第32話
「オデット……大丈夫ですか?」
馬車の外から、呼びかけられる。ユリウスの声だ。
オデットはその声に反応し、無意識に立ち上がり馬車から飛び出した。銀色の髪が目に入ると、迷わずそこにいた人物に抱きつく。
「もう大丈夫ですよ」
力強く抱きとめてくれたことに安心する。
「ちっとも大丈夫ではない」
「敵はすべて捕らえましたから」
オデットは、ユリウスの胸に顔を埋めながら、周囲がどうなっているのか耳の神経をとがらせた。敵の数が「すべて」とユリウスが言う程の人数だったのなら、一人で応戦できるはずもないし、捕らえて油断したらまた襲われるかもしれない。
今、オデットの周りでは、自分達以外の誰かがせわしなく動き回っているようだ。たくさんの足音がしている。ユリウスが警戒していないということは、彼の味方なのだろう。
「ユリウス、宮殿に戻るか?」
野太い声の主が、ユリウスに話しかけてきた。
「今取り込み中なので、無理です。申し訳ありませんが、あとの処理は団長にお任せします」
「そんな勝手が許されるとでも?」
「こちらは結婚休暇返上で仕事をしているのですが」
想像以上にたくさんの護衛、しかもユリウスの上司らしい人物までいることに気付いて、オデットは狼狽えた。人前で醜態をさらしてしまっている。
あわてたオデットは、ユリウスから離れようとしたが、逆に強く引き戻されてしまう。
「危ないですよ、じっとしていてください」
ユリウスが上司をなんとか言いくるめ、オデットを抱えて馬車に戻るまでの間、恥ずかしすぎても泣けてくるのだと知った。
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