第45話

結局、オデット、マクシミリアン、それにマルセロたち騎士団の護衛数名は聖堂から地下迷宮に下り、ユリウスとサンドラの捜索をはじめた。

 回廊は頻繁に揺れるので、同行した騎士達には、その度に不安の声をあげる者もいた。

 そんな中、案内役のオデットは先頭をきって黙々と進んで行く。怖くないわけではない。ただ、頼る相手もいないので覚悟を決めただけだ。


「こっちだ」


 道が分かれていても、オデットは迷わなかった。


「なぜわかる?」

「はっきり声が聞こえる。わたくしを呼んでいるから。この身に流れる血のせいだ……クナイシュの乙女から連なる血が糧となり、大地に加護が与えられるそうだ」


 もはや隠し立てても仕方ないと、オデットは歩きながら知っていることを話した。

 この時になってようやくそう思えたのは、本当は誰かに自分のことをしっておいて欲しかったからかもしれない。


「その血を絶やすために、お前の父親は娘に呪いをかけたのか?」

「そうだ。皇女の生まれながらの定めを断ち切るため。私が生まれたときに父が決めた。父と私がどういう終わりを迎えるのがよいのかは決めかねていたが」


 血脈以外から後継者を迎え入れる。それが一番穏便に次代に繋ぐ方法だったが、真実を明らかにせずに別の統治者を選ぶのは困難だった。どうすべきか模索している間に、この嵐のような男が現れ、あっさりとすべてを変えてしまった。


「地下迷宮のことは、このまま朽ちて自然に忘れさられればよいと思っていたのだが、どうやら神は許してはくれないようだ。前に犠牲になった皇女は、わたくしが生まれる前……父の妹だった。それから二十年以上放置されているから、今はさぞかし腹をすかしているのだろう」

「ユリウスは、この地下を完全に封じたいと言っていたぞ。俺もそれに概ね同意した。俺は魔術のようなあやふやなものに頼って国を治めたくはないからな」

「そうか……」

 

 こんな形になってしまったが、結果として父の意志が受け継がれていくことがせめてもの救いだ。 

 しかしユリウスは、どこまで知って地下を封じると言ったのだろうか。オデットの胸がじんと痛んだその時、どんと突き上げるような大きな音がし、直後に地面が今まで以上に大きく揺れた。


「危ない!」

 

 誰かが叫んだ。

 壁や天井がみるみるうちに崩れていく。反射的に、崩れる壁を避けて転がると、目の前が瓦礫で塞がれた。


「オデット、無事か?」


 マクシミリアンの声が瓦礫の向う側からする。通路は完全に塞がり、オデットは一人迷宮の奥に取り残されてしまった。


「少し待っていろ。今、瓦礫をどかす」

「無理だろう。……迎えがきてしまったようだ。お前達はもう地上に上がれ。きっともうすぐ地震はおさまる」

 

 いつの間にか、オデットのすぐ後ろにはサンドラがいた。楽しそうにくすくすと笑って。

 

「待っていたわよ。待ちくたびれてしまったわ。さあ行きましょう」


 身体が勝手に動き出す。オデットが転んでも、ずりずりと引っ張られる。自分の意志とは無関係に、オデットを呼ぶ声のする方に動いてしまう。

 サンドラは、オデットに触れてすらいない。ただ悠然と前を歩きながら、奥にある扉に手をかけた。

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