるか分かんないよね」
私の学校の六年は三クラスあり、運営委員会はクラスから二人ずつ選ばれる。イベントを運営したり全校集会の進行をしたりと人前で立つ仕事が多いためか、基本的に人を引っ張れるしっかりした子が入ってる印象。
まあ例外なんだろうけど、私のクラスでは運営委員会人気なさ過ぎて、もう一人の委員の子はジャン負けでしぶしぶ入った感じなんだけどね。そんなメンツでちゃんとなれるか疑問って感じ。
その中でも特に警戒している人物が隣のクラスにいる。
私もよく学級委員になるから会議の時に見かけたことはあるけどしゃべる機会は一度もなかったから中身までは知らない。ただ、優しそうな笑顔でしっかりしたしゃべりをするからさすが沢山リーダーになるだけあるなってのは遠目から見ても分かる。
私って、結構はっきり言うから、男女関係なくよく口論しちゃうの。実はそれで一部からブーイングされている。そんな私と優しそうな裕美ちゃんが並んだら、そりゃ裕美ちゃんの方が人気ありそうじゃん。いやー無事慣れるのかな。
そう心配していたところだけど、実際に話し合いが始まって児童会長に立候補したのは私だけだったの。よっしゃーほぼ確じゃんって思いっきり歓声をあげたい気持ちと、え、みんなそんなものなのって戸惑う気持ちが同時に現れる。今真剣に真顔作ってるけど大丈夫かな、変な顔になってないかな。
「亀山でいいか?」
担当の山畑先生が他の委員の顔を見回す。その時、真っ先に裕美ちゃんが深く頷いたの。
「亀山さんが児童会長にふさわしいと思います」
思わず、えっ、て言っちゃったんだよね。彼女も何回もリーダーになったことあって児童会長になる風格は十分あるのに、自分はならずにあっさり賛成してくれるなんて。しかもその発言でほかの委員もうんうんと頷きだして、私はあっさり児童会長になっちゃった。
話し合いが終わり、私と裕美ちゃんは一緒に教室へと足を運んでいた。
「あさひちゃんが児童会長になってよかったよ!」
くりくりした目をクシャっとさせながら嬉しいことを言ってくれる裕美ちゃんはみんなの推薦により副児童会長になった。
「裕美ちゃんは児童会長にならなくてよかったの?せっかく運営委員会に入ってるのに」
「うん、児童会長になりたかったわけじゃないから」
意外だった。この子いっぱいリーダーになってる割には覇気ないのね。雰囲気は違うけど私と同じ人種なのかなって勝手に思ってたんだけど。
「裕美ちゃんってなんで運営委員会に入ったの?」
「な、なんとなく?」
明るく笑いながら答えてくれたけど、うーん、なんだか歯切れが悪い。特に入りたい委員会がなかったってことかな。でも、こんな目立つ委員会になんとなくで普通入るもの? でもまともにしゃべったのこれが初めてだし、特に詮索はしなかった。
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